060・恋バナ?皆勤賞?
「ホ、ホホ、ホントに!?ほ、本当にその人の事を好きなの......なの、お姉ちゃんっ!?」
「おうっ!正確に言うなら大好き...いや違うな。愛してると言っても過言じゃないねぇっ!えへへ~♪」
理緒が震える声でもう一度桜へ気持ちを確かめると、桜は堂々とした言葉でノロケを言い放った後、先程よりも恍惚な表情で頬を紅へと染めていく。
「はう!?あ、ああ、愛して!?うえぇえ!ええぇぇぇえ~~っ!?!?う、うう、う、嘘~~っ!?ホ、ホホ、ホンマジだったぁあぁあっ!?ち、ちょっとした冗談のつもりで聞いてみただけだったのにぃぃいいっ!!?」
あっさりハッキリとそうだと言い返す桜に、理緒はこれでもかというくらいに目を大きく見開いて、さっきよりも喫驚してしまう。
「あ、ああ、あの桜お姉ちゃんが、だだ、だ、男性を、あ、ああ、愛してるだとっ!?あ、あの男性が近寄っただけで『殺すぞ、てめえっ!!!』と、威圧のガン突けをしていたあのお姉ちゃんがぁぁああっ!?見え見えのドスケベ根性で寄って来ようものなら、問答無用でボコボコにしていたあのお姉ちゃんがぁぁあっ!?だ、だだ、だ、男性に惚れたですとぉぉぉぉおおっ!?数ヶ月会わない内に一体桜お姉ちゃんの身に何があったっていうのさぁぁぁあっ!?!?」
「......うぐ!な、何もそこまで驚かなくていいじゃんかさぁ......ア、アタシだってな、一応女で乙女なんだぞぉぉお~~っ!」
理緒のオーバーなリアクションに対し、桜が膨れっ面でプンプンと怒る。
「にゃはは、ゴメンゴメン!桜お姉ちゃんの性格や素性を知っているだけに、桜お姉ちゃんの乙女モードがとても信じられなくてさぁ~!」
そんなご機嫌斜めな桜に、理緒が苦笑をこぼしつつペコッと頭を下げて謝りを入れる。
そして軽く「コホン!」咳払いをすると、
「......そ、それで時に桜お姉ちゃんよ。その男性とは一体どんな人かね?一体どこでどうやって出逢って、そして一体どんな切っ掛けでその人を好きになったのよ?」
理緒は桜が惚れたという男性の素性と出逢い、更にその男性に好意を抱いたのはいつの頃からだったのか、等々。理緒が少し興奮気味の口調で気になった事を桜に問い質していく。
「あいつとどうやって出逢い、好きになった......か。くふふ~♪それはねっ!」
「ゴク。そ、それは......」
理緒は桜の発する言葉を逃さぬよう、固唾を呑んで静かに耳を傾ける。
だが、
「な・い・しょ・♪」
桜から返って来た言葉は、理緒の望むものではなかった。
「ええぇぇえっ!?な、な、何で教えてくれないのさぁぁぁあ~~~っ!?」
そんな桜の返答に、納得出来ないとばかりに理緒が目を丸くしながら叫声を荒らげて猛烈なる抗議する。
「い、いや~別に教えてあげてもアタシは構いはしないんだけども。でもさ、その~何ていうか~教えたくとも色々と説明しずらいんだよ、あいつとアタシの関連性ってさ。多分話してもにわかには信じてもらえない可能性が大きいと思うし......」
「信じる!私、信じるっ!だ、だから、一から十まで詳しく全部話してっ!!」
「うぐ!?ね、熱が熱い......そこまで聞きたいの?」
「はいっ!聞きたいですっ!!」
鼻息荒い理緒の恋バナ熱に、桜がたじろぎながらそう訊ねると、理緒は屈託ない笑顔で敬礼ポーズを取りながら即答する。
「......ま、まぁ聞きたいって言うんだったら、さっきも言ったけど別に内緒事にする程の程の事でもないし、話してあげても良いけどさ......」
「おお!やったっ!」
「でも本当にいいの理緒?こんな所で油を売って恋バナに現を抜かしていても?そろそろ学校に急いで行かないと、さっき理緒が言っていた皆勤賞がオジャンになっちゃうと思うんだけど?」
「――へ?」
桜がそう言うと、目線を学校のある場所に静かに向ける。
「のああぁぁあっ!?ホントだぁぁあっ!学校の門限まで後もう十二分しか時間がないじゃんかぁぁぁあっ!?」
桜の忠告に理緒が時計に目を移すと、学校の門限時間に差し掛かっていた。
「くぅっ!桜お姉ちゃん達の馴れ初めを物凄く聞きたいのにぃぃぃいっ!!
し、しかし皆勤賞を捨てるのも....ぐぬぬぅぅぅううっ!!」
......し、仕方がない!
「残念だけども、桜お姉ちゃんの好きな男性のお話しは次の機会にするとしますか......くっ!!」
恋バナと皆勤賞...どっちを選ぶべきか、しばらく間悩み抜いた結果、理緒は皆勤賞を選ぶと、地面に転がっていたカバンを大慌てで手にサッと持つ。
そしてまだ未練の残った表情で、桜に人差し指をビシッと突き付け、
「いい、桜お姉ちゃん!次に会ったら、今度こそ桜お姉ちゃん達の馴れ初めを詳しく聞かせてもらうからねっ!その時が来たら、嘘偽りも誤魔化も絶っっ対に無しで全部話してよねぇっ!約束だからねぇぇぇえ~~っ!!」
理緒がそう言うと、踵を返して急ぎ足の猛ダッシュにて学校へと駆けて行った。
「はは、了解♪その時が来たら、たっぷりアタシとあいつのノロケ話を詳しい細かく聞かせてあげるからねぇ~♪だから安心して学校に行って来なさ~~い♪」
そんな理緒の後ろ姿を、桜が満面の笑みで手を大きくふりふりと振って見送った。