091・成美さんの観察能力は恐ろしい
「はう!?ぜ、全然嫌じゃないですよ!む、寧ろウェルカムですっ!」
成美の見せる悲しそうに俯く姿を見て、俺は慌てて首を左右に何度もブルブルと大きく振る。
「な、ならオッケーという事でオッケーなのねっ!」
そんな俺の言葉を聞き、しょんぼりしていた顔を明るい笑顔へと成美が変えていく。
「デ、デートの件はさっき言った通りウェルカムですけれども.....た、ただね、今度の日曜日は貯まりに貯まった読んでいないマンガ本を読んだり、しばらく続きをやってなかったゲームをやりたいなぁ~って、思っていてさ......」
別にデートは吝かではないのだが、今週の日曜日は五年半振りにやるつもりだった予定を苦笑いを交えつつ成美に説明していく。
だが、
「ほほぉぉ~~~~うっ!メス豚二人とはデートが出来ても私とのデートは出来ないと?」
成美は威圧の込もった口調と、ご機嫌斜めというジト目で俺を睨む。
ちょっ!?
な、成美さん!?
亜依子や心愛の事をメス豚ってっ!?
「......それに私とのデートはマンガ本やゲーム、そしてメス豚の二人よりも劣る存在って訳か......ハァ~悲しいなぁ~。めっちゃ落ち込んじゃうなぁ~」
成美や額に手を軽く当てて、やれやれとばかりに嘆息を口から吐く。
そして軽く一呼吸した後、哀しげな表情を俺にスッと向けると、
「とてもお兄ちゃんから悲しい事を言われてしまった私は、しばらくの間、お兄ちゃんとのハグは一切合切、禁止の方向でいかせてもらい―――」
「―――な、なんちゃってっ!ウッソでぇぇえすっ!!自分、成美さんとデート、めっちゃご所望ご希望でぇぇぇええすっ!!」
成美から放たれる最終兵器出に、俺は速攻即座に先程の言葉を撤回する。
「本当に?心から私とデートがしたいの?」
「む、無論であります!心の底からお兄ちゃんは成美さんとデートがしたいでありますっ!是ともデートをやらせて下さいませぇぇえっ!!」
俺は成美にそう言い終わると、完璧でキレイな敬礼ポーズをビシッと取る。
「そっかそっか!どうしても私とデートしたいか♪それじゃあ仕方がないな♪私とのデート、許可してあげようぞ♪」
「ははあ!ありがたき幸せに御座いますうぅぅぅうっ!!」
俺はそう言うと同時に、その場に深々と平伏した。
「うむ!ではお兄ちゃん!来週の日曜日、楽しみにしているからねぇ~♪」
成美が俺の態度と言葉に満足すると、ご機嫌な全開の表情で元居たリビング部屋へ軽い足取りで戻って行った。
......ふう、
ホントビックリだぜ。
まさか匂いで理緒さんや亜依子達に勘付くとはな。
「成美の奴め、何という鋭い観察能力をしていやがるんだ......」
この観察能力、アキラ達レベルじゃんか。
そうあれは、
羽目を外そうと深夜こっそりと繁華街に抜け出そうとした時や、酒場で意気投合した女性と一緒にその場をこっそりと抜け出そうとした時に何故か決まってあいつらから先回りをしていてさ、
そしてその度、あいつらから勇者たる者はなんたらかんたらと気が遠くなる長い説教と小言を延々と食らっていた。
くそ!
なぁ~~にが、勇者たる者だ!
俺だってな!たまには女性からちやほやされたいっての!
それの何が悪いっていうんだよっ!
......って、あいつらに不満爆発で怒った時があったんだが、
しかし俺の熱意なる思いは全く通じることなく、
それどころか、いつもの数倍以上の説教と小言を返ってくる始末。
「本当に解せぬ.........」
俺はやることなすこと...特に女性関連の全てがアキラ達にお見通しの包抜けだった事に、マジで納得いかないという表情をこぼす。
「しっかしこっちの世界に帰って来たらしばらく戦いから離れ、陰キャラスローライフを満悦する予定だったのにな......」
だがしかしそれが全く成されていない事に対し、俺は思わず深い溜め息が口からこぼれそうになってしまう。
「まぁいい。今日は疲れたんで御飯を食べて風呂に入った後、さっさと就寝するとしますか......」
疲れきった思考でグーグーと鳴っているお腹を押さえつつそう呟くと、俺は晩御飯を食べるべくダイニングルームへと歩いて行く。