041・禁断の奥の手
「こ、光野...朔夜?その人がウチの言った時間帯に試合をしていた人なんだねっ!そ、それで望月っちっ!その光野朔夜って人は、今どこにいるのかな?」
風菜がキラキラした瞳で周囲をキョロキョロ見渡しながら、望月にサクヤの居場所を訊ねる。
「え?朔夜さんの居場所ですか?朔夜さんでしたら、恐らくもう帰ったと思いますよ?本人達も家に帰るとか言って、ここを去って行きましたしね」
「な、なんですとぉぉぉぉお――――っ!?!?」
望月の告げるサクヤの情報を聞いた途端、風菜はガクリとその場に手を突いて落ち込んでしまう。
「くぅうう、一足遅かったか.........」
「朔夜さんに一体何のご用がおありだったんですか、風菜さん?あ、ひょっとして朔夜さんとはお知り合いか何かですか?」
「ううん、知り合いではないよ。実はその光野朔夜君にちょいと頼みたい事があってさ!」
「頼みたい事...ですか?」
「うん。あ!そ、そうだ、望月っち!ギルド員ならさ、光野朔夜君の住所や電話番号を知っているよねっ!ねぇっ!」
風菜は望月の両腕をグッと掴むと、キラキラした瞳でそれを聞く。
が、
「そうですね、新規冒険者登録の時に住所や電話番号は記入してもらってはいますので調べれば分かりますよ。ですが規則によりそれを教えてあげる事は出来ませんけどね」
残念ながら、望月の口からは無慈悲な言葉しか返ってこなかった。
「ええぇぇえっ!そ、そそ、そこを何とかぁぁぁぁああっ!!
お願いプリィィイィィズッ!!」
しかしそれでもなお、風菜は食い気味の勢いで望月にご慈悲を
嘆願するが、
「駄目です、規則は規則ですので!」
望月は首を小さく左右に振って、冷静な口調にて風菜の嘆願を
完全に却下する。
「いやいやいや!そ、そんな事を言わずにさぁ、そこをなんとかお願いしますよ~望月っちぃ~っ!ギルドとウチの...そう!望月さんとのウチとの仲じゃないっすか~っ!だから用事があって忙しい中だったというのに望月っちが困っているだろうと思い、試験官の代理をやってあげたんっすよぉぉお~~っ!!」
何度も駄目だと却下されるが、まだ諦める事の出来ない風菜は、禁断の奥の手...望月への恩を盾に泣き落としに打って出る。
「う、うぐ。た、確かに、風菜さんには無理強いを言って試験官代理を受けていただいたというご恩もございます......か。わ、分かりました。ではこう致しましょう!もし朔夜さんがこちらに来られましたら、あなたに火急ご連絡を致します。ですからこれで手を打って下さい」
それを言われちゃ流石に無下には出来ないかと、望月はギルド員として最低限、できうる限りの妥協案を風菜に提示する。
「但し、朔夜さんが会いたくないと申し出たなら、この話は残念ですがなかった事にさせていただきますので、そこはご容赦下さいね!」
「うんうん!それで十二分だよ!ありがとね、望月っち~♪流石は持つべき我が贔屓の受付嬢だよぉ~あはは~♪いや~嬉しいな~~♪」
風菜は花が咲くような笑顔で喜ぶと、望月に思いっきり抱き付く。
「よし!朔夜君の件も解決した事だし、試験官の続きを再開しますかねぇ♪そんじゃ、望月っち。朔夜君の件、よろしく頼むっすねぇ~♪」
望月から離れ、風菜がそう言った後、新人女性冒険者の昇級試験を行っている会場へルンルン気分のステップで帰って行った。
「ええぇぇっ!?まだ昇級試験が終わってなかったんですか!?」
「......風菜さん。名前の通り、風の様な性格ですよねぇ」
「はは。確かに小鳥の言う通りですね。コホン...では気を取り直して、朔夜くんに謝罪の電話をしましょうか......」
望月が苦笑いをこぼしながら小鳥と一緒に風菜を見送った後、サクヤに謝罪をする為、携帯電話を手に持つ。