055・あれ?顔が浮かんでこない?
「え!ち、ちょっと待って下さい!わ、私まだお礼の言葉しかあなたに言っていません!それにあなたの名前も聞いて――」
「――いいよいいよ。別に見返りを求めてキミを助けた訳じゃないし、それに名前を乗る程の事はしていないので名乗りはパスって事で!」
俺の事を引き留めようとしてくる女子生徒の言葉を遮り、感謝の言葉以外は不要だと告げる。
「おっと!そうそう、これ!」
俺はこいつを渡すのを忘れていたと、携帯電話から記録媒体カードを取り出すと、それを女子生徒の手元に向かってポイッと投げる。
「もし証拠不足や証言を信用してもらえなかったら、それをGTP...だっけ?そいつらに渡しなよ。その記録媒体カードにはそこのクソ野郎共の犯行を裏付ける暴言が記録されているからさ!」
俺は女子生徒に手渡した記憶カードを指差しそう言う。
「あ、去る前にもうひとつ。俺の事は濁らせてこの状況を説明してくれるとありがたいな。正直あんま目立ちたくないんでさ!じゃあ、そういう事なので頼んだよ~~っ!」
そして女子生徒にそう頼み込むと、俺は大地を大きく蹴って空に向かってジャンプし、その場から颯爽と去って行く。
「ま、待って下さ......ああ、行ってしまった......せめてお名前だけでも聞いておきたかったのに......」
でもあの人の着ていた制服。
私と同じ学校の制服......だよね?
「じ、じゃあ、学校内を探し回れば見つけられるかもしれ――――」
―――って、あ、あれ?
「た、確かにさっきの男の子の事を認識しているのに、でも思考がさっきの男の子の顔を朧気にしか浮かばせてこない?」
な、何で?
ど、どういう事!?
「あ...こ、これってもしかして、認識阻害のスキルのせい!?」
女子生徒が首を傾げてサクヤの顔を想像するが、頭の中に浮かぶサクヤの顔はが靄が掛かったように朧気にしか浮かんでこなかった。
「うう、どうしよう。これじゃさっきの男子生徒の事を探し出せないじゃな―――あ、あれ?こ、これ......は?」
女子生徒が落ち込んで顔を下にガクッと項垂れると、地面に黒い手帳が落ちているのに気付き、それを拾い上げる。
「この手帳...私の学校の生徒手帳......だよね?ああっ!ひ、ひょっとしてこの生徒手帳って、さっきの男の子の!?」
だ、だとしたら!
女子生徒が慌てて生徒手帳のページをパラッと捲る。
「こ、この顔......ま、間違いなくさっきの男の子だ!」
写真には阻害スキルの影響がないんだ。
「え、えっと、名前は...光野、光野朔夜。学年は三年......ええぇぇええっ!?さ、三年D組ですってっ!?う、嘘っ!?そ、それって私と同じクラスじゃないかぁ!?」
手帳に記載されているサクヤのプロフィールを見て、女子生徒が身近にいたのかと目を見開いて驚きを見せる。
「ああ!そ、そうだよ!この写真の男の子...光野君って改めて良く見てみたら、学校中をお騒がせの渦中にさせていたあの熱々カップルの子だ!」
生徒手帳に載っているサクヤの写真を見て、女子生徒が学校中で羨望や嫉妬の視線を浴びていたカップルの事を思い出す。
あんなにも熱々ラブラブだったのに、親御さんのご都合で光野君の彼女さん、他県の学校に転校しちゃったんだよね?
それからというもの、
光野君、嫉妬していた連中が同情するくらい、思いっきり落ち込んでドヨドヨモードだったっけ?
「正直、人の恋路には全く興味がなかったものだから、そんなカップルがいたな~程度の認識だったからな、当時の私......」
女子生徒はあの時のサクヤの状態を、朧気な記憶の中から取り出して思い出していく。
「......けどそっか。この光野君がさっき私の事を助けてくれた男の子だったんだね!ハァ~朔夜君。顔は所々朧気にしか思い浮かんでこないけど、でもめっちゃカッコ良かったな~♪」
これはスクールカースト上位の海川さんが惚れちゃう訳だ!
女子生徒が自分を助けてくれた時のサクヤの行動や優しい言葉を思い出し、頬を赤く染めていると、
「あ!理緒~~!ここに居たんだねぇ~~~~っ!!」
女子生徒のいる場所に、武装した女性が複数の黒い服を着た者達を引き連れてやってくるのが見えた。