039・周囲の羨望と嫉妬
「でもそっか。それで納得がいったよ......」
俺は周囲にいる女性達にチラリと目線を向ける。
「ぐぬぬ...佐々木様の直筆サインだとぉぉぉおおっ!」
「う、羨ましいぃぃいぃぃいっ!!」
「くぅぅぅうっ!佐々木様ファンクラブ会員ナンバー、一桁の私だって持っていないというのにぃぃぃい~~っ!」
「お父様のお力を以てしても駄目だったのにぃぃぃい~~っ!」
「そうだよね、あんたらでも無理だったもんね......」
「......切実に交渉したらサイン売ってくれるかな?」
「う~ん。あの娘の顔を見るに、それは多分無理だと思うよ......」
「だよねぇ~。あの子も佐々木様のファンみたいだし、手放しはしないか......がっくし」
成美の持っている佐々木のサインが書かれた雑誌に観客席にいる女性達が羨望と嫉妬の乗った視線がロックされ、羨ましがる。
「はは...凄い顔をして成美の事をガン見しているな......」
そんな女性達を見て、俺は軽く苦笑いをこぼす。
「しかしこの視線、あっちの世界で良く味わったっけ...主にアキラの所業で!」
あれはホント、何度思い出しても背中がゾクってなってくるよ......ううぅ。
俺はその当時の事を思い出すと、思わずその身をブルルと震えさせる。
「でもこの視線...アキラの時と違って、強い悪意や殺意といった視線はひとつも感じられないし、まぁ放っておいても大丈夫かな?」
嫉妬や妬みの込もった視線を成美に送るあの女性達に、もしも悪意や殺意の視線を向けている輩がいたら、軽い威圧でもしておこうかと一瞬悩んだ俺だったが、しかしこれくらいだったら何の支障もないなと判断すると、取り敢えず威圧を放つのをやめておく事にした。
「それでは45番さ...コホン、いえ朔夜さん。私も審判の仕事がまだ残っておりますので、この辺で失礼させてもらいますね♪」
望月さんがそう述べ、俺達にペコッと軽く会釈すると試合場にクルッと身体の向きを返る。
「あ!そうそう。朔夜さん、もしこの冒険ギルドで何かお分かりにならない事やお困りな事がございましたら、ご遠慮なくこの私に...望月時雨にお声を掛けて下さいね!それではお疲れ様でした♪」
望月さんがニコッと微笑んで俺にそう言うと、再び踵を返して試合場に帰って行く。
「は~~い、お疲れ様で~す!」
望月さんかぁ~♪
「いや~望月さん。めっちゃ美人さんだったなぁ~えへへ♪」
「お兄ちゃんっ!何デレデレしてんのよっ!!」
「―――あいだっ!?」
望月に鼻の下を伸ばしているサクヤの二の腕を、膨れっ面の成美が捻る様に力強くグイッとつねる。
「......ったく、男って何で美人さんに弱いんだろうねぇ!プンプン!!」
「チッチッそれは違うぞ、我がマイエンジェルよ。俺は別に美人さんに弱くはない。俺が弱いのは性格の良い優し~~~い美人さんだっ!」
異世界での勇者仲間で、誰が見ても美人枠に入るであろう...サクラとユリカから数えきれないくらい酷い目にあった事がトラウマな俺は、美人や可愛いだけでは、全くときめく事はないのだよ。
「な~にが優しい美人さんに弱いだ!性格なんて初回見だけでは判断できないでしょうがっ!ハァ、まぁいいわ。とりま、お兄ちゃんの冒険者登録もしたし、昇級試験にも無事に合格したし、わたしもギルドを堪能して満足したし、そして予想外の佐々木さんのレアサインも貰っちゃったし、そろそろ家に帰ろっか、お兄ちゃん♪」
「そうだな。時間も頃合いだし、家に帰るか。身体のやつもかなりの疲労困憊で疲弊しているから、家に帰って早く休めやって言っているしな!」
それにあんな派手な形で昇級試験を合格した俺と、佐々木の奴からサインを貰った成美をジロジロと見てくる視線が痛いので、さっさとここを去りたい。
俺はさっきから突き刺さってくる周囲の視線攻撃に、これ以上は堪えきれないと、成美と共に冒険ギルドから急ぐように出た後、家路を歩いて帰って行く。