027・昇級試験
ほうほう...平均値よりちょっと高いって言われているな。
数値はどれくらいかな?
次に『鷹の目』のスキルを発動させて、測定したステータスを書き込む書類に記載されている数値を覗き見る。
なるほど、なるほど。
こんな感じか。
なら、この数値より少し落としたくらいの数値が普通なんだな。
見えた数値を記憶すると、再び隠蔽スキルを発動させて隠蔽する数値をその数値を参考にしたものへと変換させていく。
「保険として、この気をある程度押さえられる事の出来るアンクレットも一応嵌めておこうか......」
俺はポケットから取り出した、エメラルドアンクレットを右足首に嵌める。
――――それから数分後。
「お待たせしたね。では測定しようか。じゃ、さっきやったみたいに.......」
新しい測定器を持ってきた測定係のギルド員にそう言われると、俺は先程の様に人差し指にリングを嵌め、再度の測定を始める。
「ふむふむ...今度はちゃんと測定出来るな!」
......ホッ!
どうやら、今度は上手くいったみたいだな。
「...で、キミの能力だが...平均よりちょい下って感じかな?はい、これがキミのステータス数値だよ!」
測定係のギルド員が、今測定した俺のステータスの記載された書類を手渡してくる。
「正直いって、キミのステータスは平均より低い。でも努力次第で化ける奴も結構いる、だからキミもステータスが低いからって諦めず、頑張って精進しなさい!」
「あ、ありがとうございます。俺、頑張ります!では!」
諦めずに頑張れとフォローを入れてくる測定係のギルド員の優しさに、俺は「あちらの世界の愚王どもとは大違いだな!」と、ニコッと笑顔で軽く会釈すると、その場を離れていく。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あ、帰ってきた!」
俺の姿を確認した成美が、トタトタと足音を鳴らしながらこちらに近づいて来る。
「そ、それで結果はどうだった、お兄ちゃん?能力値は高かった?それともやっぱり低かった?」
「やっぱりってなんだよ、やっぱりって!ま、まぁ~ご指摘通り、可もなく不可もない能力値だったけどさ......」
そう言うと、手に持っていたステータス数値の書かれている紙を成美に見せる。
「フムフム...これを見るに、確かに平均より劣るステータスかな?でもま、戦えないステータスではないみたいだし...うん、良しとしておこっか♪」
測定結果の記述された紙を見た成美は、揶揄う様なくすくすした笑顔のあと、渡された紙を俺に返してくる。
「さてっと。お兄ちゃんのステータスも確認した事だし、そろそろ行こうか、お兄ちゃん♪」
「え?そろそろ行こうかって、どこにだ?ああ家に帰るのか?」
俺の袖を引っ張り、どこかに連れて行こうとする成美にそう訊ねると、
「違う、違う。あそこに行くんだよ、あそこに♪」
成美は人差し指をスッとある方向に突き出す。
「あそこにどこだ――――ハッ!?あ、あれはぁああっ!?」
成美の人差し指が示す場所に目線を移すと、そこは先程、説明係のお姉さんの言っていたF級冒険者への昇級試験の準備が行われていた。
「ま、まさかと思うが、お、お前...昇級試験を受けろとか言わないよな!?」
俺が「な、なに言ってんのかなこの子は!?」という困惑した表情で成美を見つめると、
「うん、言うよ♪」
成美はあっけらかんとした口調でそう言い放った後、したり顔を浮かべる。
「うん、言うよ♪...じゃねぇよ!お前、俺のステータスを見たよよねぇっ!?」
「別にいいじゃん、平均レベルのステータスでもさ。さっきの説明係のお姉さんも言ってたけどさ、試験を受けても特にデメリットはないんだし、受けていいんじゃない?で、もし合格出来たら超ラッキーじゃんさ♪」
いや、その超ラッキーが出来ちゃうから、試験を受けたくなんですよ。
「なぁ、ひ、ひとつ聞くけどよ、初日でそれをやる奴っているのか?」
「そりゃいるに決まってんじゃん!いなきゃ、係のお姉さんもあんな事は言わないし、そもそも昇級試験自体しないってば♪」
「そ、そっか...それもそうだよな......」
「それにね、昇級試験に合格した人達って、みんなS級...またはA級冒険者になってる人が多いからその縁を担ぐ為、新人冒険者はこの日を狙って試験を受けている人が結構多いんだよ?」
「―――ツァッ!?」
やえべぇぇぇええっ!?
そ、それって完全なる目立ちコースじゃんかぁぁぁあっ!
あ、危うく、成美に乗せられて試験を受けるところだったぜっ!
「なぁ、成美さん...じ、時間もない事だし、や、やっぱ試験を受けるのはまた後日って事で―――」
俺はやんわり試験を受けるのをやめる事を、成美に伝えようとした瞬間、
「―――絶っっ対に試験官なんてしねぇっ!断固としてお断りだぁぁぁああっ!!」
試験場の方角から、何かを拒否っている怒号の声が聞こえてきた。