068・華宮理緒
ふう...『窮地に陥った時は取り敢えず土下座だっ!』が効いて
本当に良かったぜ。
土下座はあいつらにもそこそこ通じていたしな。
危機一髪だった難を逃れ、安堵でホッとしていると、
「コ、コホンッ!で、では改めて私の自己紹介をしますね。私の名前は華宮、華宮理緒っていいます。今度はちゃんと忘れず、記憶に留めておいて下さいね!」
目の前の女子生徒...華宮さんが俺の方に顔を向けて、生徒手帳をポケットから取り出し、そして忘れるなと言わんばかりに自分の名前が記載されているページを見せてきた。
「は、華宮...理緒さんだね?うん、分かった。次からはちゃんと忘れずに覚えておくよ、華宮さん!」
「......理緒で」
「え?」
「華宮じゃなく、名前の理緒の方で呼んで下さい。後、もうちょっと砕けて話してもらえると嬉しいな!」
「な、名前呼び...ですか?わ、分かりました。それじゃ遠慮なく、名前と砕けた感じで話させてもらいま―――もらうね、理緒さん!」
理緒さんの頼みに対し、俺は分かったと返事を返す。
「うん!これからもそんな感じでよろしくね、光野君!」
って、キミは名前で呼ばないんか~いっ!
......でも華宮...か。
確か『あいつ』も華宮って名字だったよな?
もしかして理緒さん、あいつの姉妹か親類とかかな?
い、いやいくら何でも、まさか......ねぇ。
「ん?どうしたんですか、光野君?ボ~っとして?何か考えごとですか?」
「い、いや、何でもないよ。そ、それよりも理緒さん。お礼も受け取ったし、お昼休みも終わりそうだから、そろそろ教室に戻ろっか?」
俺は理緒さんにそう告げると、ベンチから腰を上げて立ち上がり、そして教室に帰るべく歩き出す。
が、
「まだ帰っちゃ駄目ですよ、光野君♪」
ニコニコ顔の華宮さんから肩を力強くギュッと掴まれ、俺の進行は強引に止められる。
「えっと...理緒さん。まだ帰っちゃ駄目ってどういう事......かな?」
「私まだ光野君から連絡先を聞いてませんっ!レイナイでも電話番号でもメールでも良いですから、光野君への連絡手段を教えて下さいっ!」
「お、俺への連絡手段を...ですか?」
「だ、駄目...でしょうか?」
俺が困惑した顔を見せると、理緒さんがシュンと顔を曇らせる。
「い、いやいや、そんな事ないです!別に連絡先くらい全然構いませんからっ!」
「おお!ほ、本当ですかっ!」
カーストトップの嘆願を無下にすると後々面倒そうなので、俺は慌ててそれくらいはオッケーですと言葉を返すと、理緒さんの表情がパッと花の咲く様なにこやかな笑顔へと変わっていく。
「え、えっと。それでどの連絡手段を教えればいいのかな?」
「差し支えなければ全部で!光野君への連絡手段の全てを所望しますっ!」
理緒さんはそう言うと同時に、ピンク色の携帯電話をポケットから取り出し、そして両手で持った携帯電話を前にビシッと突き出す。
「えっ!?ぜ、全部!?」
「はい!全部ですっ!!!」
うわ、何て屈託のない爽やかな笑顔!?
「こ、こんな笑顔を見せられたら、嫌だとは言えないよね......」
俺は理緒さんの屈託ない笑顔に押されつつ携帯電話をポケットから取り出すと、理緒んに連絡手段の全てを転送した。
「......こ、これでいいかな?」
「はい!光野君の連絡手段の全て、ちゃんと受け取りました♪」
理緒さんは俺の連絡手段がちゃん全部入っているか、それを確認すると、それが余程嬉しかったのか、携帯電話を胸にギュッと強く抱き締める。
そしてその後、俺と理緒さんは自分達の教室に帰って行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「......ふう。まさか理緒さんが俺と同じクラスだったとは......」
こっちに戻って来て、しばらくの間は大人しくしている予定だったのに、色々イベントが目白押し過ぎだろう。
「やれやれ......」
俺がこっちの世界に帰って来てから今日までに起こった、様々な出来事に肩を落として嘆息を吐いていると、
「なぁなぁ、光野。ちょっといいか?」
後ろの席の男子生徒が、俺の背中を人差し指でちょんちょんと叩き、小さな声で俺に話し掛けてきた。