076・マドサイの無料チケット
「くふふ♪そうそう、光野くんがあーしの事を名前で呼んでくれるってんなら、あーしも今から光野くんじゃなく名前の朔夜の方で呼ばせてもらわなきゃいけないよね~♪ってな訳で、今後からは名前の方で呼ぶからねぇ~朔夜くん♪」
「ちょ!?ズ、ズルいぞ心愛ぁ!わ、わたしも!わたしもこれからはあんたの事は光野じゃなく、朔夜って呼ばせてもらうからね!きょ、拒否権はないんだからねぇっ!」
心愛はニシシと笑い、そして亜依子は少しテレを見せつつも俺の事を名前で呼んでくる。
「コホン!さて、お互いに名前呼びすると決まった所で、ちょいと気になっていた事があるんだけど、朔夜は何でこんな路地裏を彷徨いていたの?」
「あ!もしかして迷子ちゃんか?」
「――ギクッ!」
「どうやら図星みたいだね......」
「うん。図星みたいだねぇ......」
俺の表情を見て、亜希子と心愛がそう判断する。
「あ~でも朔夜ってさぁ、確か最新式のスマホを持っていなかったっけ?あれには自分の位置を教えてくれるアプリや、行きたい場所の道案内をしてくれるアプリが搭載したあったと思うんだけど?」
「へっ!」
あああぁぁあっ!
そ、そうだったぁぁぁぁあぁあっ!?
携帯電話にそんな機能があった事をスッキリ忘れていたっ!!
「はは。そういう抜けているとこは、いつものあんたらしいねぇ♪」
「ホントだよね~抜けているといえば、さっきもあーしらが話し掛けてやっとあーしらだって気付いたみたいだし!」
「あんだけ毎日わたしらと接しておいて気付かないんだもの、地味にショックだったなぁ~」
心愛と亜希子の二人が自分に気付いていなかった事に、ちょっと不満に思っていたのか、ジト目の表情でこっちを見てくる。
「はは...そ、それは素直にゴメン...です。本当にすいません......」
だって陰キャラにはギャルの後ろ姿って、どいつもこいつも基本みんな一緒にしか見えないので。
「ふむ。心から謝っているようだし許してあげよう!で、話は戻るけど、朔夜はどこに行こうとして迷子になっていたの?」
「えっと、実は......」
俺は二人に行こうとしていた目的地を話す。
「ほうほう。マドサイに......かぁ。なら、丁度良かったよ♪」
亜依子はそう言うと、胸ポケットから数枚のチケットらしきものをスッと取り出す。
「ん?それは?」
「これはね、マドサイの無料チケット。で、この無料チケットを使うべく心愛と古島でマドサイにレッツラゴーしていた途中、こいつらから強姦紛いの強引なナンパを食らっちゃったって訳なんよ!」
亜依子がそう言うと、ロープでグルグル巻きにされている三人の不良を心から蔑んだ目で見る。
「わたし達をこいつらから助けてくれたお礼に、この無料チケットを朔夜にあげるね、ほいどうぞぉ♪」
亜依子はそう言うと、三枚あるチケットから一枚抜き取って俺に手渡してくる。
「む、無料チケット......無料って事はさ。いくら食べても無料...って事か?」
「そりゃ~無料チケットだからねぇ!」
「マ、マジでか!こんな良い物、ほ、本当に貰ちゃってもいいのっ!?」
「どうぞどうぞ、遠慮なく貰えし♪」
「って、お前が言うな!...コホン!勿論、キミへのお礼なんだから遠慮なく貰ってくれっ!助けてくれたお礼としては少ないと思うけどさぁ!」
「いやいや!そんな事ないよ。とっても嬉しいよ!サンキュな、亜依子♪」
俺は無料チケットを両手で天に掲げて喜びでクルクルその場を回る。
「はは、喜んでくれてなによりだ♪それじゃ朔夜、改めてマドサイにレッツラゴーと行こうかぁ~♪」
亜依子が笑顔でそう言った後、俺の腕にギュッと抱きついてきた。
「――な!?」
「ああ!ズッコイぞ、亜依子~!あーしはこっちの腕っと♪」
「――はう!?」
亜依子の大胆な行動に、心愛がムムッとした表情で負けじばかりに俺の左の腕にギュッと抱きついてくる。
「ち、ちょっと!?あ、亜依子さん!こ、心愛さん!?」
「こら!さん付けはなしって言ったよねぇ?」
「言ったし!」
俺のさん付けを聞き、亜依子と心愛が可愛くムッとする。