089・妹のお怒り
ゲーセンで亜依子と心愛のふたりと別れた後、俺はどこにも寄らず家に真っ直ぐ帰った。
「ただいま~!」
そして玄関のドアをガチャリと開けてそう言うと家の中に入る。
「ふう、今日は色々あってマジで疲れたな......」
そして心労の溜まった嘆息を吐きながら腰を玄関の床へゆっくり落とすと、靴を脱いでいく。
しかし陰キャラの俺にはホント、キツい1日だったな。
特に理緒さんと亜依子達との会話。
産まれてこのかた、女性とのコミュニケーションが元カノの恵美くらいしか...家族はノーカン...な陰キャラには、会話のキャッチボールが中々しんどかったぜ。
でもあっちの世界でサクラやユカリ、そして出会った様々な女性陣と会話をしていたお陰もあって、何とかぐだぐだな会話にならないで済んだよ。
五年近くもあんな超が付く程の美人のサクラとユカリ、そして王女様やエルフ達と交流していれば、流石の陰キャラでも会話コミュニケーションスキルも上がるってもんだ。
こっちにいた時は違って、あまりキョドらずに理緒さんや亜依子達と上手く会話が出来ていた事に安堵していると、
「ああ!お兄ちゃん、やっと帰ってたのねっ!」
俺の帰りに気付いた成美がリビング部屋から出て、こっちに向かってスタタと駆けて来た。
「随分と遅かったわね、お兄ちゃん?一体今までどこをほっつき歩いていたのかしら?もうとっくに七時を過ぎているんですけど?」
そしてお帰りの挨拶のなく、かなりご立腹な表情で俺を睨んでくる。
「はは、ゴメン。ちょっと放課後の帰りにさ、友達から誘われてマドサイとゲーセンに行ってたんだよ」
「はぁあ?ぼっちのお兄ちゃんが友達とゲーセンに?うっそだぁあ~っ!」
そんなお怒りモードの成美に、俺は今まで何をやっていたのかを話すと、疑いの眼差しを見せてくる。
「し、失敬な妹だな、おい!俺にだってなぁ、友達くらいは居る......って、ちょ?な、成美さん?俺に鼻を近づけて何をしているいらっしゃるのかな?」
疑ってくる成美に俺が反論しようとしたその瞬間、成美が俺の身体に顔をスッと近づけてクンクンと匂いを嗅ぎ始めた。
「クン、クンクン、クンクン.......ハッ!?こ、これは!?お、女の匂いっ!?し、しかも三人...だとっ!?」
そしてその匂いの正体に気付いた成美が、目を大きく見開いて驚愕といわん表情をしながら後ずさって行く。
「ん?さ、三人?」
ああ!り、理緒さんの事かぁっ!
っていうか、理緒さんと最後に接触したのって昼間なんですけど!?
そんな前の匂いも嗅ぎ付けられるの、成美さんっ!?
「この女共の匂い。一体どういう経緯で付いたのかな、お兄ちゃん?確かさっき友達とか言っていたけど...その友達ってのがこの女どもなの?」
眼光鋭い成美が、俺にグイグイと迫る様に訊問をしていく。
「え、えっと...ま、まぁ確かに女と言われれば女ですけれども、でもただの友達だぞ?」
「ほう?相手を腕にギュッと抱き付かれたり、相手を後ろから抱き締めたりしているのに?」
「はうぅぅうう!な、なな、何でそんな事が分かんのさぁっ!!?」
今日起こった出来事が成美に全部モロバレな事に、俺は嘘だろという表情でめちゃくちゃ狼狽えてしまう。
「よくお聞きなさい、お兄ちゃん。ここまで距離感の近し間柄の女性をね、世間一般ではただの友達枠としては数えないんですよっ!」
成美が人差し指を俺の額近くにビシッと突き出して、熱くそう語ってくる。
「そ、そっかな?な、中にはいるんじゃなかろうか?そ、そういった近しい間柄の友達もさ?」
そんな成美に抵抗するものの、
「......んじゃあ逆に聞くけど、お兄ちゃんはそういう場面を見て、その連中をただの友達関係だと思えちゃうの?」
「うぐ!そ、それはっ!?」
そ、そんな場面、もし目の当たりにしたら......
『クソが!死ねばいいのに、このリヤ充共がぁぁあぁああっ!!!』
「......って、恨みを込めた目線と表情でぼやく自信は絶対にあるっ!!」
俺の内なる心が、俺の否定を否定する。
「でしょ。んでもって、わたしが友達と言い切る男性とそんな感じになっている場面を見ても、お兄ちゃんはただの友達の戯れとして処理出来るのかしら?」
「―――なぅっ!?」
お、俺のマイエンジェル成美とどこぞの馬の骨野郎とがイチャイチャ...だとっ!!?
いやでもそいつは友達で......彼氏じゃない......だ、だったら......別に......いい.........
「――――いいわけあるかぁぁぁぁあぁぁぁぁあああっ!!!」
成美と見知らぬ友達男が亜依子や心愛みたいな事をしている姿を想像した瞬間、俺は叫声を荒らげる。