044・お兄ちゃんの隠し物
お兄ちゃんが恋人.........おっと間違えた。
も・と・恋人の浮気女のクソ恵美に振られてからというもの、
わたしはその間、お兄ちゃんが落ち込む度に慰め、励まし、労い、心のケアに懸命となって努めた。
そしてその結果、
部屋でドヨドヨと体育座りをしていたあの時よりかは、幾分かお兄ちゃんの心は回復の兆しを見せた。
それから更に、数ヶ月の時が流れたとある日。
「ねぇねぇお兄ちゃん。お兄ちゃんに頼みがあるんだけどさ、いいかな?」
「ん?俺に頼みごと?」
「うん!駅前のコンビニで、このプリンを買ってきて欲しいんだぁ♪」
手に持っていた雑誌をパラッと開き、スイーツの特集をしているページに載っていたプリンの部分を指でトントンと差す。
「......駅前のコンビニか。でもあそこって、夕方の時間は学校帰りの女子生徒達の軍勢でかなり混むんだよな......と言う事で陰キャラの俺はあまりあのコンビニには足を踏み入れたくないんだけど?」
「いやいや。何を言うておられる、我が兄よ。あなたの可愛~い妹からのお頼みごとですぞ?そこは兄として間をなくイエスと言う所だと思うんだけどなぁ♪」
「うぐ。し、しかしだな...もうそろそろ晩御飯の時間も近いし...だから......その......」
再度頼む、わたしの言葉を聞いても未だ煮え切らない態度を見せるお兄ちゃんに、
「......行かないと、もうハグしてあげないぞ?」
わたしはジト目の表情で、禁断の必殺技を言い放つ。
すると、
「イエッサー!直ちにコンビニに馳せ参じまぁ~~すっ!」
お兄ちゃんは素早く立ち上がり、わたしに向かってビシッと敬礼ポーズをとると、財布をポケットにサッと仕舞ってダッシュで家の外へと出て行った。
「んふふ~いってらっしゃい~お兄ちゃ~~ん♪」
そんなお兄ちゃんに、わたしは手を大きく振って見送りする。
「さ~てと。お兄ちゃんが帰ってくるまでに、お兄ちゃんの部屋をお掃除しますか~♪」
お兄ちゃんを強引に買い物へ行かせたのには理由がある。
それは定期的に行うお兄ちゃんの部屋を掃除する為だ。
わたしは掃除道具を手に持つと、お兄ちゃんの部屋にある『ゴミ』の掃除へと取りかかる。
「まず最初にチェックする場所......コホン、掃除する場所は......っと」
お兄ちゃんのベッドの下に顔をやると、全体を覗き見ていく。
「......無いな?」
次に本棚の前に移動して本棚に置いてある本を次々と手に取ると、そのつどページを捲って中身を確認する。
「これも...これも...これも異常なし....か。んじゃ、次は......」
手に取った本を棚に置くと次にタンスの置いてある場所に移動し、タンスの引き出しを上から順番に引いていく。
「......ここにも無いか」
く、お兄ちゃんめ!
隠すスキルを上昇させていやがるっ!
「くくく...面白いっ!こうなれば意地でも見つけ出そうじゃないかっ!」
わたしは高らかにそう宣言すると、お兄ちゃんが大事な物を隠していそうな場所を見つけ出すべく、部屋の中にある怪しそうな場所をあっちこっちと探して回っていく。
その結果、
「まったく、あれほどエッチィ本を買うのは禁止って言ったのに...」
『風刃!』
各場所に隠されていたエッチィ本を全て見つけ出したわたしはそれを纏めると、風スキルを発動させてエッチィ本を次々に細かく切り刻んでいく。
そして切り刻んで細かい紙と化したエッチィ本の成れの果てを袋の中にポイポイとリズム良く掻き込むと、わたしは袋の先を固結びでギュッと絞る。
「これで...任務完了っと!後はお兄ちゃんを待つだけだぁ♪」
―――それから幾数十分後。
家のドアがガチャンッと開く音が聞こえ、そしてお兄ちゃんの声が聞こえてきた。
「お、この声は!やっと帰ってきた♪」
うふふ、お兄ちゃん。目的のプリンは買えたのかな?
わたしは雑誌に載っていたプリンの写真を頭に浮かべつつ、お兄ちゃんの部屋から一階に降りていくと、お兄ちゃんを出迎える為、トタトタという足音を鳴らしながら玄関に駆けて行く。
そしてお使いから帰って来たお兄ちゃんに、
「おっかえり~お兄ちゃ~ん♪」
...と、
労いの言葉を言い放った次の瞬間、
「おおぉぉおっ!ただいまぁぁぁあ~我がマイエンジェルよぉぉぉおっ!!」
お兄ちゃんがわたし目掛けて大きくジャンプ&ダイブし、そしてわたしの身体を包み込む様に力強くギュッと抱き締めてきた。