037・試合に負けて勝負に勝った
「ち、ちち、ち、ちょっと!?な、な、何ですか、今のは!?一体何が今起きたんですか!?気付いたら新人冒険者が吹っ飛んで壁にぶつかっているんですけどっ!?」
試合の審判をしていた望月さんが、秒数にして0.05秒の世界で行われていた動きだったせいか、どういう事と呆気に取られて軽くパニクってしまう。
が、直ぐ気持ちを持ち直し、
「コ、コホン!と、取り敢えず『試合』は佐々木さんの勝利...です...っ!」
試合の判定を困惑した表情で言い渡す。
「キャァァァア―――ッ!見ましたか、みなさん!流石は佐々木様です!何て素敵で軽やかな剣捌きでしょうか~っ!」
「ハァ~ホント、見事な一撃でしたわねぇ♪」
「何が素敵で軽やかな剣裁きだっ!何が見事な一撃だっ!あの野郎め、攻撃はしねぇとか言っていた癖に反撃しやがってよっ!」
「そうだ、そうだ!なのに、あんな風に派手にぶっ飛ばしやがってさ!」
「まったくだぜ!あの卑怯者がぁあ~っ!」
「何を言いますか。勝負はキレイも汚いもないんですよ~だぁっ!」
「要は勝てばいいんですよ、勝ちさえすれはねぇっ!」
「戦いは常に非常なんです。あなた達はそれが分からないから佐々木様に身の程知らずな嫉妬が出来るんですよ!」
「そうそう。花にもなれない憐れな雑草どもはこれだからねぇ~♪」
「「「「だ、誰が雑草だっ!ふざけんなぁぁぁぁああっ!!!」」」」
応援席で佐々木の行動にうっとりする女性達と、それに愚痴と不満をこぼす男性達とで、バチバチと火花を迸らせて言い争う。
「ハイハイ~熱くなるのもいいですけど、そろそろ言い争いはそこまでにして下さいねぇ~。じゃないと試合会場から追い出しちゃいますよ~?」
小鳥が圧を込めた微笑みで、応援席で言い争う男女達に軽く注意を促すと、争っていた男女の荒声が一斉にピタリと止まった。
「イタタタァ......この負け方は負け方で目立ってしまうけど、でもまぁ勝ってしまうよりかは幾分か増しだろう......」
俺が観客席にいる見学人の声や、周囲に散らばった壁の残骸を見つつ、落とした腰を持ち上げて立ち上がる。
そして、
「ごめん...成美。お兄ちゃん、お前の応援に答えるべく勝ちたかったけど、力が一歩及ばず負けちゃったよ......」
俺はヨタヨタした足取りで成美の下に帰っていくと、わざとらしい演技で無念を表す。
「そだね、負けちゃったね......」
その無念の演技を見て、成美もガッカリした表情でシュンとする。
がしかし、
「......負けはしちゃった。けどお兄ちゃん、多分昇級試験には合格していると思うよ!」
「――――へ!?」
「うふふ、おめでとう~お兄ちゃん!試合には負けちゃったけど、勝負には勝ったねっ♪」
成美が訳の分からない事を言った後、ガッカリした表情をニコリと変え、俺に向けてビシッとサムズアップを突き出す。
「いやいやいやいや!な、なんで合格になるんだよ!?だって俺試合に負けたじゃん!?し、しかもこんなに派手な負け方でさぁ~!だ、だから合格なんてなる訳がな――――」
「―――いいえ、そちらのお嬢様の言う通り、合格ですよ45番さん♪」
俺が成美の言葉を必死に否定していると、試合の審判をしていたお姉さんが拍手を混じえながら、こちらにやって来た。
「ハァアッ!マ、マジで合格だとっ!?な、なんですか!?俺、思いっきり負けましたよねぇっ!?」
「思いっきり負けたからですよ、45番さん」
「え!?」
「覚えていませんか?佐々木はあの試合中、あなたに攻撃しないと断言したのを?」
「......あ」
そういえば、あいつそんな事を言っていたな?
「...にも関わらず、あなたを攻撃した。しかも壁がこんなになるまで」
望月がそう言うと、壊れている壁をトントンと軽く叩く。
「た、確かに反撃は食らいましたよ!で、でもだからといってそれが一体なんだって言うんですか!?ま、負けは負けでしょう!?」
俺が未だに意味が分からないと、抗議していると、
「説明会で聞いてなかったのか、坊主?昇級試験は試合の勝ち負けで合格を判断するんじゃねぇ。その内容で判断するんだぜ!」
「あ、佐々木さん!」
「そしてお前は、攻撃しないと宣言した俺に反撃をさせた。それもこんなに壁が壊れる程の力でな!」
試合場から佐々木がこっちにやってきて、俺の疑問に答えてくれる。