052・助ける?助けない?
「ま、そういう訳なんで悪いなお嬢さん。ボスは手に入れたいと思ったものは何が何でも手に入れなきゃ気の済まないお方でな。そんなボスに目をつけられた事を不運だと思って諦めてくれや!」
「な、何が不運ですか!そんなの運命、絶対お断りです!」
『スピード・ブースターッ!!』
何を馬鹿な事をと大柄の男に一活すると、自分を掴まえに向かってくる小鉄から逃れるべく、女子生徒がスキルを発動させて身体スピードを上げる。
だが、
「ほほう、中々の加速度じゃねぇか!だがぁぁぁあっ!」
「―――なっ!?」
小鉄の動き方が上手で、再び女子生徒は前へと回り込まれた。
「くくく。その迷わずその場を脱する判断は良かったが、しかし相手が悪かったな~お嬢さん。こう見えても俺はB級冒険者なんだよ。したがってその程度の加速は屁でもないのさ!」
小鉄がニヤリと笑った表情でそう言うと、懐から取り出したギルドカードを女子生徒に突き出す様に見せつけた。
「おおぉぉおっ!あははは~!いいぞ、小鉄!流石は負け知らずでB級冒険者になっただけはあるじゃねぇえかっ!くははははっ♪」
「くぅ、B級です...か...なんたる失態。まさかこんな輩を使ってまで私を手に入れようとしてくるなんて......」
......しかしこの残念イケメン、私にこんな事をすればその後どうなるか想像がつかないんでしょうか?
「あ、想像がつけないバカだから、こんな事をするんですよね......」
「ぐははは!さぁ~小鉄!そいつをさっさと掴まえてこっちに連れてこい!」
「OK、ボス!」
女子生徒がイケメン男子生徒のお粗末な行動に憐れな表情を浮かべていると、イケメン男子生徒の命令を聞いた大柄の男が口角をニヤリと吊り上げ、女子生徒を捕縛する為、その大きな両手を広く伸ばしてきた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「...............うわ」
参ったな。
見なきゃ良かった。
俺は目の前で繰り広げられているテンプレな出来事を見て、思わず深い溜め息が口からこぼれ出てしまう。
「これってやっぱり、助けに行かなきゃ駄目な流れだよね?」
......正直行きたくない。
だってあれに関わったら、絶対に後々面倒じゃん。
「俺は別に正義マンでも聖人君子でもないからなぁ。なので極力面倒ごとには首を突っ込みたくないんだよねぇ......」
......でもこれはなぁ。
やってる事がちょ~っと悪質で度を超えちゃってんだよなぁ、あの連中。
これを助けなかったら、きっと後から後悔の念で悶々としちゃうのが目に見えてくるしなぁ。
「......ふう、しょうがない。変態イケメンの魔の手からお姫様を救うべく、参上すると致しますか!」
俺は面倒くさい事に巻き込まれたとばかりに頭をポリポリと掻くと、女子生徒を変態イケメン達から助ける行動へと移る。
「がははは!ほ~れ、掴まえたぞっ!」
「や、やめて!離して下さいっ!」
「あははは!いいぞ、小鉄!そのまま僕の下に理緒を連れてこ―――」
変態イケメンが下卑た顔で掴まえた女子生徒を自分の所に連れて来い、そう小鉄に命令を出そうとしたその時、
「――――このゴミクソ変態イケメン野郎がぁぁぁああっ!面倒ごとに俺を巻き込みやがってぇぇぇぇええっ!!」
「な!なんだ、貴様―――――ブロゲェェッ!!」
怒りの形相で変態イケメンの後ろに素早く回った俺は、変態イケメンの後頭部を思いっきり蹴り飛ばした。
「あべぇ!?あぎゃ!?ぐぎゃ!?」
俺の蹴りを食らった反動により、変態イケメンが何度も地面をバウンドした後、その先にあった壁にドンと大きくぶつかりその場にガクリと崩れ落ちた。
「ボ、ボスゥゥゥゥウウッ!くそぉおお!だ、誰だぁぁあっ!ボスに手を上げた狼藉野郎はぁぁぁぁあっ!!」
イケメン男子生徒の無惨な姿を見た小鉄が目を大きく見開いて喫驚すると、威圧を込めた眼光でイケメン男子生徒の飛んで来た方角に目線を移す。
するとその先で、
「フッ!イケメン成敗っ!!」
そこには「やってやったぜっ!」という顔で親指を下にクイッと下げ、ザマァと言わんポーズを見せているサクヤの姿があった。