046・『あいつ』と『裏切られた』
「.........」
「パクパク、モグモグ......うおぉおぉおっ!?お、美味しい!美味しいよぉお母さんっ!やっぱ、母さんの料理は世界一だよ~モグモグ♪」
「そ、そう...ありがとう。そこまで喜んで貰らえると素直に嬉しいけど、でもちょっと大袈裟過ぎ.........」
自分の作った料理を美味しそうに食べるお兄ちゃんの姿を見てお母さんは喜びはするものの、あまりにオーバーリアクションをする為、若干戸惑い気味の表情でちょっと引いている。
わたしもちょっと引いている。
「モグモグ、かぁぁあ!うめぇぇぇええっ!!」
だがそんなお母さんとわたしのドン引きにもお構い無しに、お兄ちゃんは一心不乱に晩御飯をモグモグ食べていく。
「しかし本当に涙ながら喜んで食べているな......」
ホント、お兄ちゃんどうしたのよ!?
まぁ確かにお母さんの料理は美味しいと思うよ。
けど、そこまでの感動!?
感動喜びの叫声を荒らげながら晩御飯を食べるお兄ちゃんに、お母さん同様にわたしも戸惑いの表情を見せていると、
「あ、それよりも朔夜。もうすぐ高校入学だけども。ちゃんと準備は済んでいるのかしら?」
お母さんが気になっていた事をお兄ちゃんに訊ねる。
「モグモグ...勿論ちゃんと出来ているよ。使用するカバンも用意したし、ブレザーの丈も調整したし、準備はバッチリだよ!」
お兄ちゃんが顔をお母さんにスッと向けると、自身満々な笑みをニコリと浮かべてサムズアップをビシッと決める。
「あらそうなの?あんたにしては随分早いのねぇ?いつもはルーズなのに?」
「......はは。俺だって成長しているんだよ、母さん。何せもうすぐ中学を卒業して高校生になるんだからさ!」
「うふふ、そっか~そうだよねぇ。溯夜も成長しているんだよねぇ♪いや~母さん、とっても安心したわ♪」
そんなお兄ちゃんの見せる余裕な態度を見て、お母さんは安堵したという微笑みをこぼす。
「でもお兄ちゃん、よく高校入学の準備なんて出来たわよねぇ?だってあいつに裏切られたショックで立ち直れずにドヨドヨしていた癖にさ?」
ホント、いつの間にだよ。
今も今で、まるで別人の様にドヨドヨモードから回復しちゃってるしさ。
あ、もしかして高校入学を切っ掛けに、あいつの事を完全に忘れるつもりだったのかな?
わたしがお兄ちゃんの事であれこれ考えていると、
「......あいつに裏切られた?そのショックから立ち直れず?それって一体何の事なの、成美??」
お母さんが訝しむ表情でわたしの述べた『あいつ』と『裏切られた』というワードに反応する。
お!お母様、それを聞いちゃいますか?
くふふ......ならば、お答えて差し上げましょうっ!
......コホン、
「ん?ああ、それはね母さん。お兄ちゃんったら、あのクソ浮――モゴモゴ!?」
お母さんの質問にわたしは待ってましたとばかりに、あのクソ恵美のやらかしをバラしてやろうと口を開く。
が、
「な、な、何でもない!う、うん!何でもないんだよ~あははは~~♪」
お兄ちゃんが大慌ててでわたしの口を両手でパッと咄嗟に塞ぎ、喋りを強引に遮る。
「モゴモゴ...ぷは~!?ちょっと何すんのさ、お兄ちゃん!そんな抑えたら息が出来ないじゃんかっ!」
わたしがクソ浮気女の暴露を邪魔された事に対し、お怒りモードでご立腹していると、
「息が出来ないじゃんか......じゃないっ!あいつの事は母さんには内緒っ!そう約束しただろうがっ!!」
お兄ちゃんがわたしの耳元に近寄って来て、囁く様な小さな声でお母さんにそれは言わない約束だったろうと注意してきた。