002・振られた俺
いつか必ずまた逢おうと、恵美と再会の約束を交わした翌日の朝。
俺は部屋の窓から射してくる暖かい朝日の光を顔に浴び、目が覚めると、ゆっくりと布団から出て、学校へと行く準備を寝惚け眼で始める。
そして学校に行く準備を終えた俺は、母親の作った朝食を食べる為、一階へと降りて行った。
「おはよう~母さん!」
「おはよう、朔夜。ほら、ただでさえ遅刻気味なんだから、さっさと席について朝食をお食べなさい」
「あいよ。では...いただきますっ!」
母親と軽い朝の挨拶を交わした俺は、テーブルに置かれている朝食近くの椅子に座ると、両手をパンッと合わせ、朝食をパクパクと食べていく。
しばらく朝食をパクパク食べていると、母親がふと何かを思い出した顔をして俺に顔を向けてくる。
そして少し困惑と苦笑の入り混ざった表情で、
「ねぇねぇ聞いてよ、溯夜!ママ友の会で聞いた話なんだけど、ほら...あんたと仲が良かった娘さんがいたじゃない?えっと名前は...あ!そうそう、思い出した!確か恵美ちゃん!その恵美ちゃんに、なんと!スッゴいイケメンの彼氏さんが出来たんだって♪」
とてもにわかには信じがたい、衝撃なる情報を俺に伝えてきた。
「――――は!?」
は、はぁぁぁあっ!?
い、今、母さん。恵美にイケメンの彼氏が出来たとか言わなかったか!?
う、嘘だろ!?
まさか恵美の奴、う、浮気をしていたっていうのか!?
い、いや、そんな馬鹿な!?
だって昨日の夜、あんなにも楽しげに会話したじゃないか!?
近い内にまたデートをしようねって、計画も立てたじゃないか!?
......だというのに、
それが他の男と付き合っていた......だとっ!?
......嘘だよな、恵美!?
ママ友達の間違い、それか勘違いだよな!?
なあ...答えてくれよ、恵美!
頼むから、嘘...だって言ってくれ...よ、お、お願いだからさ......
恵美ぃ...ぃぃぃい......い~~~っ!!!
恵美の浮気情報を聞かされた俺の心は、とてもじゃないが穏やかではいられず、頭の中が真っ白になっていく。
こんな馬鹿な話、絶対に信じられないし、信じたくない。
所詮は母親同士の井戸端会議の噂話で、信憑性なんて皆無だ。
そうさ、だから直接あいつから真相を聞くまではそんな戯れ言なんて信じてたまるかよ!
―――しかし残念ながら、俺のこの切実なる思いと願いは届かない。
何故なら、母親の言うママ友達の間で流れる噂話には、一切のガセがない。常に的確で完璧な情報ばかりなのだ。
それを分かっているからこそ、俺は今にも心臓が止まってしまうのではという程のショックを受けてしまっているのだ。
だが疑問に思う人もいるだろう、どうして母親はこんな悪びれもなく、俺に恵美の浮気情報を言ってきたのかと?
それを聞けば俺がショックを受けるのは明白だというのに、何故母親はこんなにも残酷で残忍なあいつの浮気情報を俺に言ってきたのか?
―――それは俺と恵美の関係を知らないからだ。
そう...俺と恵美が付き合っていた事実を母親は知らないのだ。
そういう理由もあって、母親は俺と恵美の関係をただの友達同士の間柄だと認識している。
じゃあ何故、母親に恵美と俺が恋人同士だったと言わなかったのかと疑問に思う人もいるだろう。
その理由はとても簡単だ。
あいつと付き合っていた頃の俺は、思春期の真っ最中だったからだ。
そんな思春期特有のこじらせのせいで、俺は恵美と付き合っているという事実を母親に伝える事が、とても気恥ずかった。
そしてとうとう、恵美が引っ越して行くまで...いいや、引っ越した後でさえも、その事実を母親に伝える事が出来なかった。
そういう経路のせいで、俺と恵美の関係をまったく知らないこの母親は、他のママ友から聞いたという、恵美の浮気情報を俺に対して意気揚々としてきたって訳だ。
「もう!だから母さん、あれほど言ったよね!さっさと早く恵美ちゃんに告白をしなさいってさ!あんな美少女さんで、あんたと気の合う子は今後一切現れないかもしれないっていうのに。ホント、逃した魚は大きなかったと死ぬほど後悔しなさい、この大馬鹿息子っ!」
「あはは...そ、そうだよね......ホント大馬鹿だよね...俺って......」
俺と恵美が既に付き合っており、恋人同士の関係だったという事を全く知らない母親の呆れ口調にて述べてくる忠告に、俺は苦笑いをただただこぼすしかなかった。




