071・アタシのせいじゃなく、ボンクラ女神のせいだから!
―――時は遡り。
―――桜が理緒を見送った後の桜視点。
「ふう、やれやれ。相変わらず恋バナには目がない子だね......」
さて、それよりも......っと。
「この町にくるのは、ホント久方ぶりだな~」
アタシは周囲をキョロキョロと見渡す。
確かここに来たのは、半年くらい前だよね?
あの時は任務遂行の為とはいえ、あいつにはホント悪い事をしたよ。
「でもそれもこれも全部、あいつの為を思えばこそってやつなんだっ!そ、それにさ、あいつもあの情報を早く知った方が、きっと傷付くのも浅くて済む訳だし......」
......でもあいつ、あの情報が原因でトラックに跳ねられちゃうんだよな。
「く!だ、だとしてもだ!あ、あいつがいなかったら、あの世界は確実に救えてなかったってボンクラ女神が言っていたし...だ、だからこの行為は必要悪だったんだよ!」
それにそれに、あの情報を流せって命令したのはアタシを勇者に選んだあのボンクラ女神だしっ!
だ、だからね、
非難されるべき人物はアタシ達じゃなく、あのボンクラ女神だと思うんだよっ!
「だってあのボンクラ女神、言う事を聞かなければアタシ達の記憶からあいつの記憶を全て消すって、脅しを入れてくるんだもんさ!」
そんな事されるのは絶対に嫌だったし、
なら動かない訳にはいかないじゃんかさ!
それにこの任務をもし放棄したら、あいつとの出逢いフラグが折れ、自分が動かすともアタシ達の記憶からあいつの存在が消えるってあのボンクラ女神が言うんだもの。
「そんなの絶対に嫌だよ!あいつの事を忘れる未来なんて、あいつがいない未来なんて、んなもん考えたくもないし、真っ平ゴメンだっ!」
もしそんな事になってしまったら、死んだ方がまだマシだよっ!
「......ってな訳だから、アタシを恨まないでね!恨むんだったらアタシじゃなく、あのボンクラ女神なんだからねっ!」
そもそも、あんたの町で『あの噂』をバラ蒔いたのはアタシじゃなく、あのボンクラ女神だからさっ!
そう...この町であの噂を流した諸悪の根源は、あのボンクラ女神の奴で、あいつがスキルを使ってやったこと。
アタシはその手伝いを強制的にやらされただけ。
「それにこれは言い訳になっちゃうけど、ボンクラ女神がこの町で流した噂って、別に嘘の情報を流したって訳じゃない。悲しいけどあいつの彼女の浮気は嘘偽りのない、真実無妄な情報だったんだ......」
......それでもあんたがアタシを許さないって言うんだったら、アタシ何でもするよ!
土下座でも、なんなら裸土下座でもっ!
だからお願い、アタシを寛容な心で許してやって下さいっ!
アタシはあいつから恨まれたくないので、あいつの気が晴れるならなんでもやると、天を大きく仰ぐ。
「......でもそっか。あれからもう半年が経つんだね?っていう事はさ、そろそろあいつがこっちに帰還する時期って事か?あ、それとももう既にこっちの世界に帰還しているのかな?」
あのボンクラ女神がこっちの世界に帰還する際、召喚された時間に近い時間に戻るって説明をしていたけれども、
でもタイムリープの間隔は人それぞれで違うらしい。
少なくて数分前、
最大で数時間くらい前の時間に戻るって言っていたっけ?
因みにアタシがあっちの世界に召喚された時間は今から約一年前で、そして帰還した時間は、召喚されたその時間よりも十分前だった。
「もしあいつがこっちの世界に帰還しているんだったら、あの『二人』がこっちの世界に帰還する前にあいつに逢っておきたいな......」
っていうか、思いっきりあの二人を出し抜いてリードしたいっ!
でもそれをやっちゃったら、あの二人確実にめちゃくちゃ怒るよねぇ?
全員こっちの世界に帰ってきてから、よーいドンだかねって約束したもんな。
「それなのにその約束を破ろうものなら、あいつら確実にめちゃくちゃキレるだろうし、その結果この国が滅びかねん......」
「......いや、百パーセント滅びるな!」
そんなもしもの状況を想像したアタシは、口から苦笑いが思わずこぼれる。
「ま、そうなったら厄介なんで、あいつに逢いたいというこの気持ちは胸にグッと秘めておき、今は我慢すると致しますか......」
そして三人が無事、こっちの世界に帰還した暁には改めて勝負だっ!
......あ~でも、ハプニングであいつと接触してしまったら.....
「......流石にそれはいいよね?」
だって出逢ってんのにそれを無視したり、反古にしたりしてあいつに嫌われでもしたら本末転倒だもの。
「......そんな訳なので、もしもあいつと予期せぬ出逢いをしちゃったら、それはしょうがないんで許してよね、お二人さん♪」
アタシはまだここにはいないライバル達に、言い訳がましいお詫びを取り敢えずしておくのだった。