034・陽キャラ&イケメンの必殺技
「ん?次の相手はお前かい、坊主?」
「は、はい。よろしくお願いします、佐々木さん!」
試合場で待っていた試験官の佐々木に、俺は頭をペコッとさげる。
「へえ~礼儀正しいじゃん、お前?そういう先輩を重んじる態度を見せる後輩は結構嫌いじゃないぜ、俺♪うっし!気分も良くなった事だしよ、ちょっとだけ手加減をしてやろうかなぁ~♪」
「はは。ど、どうもです......」
うわ~出たよ、出た出た!
陽キャラやイケメンの必殺技、『余裕澄ましの上から目線』がっ!
こいつらって自覚があるのか、ないのかは知らんけど、自分の方が立場が上というクソ認識で会話してくるんだよなぁ。
そして更に、相手が陰キャラやオーラのないモブキャラだと知るや否や、例え自分の立場が下だったとしても自分はこいつより上に決まってるという謎マウントを取って会話をしてきやがる。
そうそう。
あっちの世界でもアキラの野郎がさぁ、ある事件でこのイケメン斜に構えポーズをやってさ、そのせいで......だあぁぁもうっ!
思い出したくない思い出が、浮かんできたじゃねぇかぁぁぁあ~~っ!
「ぐぬぬ...イケメンめぇぇぇえ、腹が立ってくるぅぅぅうっ!」
俺はこちらの世界でもあちらの世界でも散々食らった、イケメン&陽キャラあるある被害を愚痴っていると、
「コホン、45番さん。そろそろ剣を身構えてもらってよろしいでしょうか?」
昇級試験の審判を担当する望月さんが、困惑した表情でそう軽く注意をしてきたので、
「あ、はい!す、すいません!い、今すぐ構えますっ!」
俺は慌てて木剣を前に構え、試合の準備へと入る。
『佐々木さん、45番さんともに剣を構えを確認しました。ではお二方、試合を開始して下さいっ!』
俺の構えを確認した望月さんが右手を上にパッと上げると、試合開始のコールを口にし、昇級試合が始まった。
「ふっ!そんじゃま、取り敢えずお手並み拝見ってな事で坊主からの先制攻撃でいいぜ!」
佐々木が余裕綽々なポーズで、こいこいと手招きをしてくる。
「......ち!」
いちいち勘に障るポーズを取ってくるな、イケメン野郎!
「......だがしかし、攻撃してこいって言われて......ねぇ」
俺って、正直手加減が苦手なんだよなぁ。
まかり間違って佐々木に耐えきれないオーバー攻撃を与えてしまった場合、再起不能に落としてしまう可能性が大だ。
もしそんな事態にでもなってみろよ。
「その時点で、俺ののんびりスローライフ終了じゃん!」
「く...そ、それだけはマジで避けたい!」
「さて...じゃあそうならない為には、一体どれだけ力を抑えて攻撃をすれば、危機的状況に陥らない無難な攻撃が出来るだろうか?」
相手のステータスを見る事の出来るスキルや魔法を習得していれば、相手との実力誤差を修正する事が出来たというのに。
「......取り敢えず、あの成美をナンパしていたチャラ男がC級冒険者とか言っていたし、それを踏まえた計算で攻撃してみるか......」
俺が攻撃方法をどうするか、あれこれ悩んだ結果この方法に決めた。
「ん?どうしたんだ、坊主?ああ、もしかして緊張で動けないのかな?」
そんな悩んだ姿を緊張と勘違いした佐々木が、苦笑いの表情をこぼす。
「おっと!す、すいません、佐々木さん!あなたにどういう攻撃なら有効か、それをあれこれ思案していましたので!だって迂闊な攻撃をしようものなら、前の試合の連中みたくあっさり反撃をされてしまい、一発で失格になってしまいますからね!」
イケメンや陽キャラという人種はおだてて持ち上げておきさえすれば大抵は誤魔化せるので、俺は心の全く乗っていない褒め言葉で佐々木を取り敢えずヨイショしておく。
「はは~なるなる♪そうだよなぁ~っ!確かにさっきまでの俺の試合を見てたんじゃ、攻撃するのに二の足を踏んじまうよなぁ~♪」
それを聞いて気を良くした佐々木は、自分の実力を褒められて満更でもない、ニヤニヤしたしたり顔を見せる。
「そんじゃこれならどうだい、坊主?俺はお前の先制攻撃に反撃をしない。避けるか、受ける、そいつだけで対応してやるよ♪」
佐々木はそう言うと、戦闘体勢を解いて両手をバッと左右に広げて見せた。