033・昇級試験が始まった
「ハァ~憂鬱だ......」
ハグ禁止は普通に死ねるから、昇級試験を受けはした。
けど、
「ハァ~面倒だ......」
昇級試験が始まって何度目か分からない溜め息を吐く度、俺の気分が億劫に落ちていく。
「しかしこれを再び手にするとはな、しばらくそういうのからは離れようと昨日決めたばっかだってのに......ハァ」
手に持っている木剣を悄気混じりの表情で見ながら、再び溜め息を吐く。
「でもまぁ、別に成美の奴からは勝てと言われてはいない訳だし、適当に試合をパパッとやって、その後「負けた~」って切り上げればいいか?」
あの説明係のお姉さんも、試合に負けたとしてもデメリットはないって言っていたしさ。
「とはいえ、あの佐々木って男に負けるのは何か癪なんだよな......」
俺は今試合をしている、新人と佐々木のいる場所へ顔を向ける。
「ほれほれ、どうした少年よ。もっと気合いを入れろ~♪」
「クソ!すましやがってぇぇええ!ちょっと顔が良いからって
舐めるなぁぁあああっ!」
「ほい、残念!」
「ガハッ!」
「俺はちょっとだけじゃなく、めっちゃイケメンさんなの~♪」
地面に叩き伏せた新人相手に、佐々木が斜に構えてニカッと笑う。
「キャー!ねぇ見た?今の佐々木様の表情をさ~!」
「見た見た!いつ見ても心が歓喜で騒ぐ、イケメンフェイスだよねぇ♪」
「うんうん、あれを至近距離で食らったらイチコロだよ!」
佐々木の見せるイケメンポーズに、会場の女子達がカッコいいと喜色満面な声をあげて喜んでいる。
...チッ!
な~にがカッコいいだ。
やった行為は戦いのイロハも知らん新人を、一方的にボコボコにしただけじゃんか。
だというのに、出てくる言葉がこれとは......
「...ホント、イケメンは無罪無敵で羨ましいよ」
あ、そう言えば成美の奴、こいつのパーティ...えっと確か『黄昏の果て』......だっけか?
そのファンとか言っていたっけ?
イケメンに対して愚痴と嫉みをこぼしていると、ふと成美が佐々木の所属するパーティのファンだったという事を思い出し、一体どんな感じでこいつを見ているのか、目線を成美へとチラリと向けると、そこにはキラキラした瞳で佐々木の試合を見ている成美の姿があった。
「な、成美の奴...なんて恍惚な表情で、試合を見ていやがるんだっ!?」
―――ハッ!?
「ま、まさか、俺の試合の時も佐々木の野郎を応援しないだろうなっ!?」
もし、そうだった場合.........は。
「......くくく」
覚悟しておけよ、佐々木さんよ。
俺の可愛い妹から応援を受ける、それがどれ程の大罪なのか...
「......それをあんたの身体にタップリジックリと刻み込んで教えてやるぜっ!そう...魔王もを倒したこの勇者の力を以て、完膚亡きまでボコボコにしてくれ――ー―」
―――って、違う違う!
勇者の力は使っちゃ駄目っ!
それをやったら、俺の目立ちたくない生活が一瞬で終わっちまうわっ!
「ふう...危ねぇ危ねぇ。イケメンめ、俺のハートを狂わせやがるぜっ!」
俺が上がった怒りを何とか沈めて、落ち着きを取り戻した時、
『試験ナンバー、45番。試験ナンバー、45番。試験が始まりますので
準備をしたのち、試合場へと移動して下さい。繰り返します......』
「お、キタキタ!いよいよ、俺の出番か~♪」
自分の番号がアナウンスで呼ばれた事に気付いた俺は、急いで
試合場へと駆けて行く。