077・初めてのモテ期
え?
何?この可愛い仕草!?
こ、こいつら、何か可愛くね?
......翌々考えてみたら、
こいつらからはいつもジト目や蔑んだ目の顔でしか見られた事がなかったからな。
でもこいつらは紛れもない、クラスのカーストトップ。
普通に接してくれば、そりゃ可愛いくて当然ちゃ当然か。
しかしそんな連中から両手に花を食らうなんて......
「......何だ、この状況は!?」
―――ハッ!?
こ、これはもしかして、初めてのモテ期がキタ――――ッ!!
「ってやつかっ!?」
俺は陰キャラには全く無縁だったこのモテモテな状態に、胸が高鳴ってちょっと...いや、かなりドキドキしていた。
以前も理緒さんやこの二人みたいに、あっちの世界で魔物や盗賊、そしてイケスカない連中どもから、女性を助けた事は多々あった。
がしかし、
いくらこんな風に女性を助けても、結局アキラの野郎がお礼や感謝も全て掻っ攫っていきやがるんだよなぁ。
勇者仲間であるサクラとユカリの二人もまた、
「お前は空気を読めっ!」
ってな感じで、アキラと俺の間に仁王立ちで邪魔をして、助けた女性から俺を遠ざけようとしやがってよ。
助けたのは俺だっていうのにさ。
そりゃ陰キャラの俺なんかよりも、爽やかイケメンのアキラが
助けたって事にして置いた方が絵にもなるし、勇者に対する好感度もグンと上がるだろうさ。
後々の勇者としての行動を踏まえたら、
そっちの方が確実に有効で得策だろう。
俺に引っ込めと促した、サクラ達のとった行為も正しいと思う。
俺も正直そう思うし。
思うんだけど......さ。
俺だって男だ。
やっぱ女性から尊敬されたり、ちやほやされたり、憧れの眼差しをめっちゃ受けたいじゃんさっ!
俺の手柄をアキラの功績にしたり、ユカリ達のとった行動は勇者として市民から認められる為にも欠かせない、重要で正しい行為だったのかもしれない。
けど俺の奥底にある気持ちは納得していなかったのだろう、
その証拠といわんばかりに、俺の表情はその事を思い出す度、不貞腐れ全開の表情へみるみる変わっていくのだから。
「え!?ど、ど、どうしたの、朔夜?そんな訝しむ顔をしちゃって!?」
「も、もしかして朔夜くん。こうされるのが嫌だった...し?」
そんな俺の不貞腐れた顔を見て、自分達の行動のせいだと勘違いした亜依子と心愛が、戸惑いと不安からオロオロしてしまう。
「―――おっと、ゴメン。何か勘違いさせちゃったみたいだね。別にふたりに抱き付かれて嫌だなんて気持ちはちっともないから。ただ突然ふたりから抱き付かれたビックリと緊張の表情が、訝しんでいる顔に見えちゃっただけだから!」
「そ、そっか。それならよかったよ!」
「うん。あーしも安心したしぃ~♪」
誤解が解けた亜依子と心愛の二人は、安堵でホッとした顔になる。
「では安心した所で、そろそろマドサイに行こうか?こいつらのせいで精神が疲れたのか、何かお腹が空いてきちゃったよ!」
「賛成!あーしのお腹ちゃんも、早くストレス解消に甘味さんを食べさせろやって、さっきから煩いしぃ~!」
亜依子の呼び掛けに心愛と俺は軽く頷くと、マドサイのある場所へと歩いて行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「い、意外に近い場所にあったな、マドサイ......」
俺は歩くこと、三分足らずで辿り着いたマドサイを見てそう呟く。
「何をそんな所でボッとしているの、朔夜?ほら、中に入るわよ!」
「くふふ~♪デザート、デザート、甘味さ~~ん♪」
「ちょっと、お二人さん!そんな力強く押さないでぇぇえ!?こ、転んじゃう!その勢いだと、俺転んじゃうからっ!っていうか、自分の足で歩くから~~っ!!」
マドサイを見ていた俺の背中を、亜依子と心愛が両手で強くグイッと押すと、そのままマドサイの中へと入って行く。