003・最悪な結末
「気の合う子......か」
まあ確かに陰キャラの俺に、あんなにも気さくで楽しげに話しかけてくる女性はあいつが初めてだったよ。
―――でもな、母さん。
俺はあいつの事、逃してなんていなかったんだぜ。
逃すどころか、陰キャラだってのに頑張って頑張って頑張り抜いて、その結果、見事あいつのハートをゲットして恋仲になってたんだぜ。
.....だと...思って...いたんだ......よ。
って...のに......さ。
まさかあいつが浮気をしていたなんて......くそっ!
「電話やリンレスでもそんな素振り、全く見せなかった癖に......」
俺はどうしてなんだ!?何故なんだ!?と、懸命になって頭を悩ませて考えいくが、しかし俺の思考ではその答えを全く導びき出す事が出来ず、いつまでも見つかる事のないその激難な疑問の答えに、俺はいつまでも思考をグルグル、グルグルと乱して回っていく。
そんな状態に陥っているとは露知らずの母親は、
その後もママ友から聞かされたという、あいつの浮気話を...イケメンとのノロケ話を延々と続けていく。
思考の回らぬ頭で思わず叫んでしまいそうなあいつらのノロケ話を、延々と聞かされながら俺は額に手を置き、
「はは......何て滑稽なんだろう俺は......」
...と、苦笑いと共に悄気た負け犬の声が虚しく...
ただ虚しく口から洩れていた。
そして負け犬は思い出す。
あっさりと俺を裏切っていた浮気女とドキドキ幸せ気分で毎日、毎日、連絡を取り合っていた昨日までの愚かな自分の姿を。
「ああ......本当に何て滑稽な姿だよ......ちく...しょうが......」
浮気されていたとは全然気付かず、あいつとの会話のやり取りに幸せな気分で満たされていた自分の馬鹿さ加減に、悄気ていた心がダンダンダンダンと怒りに変わっていく。
がしかし、
それを鎮めるかの様に、また虚しさが怒りを抑えてふつふつと湧いてくると、俺は未だ、思考の回復していない頭をガクリと下に俯かせ、落ち込んでしまうのだった。
それからしばらくの間、落ち込んでいた俺だったが、表情を決意の固まった表情へと変えると、下げていた顔をスッと上にあげ、後ろポケットから携帯電話を静かに取り出す。
そして今まで騙してくれた浮気女の恵美と、そんな浮気女に騙された不甲斐ない自分自身との決着...ケジメをつけるべく、恵美の電話番号とリンレスのIDを携帯の登録欄から全て消し去り解除した。
―――それから幾数日の時が経った。
時が経てばこのやるせのない気持ちも、心にポッカリ空いた穴も塞がって治り、あいつの記憶なんて少しずつ少しずつと忘れていくものだと思った。
―――だがしかし、現実は厳しかった。
これだけ時が過ぎ去ったというのに、未だにあいつの浮気...裏切り行為のショックから立ち直る事が出来ず、
俺は毎日毎日を曖昧でボーッとした、まったくはきもない何を行動する気力も起こらない、虚空の時だけがただただ過ぎ去って行った。
そんなだらけた生活が続いた、とある日。
―――――俺は暴走してきたトラックに気付かず、跳ねられてしまった。
......はは、参ったな。
......ホント、なんだよ、これ。
......まさか、トラックに跳ねられちゃうなんてさ。
......思いっきり、宙を飛んでんじゃん。
......ハァ~これって、やっぱ死んじゃうんだろうな。
......目を瞑ってパッと開けたら夢でした、そんなオチだったら良いのにな。
......でもこの身体や節々に伝わってくる痛みを見るに、百パーセント夢ではないのは明白か。
.......ああもうクソ、あんな浮気女のせいでこんな結末で人生に幕を下ろす羽目になるなんてよ。
ちくしょ...う......めぇ。
お...願いします...神様......。
こ、今度生まれ...変わったら、俺の事を...決し...て裏切ら...ない......
そ、そんな女性と......巡り逢わ......せて...下......さ............。
俺は切実で純粋な願いを心の中で覚束ない口で呟いた後、意識を保つ限界がきたのだろうか、両目の瞼がゆっくり、ゆっくりと閉じていく。
そして両目が完全に閉じると同時に、俺の意識は完全にシャットアウトされた。