047・冒険者専門雑誌ファンファン
「あ、ああ。そうだった、そうだった!母さん、お兄ちゃんとあいつ...クソ浮気女の恵美が付き合っていた事を知らなかったんだっけ?」
だからお兄ちゃんから、お母さんには絶対にこの事は内緒だからなと、釘を刺されてたのをすっかり忘れていたよ。
わたしはうっかりしてたゴメンゴメンという表情で、お兄ちゃんにテヘペロと舌を出す。
「ったく、気を付けろよ......」
「はは、ラジャー。以後は気を付けます......」
そっか。お兄ちゃん、クソ恵美の事はもう吹っ切ってはいるけど、あいつと付き合っていたという事実はお母さんに知られたくないんだ?
でもそりゃそうか。
わたしがお兄ちゃんだったとしても、あんなクソビッチ女と付き合っていたなんて事実、恥ずかしくて誰にも知られたくなんてないもん。
お兄ちゃんから深く注意されたわたしはその心情を察知すると、了解と敬礼した後、残りのご飯を食べていく。
「うおおっ!旨ゃめぇえ~っ!やっぱ想像通り、このプリンってば絶品の美味しさだよ~♪」
晩ご飯を食べ終わったわたしは、冷蔵庫に閉まっておいたプリンを手に持つと、広間の畳の上にドスンと座り、そしてテレビを見ながらプリンをさっきのお兄ちゃんみたく一心不乱にモグモグと食していく。
「あ!そうそう、ねぇお兄ちゃん。高校入学で思い出したんだけどさ、お兄ちゃんは冒険ギルドに冒険者の登録をしにいかないの?」
さっきの食事中、お兄ちゃんが冒険者になれる年齢に達しているのに何故冒険者登録に行かないのか、それをお兄ちゃんに訊ねる。
「冒険ギルドに冒険者登録?ああ...はいはい、あれね!えっと確か......」
『来たれ!新しき未来を担う、冒険者諸君よっ!』
「......っていう、あれだよな?」
「うんうん!それだよ、それ!お兄ちゃん、先月で15歳になったじゃん!」
「え、えっと...一応15歳にはなったけどさ、そ、それが冒険者と何か関係があるのか?」
「そりゃあ関係があるに決まっているでじゃん!だって冒険者登録が出来る年齢は、その15歳からなんだからさっ!」
「へ、へぇ~そうなんだ?」
ちょっ!お兄ちゃん、軽っ!?
なにその気の抜けたお言葉はっ!?
みんなの憧れ人、みんなの尊敬の的、みんなの希望の星の冒険者だというのに全く興味を示さないなんてっ!?
た、多分、気のない振りをしているだけだよね?
だって子供のなりたいお仕事ナンバーワン、冒険者ですよっ!
う、うん!きっと、そうっ!!
「......そ、それでお兄ちゃん、行かないの?冒険ギルドに冒険者の登録をしにさ?」
わたしが落ち着く様に深呼吸して気を取り直すと、改めてもう一度お兄ちゃんに冒険者にはならないのかと問う。
がしかし、
「うん、いかない」
お兄ちゃんは淡白な口調でノーと即答する。
「ええぇぇえっ!?な、ななな、何でさぁぁぁあっ!?」
お兄ちゃんの間もない即答に、わたしが嘘でしょうとばかりに目を大きく見開いてビックリしてしまう。
「いや、何でさとか言われても...成美も知ってんじゃん。俺が人の平均以下の力や体力しかないって事をさ?なのに、何故俺が冒険者をやると思ったんだよ?」
「そんなもんって言うなしっ!!冒険者は私の憧れなんだぞぉぉおっ!!!」
冒険者を馬鹿にするお兄ちゃんに、それは容認できないと頬を思いっきり膨らませ、プンプン怒って猛烈に抗議をする。
「すいません、成美さま。少し言葉が過ぎました!」
わたしのお怒りを見て嫌われたくないのか、お兄ちゃんが速攻で平伏し、謝罪を入れてきた。
「......そういえば、そうだったな。成美ってば、小さい頃から冒険者がホント大好きっ子だったっけ?」
「くふふ~その通りの当たり前っ!わたし冒険者、だ~~い好きっすっ♪くくく...見よっ!この冒険者御用達の雑誌をぉぉぉおっ!」
わたしはそう言うが早く、テーブル上に置いていた冒険者を特集している雑誌をパッと手に持つと、それを自慢げな表情でお兄ちゃんに見せる。
「何これ?冒険者......ファンファン?」
「この雑誌は冒険者を詳しく特集している専門雑誌でね、わたしのバイブル的な存在なんだ♪肌身離さず、どこにでも持ち歩くレベルのねぇ~♪」
わたしがドヤ顔でそう言うと、持っていた雑誌を愛くるしく胸にギュッと抱く。