056・理緒と桜
「理緒、理緒、理緒理緒理緒、りおぉぉおおお~~~~っ!!!」
「ち、ちょっ!さ、桜お姉ちゃん!?待って!ストップ!スト――うぐ!?」
「だ、だだ、大丈夫っ!?ど、どこか痛い所はないっ!?ケ、ケガはしてないよねぇぇぇええっ!?」
サクヤの助けた女子生徒...理緒がピンピンしている姿を目にした瞬間、桜と呼ばれた女性が安堵の表情で理緒に飛ぶ様に抱き付き、そして思いっきりギュッと抱き締めると、改めて理緒が無事なのかそれを確認してくる。
「はぐ、いたたた!?さ、桜お姉ちゃん!く、苦しい...苦しいってばっ!」
「おっとゴメン。理緒が無事だったみたいだから、つい安心で感極まっちゃった♪」
理緒の困惑した注意言葉で桜がふと我に返ると、苦笑いをこぼしつつも包容を解除し、理緒からゆっくりと離れていく。
「......ふう。お姉ちゃんのハグでケガしちゃう所だったよ。ったく、相変わらず手加減なしで抱き付いてくるんだから......で、桜お姉ちゃんがどうしてGTPと一緒にいるの?」
「あなたがさっきギルドに連絡をしてきた時、アタシにも連絡がきたんだよ。相手が相手だしね......」
桜はそう言うと、ロープに縛られている孝之助をジロッと睨む。
「...ってな訳で、アタシもGTPと一緒にここに慌てて飛んで来たって訳よっ!それで改めてもう一度聞くけど、痛い所はない?どこかケガとかしてないよね?」
「うん、大丈夫だから安心してよ、桜お姉ちゃん。どこにもケガはしていないし、無傷だからさ!」
......お姉ちゃんのハグのせいで身体は痛いけどね。
「でもごめんね、桜お姉ちゃん。私が人柄を見誤ったばっかりに桜お姉ちゃんにすっかり迷惑を掛けてしまったみたいで......」
「な、何を言っているのさ!理緒のせいなんかじゃないよ!ある訳がないっ!アタシの方こそ、ごめんなさいだよ!南城財閥の奴らと事を荒立てるのをなるべく避けたかった為に、この馬鹿息子が理緒の回りをウロチョロしている事を知っていたっていうのに......危うく取り返しの付かない事態になってしまう所だったよ!」
桜が沈痛な表情で、頭を深々と下げて理緒に謝罪する。
「いやいや。あ、頭を上げてよ、桜お姉ちゃんっ!私だって桜お姉ちゃん同様の理由で孝之助様には何も言えず、遠ざける事も出来ず、こんな結果になってしまったんだからさ!」
「く...なんて優しいお言葉!そのご配慮に痛み入っちゃうよ!」
理緒の心遣いに感謝し、桜が再び深々と頭を下げる。
「でももう安心していいからね、理緒。今回の件は父さんにキッチリと報告をしておくからさ!南城財閥の馬鹿息子は越えてはいけない一線を越えてしまったんだ。アタシ達一族をここまでコケにしたそこの馬鹿を庇う事も揉み消す事もさせやしない......っていうか、S級冒険者の名に置いてアタシが決してさせないからっ!あなた達、そこの最低最悪のクソゴミ犯罪者共を直ぐ様連行しなさいっ!」
「「「はッ!」」」
桜の命令に、現場に桜と一緒に連れてきたGTP達が、ロープで捕縛されている孝之助と小鉄を引きずりながらその場を離れて行った。
「な、何かお姉ちゃんがこの人達のリーダーみたいだね......あはは。おっとそうだったこれを忘れる所だったよ!桜お姉ちゃん、これ!」
理緒はさっきサクヤから手渡された、孝之助達の悪行が記憶されたカードを桜に手渡す。
「ん?このカードは...記録媒体カード......だよね?」
「うん。そこに孝之助様達の犯行が全部記録されているから、証拠のひとつとして使ってよ!」
「おお、流石は我が妹っ!抜かりのない用意周到な行動だ―――って、えぇぇっ!?こ、これはっ!?こ、このカード一度しか使用出来ないけど、嘘を見抜くスキルが施されてるじゃん!?」
「え!?」
手渡されたカードに桜が鑑定スキルを発動させて鑑定すると、記録が本物と証明出来る嘘見抜きのスキルがかかっている事に気付く。