070・最強なるパラダイス
「な!授業開始のチャイムが鳴りやがったっ!?くそ~華宮さんの事をまだ何ひとつ聞いていないというのにぃ~っ!五時限目と六時限目は連続授業で休み時間がちょこっとしかないし......ち、仕方がない!華宮さんの事は放課後、改めて聞かせてもらうからな!いいな光野っ!」
授業開始のチャイムのせいで聞きたかった事を聞けなかった隅田が一方的で勝手な約束を俺に取り付けると、午後の授業の準備を始める。
「お、おい隅田!俺は話すとはひと言も言っていない―――」
―――ガラガラ。
「さぁ~楽しい午後の授業を始めるぞぉ~?みんな席にちゃんと着いてるかな~?」
俺が勝手に約束する隅田に対して一言文句を言おうとした瞬間、教室のドアがガラッと開き、午後の授業担当の教師が教室に入ってきた。
「まだ自分の席に着いていない生徒がチラホラいるみたいだな?ほ~れ、さっさと自分の席に戻って授業の準備を始めなさ~いっ!」
そして午後担当の教師が教卓を教科書でバンバンと叩き、未だに自分の席に着いていない生徒に向かって軽い注意をすると、教科書を静かにパラッと開いて午後の授業を開始する。
「く、ちゃんと断れなかった!理緒さんの説明は色々と面倒くさいっていうのに......」
だがこいつのこの強引な感じ、何かちょっと懐かしいな。
俺は久しぶりに合った隅田に対し、呆れると同時に懐かしさも込み上がってきて、思わず口から苦笑いがこぼれ出す。
―――そしてそれから、あっという間に五時間目と六時間目は過ぎ去っていき、放課後の時間がやって来た。
「うっしゃっ!今日の授業もお掃除も無事終了っと!そんじゃ光野っ!華宮さんの話しをジックリ詳しく聞きたいから、寛ぐのに最適な場所、マドサイにレッツゴーするぞっ!」
「だ~か~ら、俺は話すとはまだ言っていないんだが―――って!?」
マ、マドサイ!?マドサイ......だとっ!?」
―――マドサイ。
正式名称『マドリーナ・サイジョウ』。
日本のみならず、世界中のみんなから愛されているジャンクフード店である。
様々な種類のハンバーガーを中心に、様々な揚げ物類、また様々な種類の飲み物が置いてあり、
そして尚且つ、財布にも優しい値段設定で、金のない学生にとって、ここは最強なるジャンクフード店なのだ。
「ハ、ハンバーガー!熱々ジューシー唐揚げ!そしてカリカリのポテトッ!」
......ゴク。
あちらの世界にも、それらしい食べ物や飲み物は確かにあった。
あったんだが、
しかしこのマドサイの物にはどれこれも一段も二段も下回った味で、勝てる物はひとつもなかった。
......そっか。
五年半ぶりのマドサイかぁっ!
正直、理緒さんの事を話すとボロが出そうなので、隅田の奴を途中で撒く気満々だったんだが、こいつは予定を変更だぜっ!
「くくく!食べてやるっ!とことん食べて捲ってやるぞっ!!俺が来るまでそこで大人しく待っているがいいっ!俺のハンバーガー達!そして、カリッカリのポテトよぉぉぉぉぉぉおおっ!!」
「ちょっ!テンション高ぇーな、おい!そんなに食いたかったのかよっ!?...って、速い速い!俺を置いていくんじゃねぇぇぇえ~~っ!!」
俺が猛ダッシュで教室を出てマドサイへと駆けて行くと、隅田も慌ててカバンを手に持ち、そして急ぎ足で俺の後を追いかけて行く。