067・キミの名前は谷口梓だっ!
「は、はひぃぃぃいっ!?」
ヤ、ヤバイ事になってきた!?
このプレッシャーがもし勇者仲間達と同じプレッシャーだとしたら、名前を間違えて口にしようものなら、確実に恐ろしい結果にっ!?
いつも勇者仲間達から受けていたこのプレッシャーの末路を思い出した俺は、真っ青になった顔中からイヤな汗がダラダラと流れ落ちていく。
はぐぬぬぬぬぅぅぅぅぅぅうっ!
思い出すんだぁあ、俺ぇぇぇぇぇええっ!
記憶の引き出しを開けまくれば、きっと答えが見つかる筈っ!!
...あ、
...い、
...う、
...え、
...お、
...か、
...き、
俺はクラス内で沢山飛び交っていた、女子の名前を必死で捻り出す。
そしてこれだと思った女子の名前をチョイスし、それを口にする。
「......え、えっと......キミの名前....は......た、谷口......そ、そう!谷口、.....あ、梓だっ!」
「誰ですか、それっ!?一文字もかすってないんですけどっ!?」
「し、しまった!外した!?」
じ、じゃあ、こっちの方か!?
「キ、キミの名前は東雲...東雲柚奈でしょうっ!!」
「それはとなりのクラスの子ですっ!何故同じクラスメイトの私を覚えていないのに、隣のクラスの子の名前は覚えているんですかっ!!」
「くっ!これも違ったか!」
な、なら......ル、ルリ...ルリ...カ...?
「そ、そうですっ!キミの名前はルリカ・アンナロッサですねっ!!」
「それは逆となりのクラスの子ですっ!!っていうか、ルリカさんは金髪碧眼のアメリカ人じゃないですかっ!フル英語の名前だというのに、なにうえ私だと思ったんですかねぇっ!!!」
女子生徒の顔や風貌を参照に思い出した名前を色々口にしてみたが、しかし全部不正解だったようだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「い、一年も一緒にいたクラスメイトだというのに、まさか名前を覚えてもらえていなかったとは......」
「......マジでスイマセン。で、ですが、陰キャラはその様なものだと御理解していただくと大変ありがたいです!心を込めて謝りますので、どうかそんな哀れな陰キャラをお許し下さいっ!本っっ当に申し訳御座いませんでしたぁぁぁあっ!!」
俺は何で彼女に怒られているのか、いまいち理解できなかったのが、
しかしこういう場合は速攻で折れて、ただひたすら謝るのが一番だとあいつらから学習していた俺は、未だお怒りモードの女子生徒の怒りを抑えるべくベンチからスッと立ち上がると、目の前の地面にゆっくりと正座をし、そして地面に頭を擦りつけてる様に土下座した。
「ち、ちょ!光野君っ!?ど、土下座はやめて下さいっ!お、怒ってはいましたが、土下座をされる程は怒っていませんからぁぁあっ!」
俺のいきなりかます清々しい土下座を見て、女子生徒が目を丸くして大慌てし出す。
「うう、私が怒ったのは...そ、その...べ、別に光野君が悪い訳じゃないんです。た、ただその...私的感情が光野君に自分の存在...名前を覚えていてもらえていなかった事が、少し悔しかったといいますか、寂しかったといいますか......って、けふん、けふんっ!と、とにかく!土下座はやめて立って下さい!恩人の光野君に土下座をさせるのは、私の気が咎めてしまいますからっ!」
それに翌々考えてみれば、私もあまり光野君の事をどうこう攻められる義理ではありませんでしたしね。
何せあの朝、光野君の落とした生徒手帳を見て、初めてあの有名なクラスメイトの!?...って、気付いたのですから。
「......でも光野君もちょっとだけ悪いんですよ。だってあの時の光野君、普段と雰囲気が全然違うんですもの。あの時の光野君、まるで別人のように格好良く、そして凛々しかったから......」
「......ん?今俺の事を呼んだ?」
俺は頭をスッと上げ、ハテナ顔をする。
「きゃう!?よ、呼んでませんよっ!?こ、光野君の気のせいですっ!そ、それよりも落ち着きませんので、さっさと立ち上がってベンチに座って下さい!」
彼女から完全なるお許しが出たようなので、俺は土下座をやめて地面から静かに立った後、再びベンチに座る。




