040・望月の凡ミス
「.........」
光野朔夜......か。
冒険ギルドから朔夜達が去った後、望月がさっきの試合で佐々木の所業によって、粉々に壊れている壁を遠くで見つめながらサクヤ達の試合の事を思い出していた。
「あの吹っ飛び方、あれはどう見てもやはり異常よね......」
あの試合中、朔夜くんが佐々木さんと激突した瞬間、一瞬だけども朔夜くんから微妙ながら強い気を発するのを感じた。
それに動きも何かぶれて見えたような気も......
「......これを踏まえた上の私の勘なんだけど、この状況を作り出したのは、朔夜くんの可能性が高いんじゃ?」
...って、
「はは...何を考えているんだろうね、私は?」
そんな事、ありえる訳ないのに。
だって朔夜くん、15歳の学生さんだよ?
望月が朔夜と佐々木の試合を思い出し、あれこれ考えを錯綜していると、
「あ~ここにいた~っ!お~~~い、望月さ~~~んっ!」
望月を見つけた小鳥が、スタスタと駆けてくる。
「もう望月さん、こんな所にいた!探したんですよ!ここで何をしていたんですか~~って、ああ、あれってさっきの試合で佐々木さんが壊した壁ですよね?ひやぁ~しっかし見事なまでに粉々に壊れちゃってますねぇ~!?もう佐々木さんったら、新人相手に何もここまで本気を出さなくてもいいのにっ!後でマジ説教ですよっ!」
佐々木のやらかしによって壊れた壁やその瓦礫に気づいた小鳥が、プンプン怒ってしまう。
「あ、でもあそこまで壁が壊れちゃっているって事は、佐々木さんと試合をしたっていう新人さん、身体の方は大丈夫だったんですか?」
「え?」
小鳥の指摘に、望月は目を大きく見開いた。
「ああああっ!そ、そそ、そう言われればぁぁあっ!?朔夜くんがあまりにも普通にしているものだから、それが全く頭からすっぽり抜け落ちて気づきませんでしたわぁぁぁあっ!!?」
「えええ!?じゃ、何のケアもしないで帰しちゃったんですか!?ま、まあ遠目から見てましたが、あの子大したケガは負っていなかったみたいだけども......」
「くぅっ!こ、これは由々しき事態だわ!冒険者達のサポートを受け持つ責任者だというのに見落としてしまうなんて.......っ!」
小鳥から告げられた言葉に、望月がギルド員として決してやってはいけない大失態に、普段は見せる事のない動揺とパニックで頭を抱えあげ、そしてその後ガクッと項垂れる。
「でも望月さんがそんな大事な事を忘れてしまうなんて、ホント珍しい凡ミスですよね?」
「凡ミスなんてレベルでは済まされませんわ!大ミスです、大ミスッ!!よ、よし!い、今からではもう遅いかもしれませんが、火急に朔夜くんへ連絡を取り、謝罪をお詫びをしなきゃいけませんねっ!」
項垂れている場合じゃないと望月が顔をバッと上げると、直ぐ様ポケットから携帯電話をサッと手に取り出し、サクヤに謝罪とお詫びの言葉を伝えべく通話ボタンをピッと押す。
そして電話番号を入力しようと、指を動かそうとした瞬間、
「ああ、そんな所にいたぁ!お~~い、望月っち~~~っ!!」
遠く方から自分を呼ぶ誰かの声が聞こえてきた。
「ん?私を呼ぶ声......?」
望月が声のする方角に顔を向けると、
「あれは...風菜さん......ですか?」
そこには大慌ての様子でこちらに駆けてくる風菜がいた。
「も、望月さん、望月さん!望月さんに聞きたい事があるんですが聞いても良いですかぁあっ!い、今から一時間くらい前に、男性側の昇級試験をしていた新人さんって、一体誰なんっすかっ!?」
風菜が望月のいる場所に駆けてくるや否や、挨拶よりも早く剣幕な口調でそれを聞いてくる。
「え?一時間くらい前の...ですか??えっと、ちょっと待って下さいね。フムフム、その時間帯で試合をしていた新人さんは......っと」
風菜の問いに、望月が男性昇級試験の記載されたノートをパラパラと捲っていき、
「......恐らくですが、その時間帯なら45番の光野朔夜さんですね」
風菜の言う時間帯に誰が試験を行っていたか、それを伝える。