017・朔夜の気に圧倒されるA級冒険者の三人組
「ね、ねぇ...水那。い、今の気を感じた?」
先程、朔夜が見学していた冒険者ランクA級のパーティ...『戦乙女』のひとり、燃える様な真っ赤な髪を左に纏めたサイドポニーテールの少女が、冷や汗を掻いた表情でパーティ仲間に恐る恐る訊ねる。
「う、うん...火奈ちゃんも感じたんだ?い、一瞬だったけど、何て凄まじい気なの......ボク思わず、身構えしちゃったよ......」
水那と呼ばれた、深き海の様な青き髪を右に纏めたサイドポニーテールの少女もまた、火奈の言葉に同意とばかりに、静かな口調で朔夜の気が恐ろしかったを語る。
「この気の大きさを見るに、恐らくわたし達と同じレベル級の実力......ううん、違うわね。わたしがこんなに震えるんだ、きっとそれ以上かも!?」
朔夜の放ったスキル『無者の威圧』に、二人は冷や汗を掻き、身体はブルブルと震えていた。
「でもさ火奈ちゃん。も、もしこの気の持ち主が仲間になってくれたらさ、ボク達が現在悪戦苦闘している、あのダンジョンをクリアできるかもしれないね!」
「おお!水那、ナイスアイデア!そうだよ、これだけ凄い気の持ち主なんだし、実力の方も相当のものだろうからさ。もしわたし達の仲間になってくれたら、きっと今度こそ攻略できるよっ!ねぇ、風菜はどう思う?」
「う~ん、そうだねぇ....ウチもあんたらと同意見かな?あんたら....ウチもやけど、気の発動だけでこれだけ震えさせるんだ。十分...いいや、十二分の合格だよ!」
火奈達から話掛けられた...明るい緑色の髪がキラキラと輝くショートカット少女が、自分も同じ意見だと口にする。
「おお、風菜もおんなじ意見かっ!よし~では早速、交渉に......っと、いきたいけど、でもどうやってこの気の持ち主に接触すれば良いのやら?わたし、この気の持ち主の気しか感じていないからなぁ...だからいざ探せと言われても......水那は?」
「ううん。ボクも一瞬だったから見てないかな?風菜ちゃんは?」
「ウチも見てないよ、ゴメン」
「そっか。風菜も見てないのか。これは弱ったわね。わたし達の誰も見てないとなると、探しようがないんですけど......」
「何か良いアイデアはないものか.........ん?あ、あそこで放心状態になっている奴、あいつが気の持ち主を怒らせた張本人だよね......おや?あ、あのチャラ男って相良じゃない?」
風菜が『無者の威圧』を食らい放心状態に陥っている人物を発見すると、それは自分達の見知った人物だった。
「あの気、あいつに放った気だったのね......」
「どうせあいつの事だ。気の持ち主が女だったか、気の持ち主の知り合いが女だったかは知らないけど、それをナンパしようとして返り討ちにでもあったんだろうさ」
「ホント、しょうもない奴だよね......あ!そうだ!ねぇあそこで無様に放心しているチャラ相良に見つけさせるってのはどうかな?」
風菜が遠くで未だ放心状態にある、成美をナンパしようとした男を指差す。
がしかし、
「却下!」
「ボクも!」
火奈も水那も即答で風菜のアイデアに断りを入れる。
「えええ!な、何でだよ、スッゴく良いアイデアじゃん!?」
「ハッキリいって、あのチャラ男は鬱陶しいから近づきたくない!」
「ボクもだよ。正直、ああいうクソチャラとは目的の為とはいえども、話すのもゴメン被る!」
火奈も水那も露骨に嫌そうな顔をして、チャラ男とは関わりたくないという意志表示を見せる。
「はは...そうだったね。あいつら、ホント引く程しつこいもんねぇ......。利用したらきっと後々が怖い...っていうか、スッゴく面倒になっちゃうのが目に見えるか。ふう、仕方がない。じゃあ、ウチらが直接出向いて合いに行くしかないか。でも火奈っちも水那っちもはあの気の持ち主が誰だか分かんないんだよね。ウチは自分の特訓中だったから見てないし......」
探そうにもサクヤが誰なのか全く分からない戦乙女の三人は、無念とばかりに頭を抱えて落胆していると、
「ああ、そうだ!ボク、あの気の持ち主は見ていないんだけど、気の放たれた方向に女の子っぽい人物がいたのをみたよ!きっとあの子がクソチャラがナンパしようとした女の子じゃないかな?見た目もめっちゃ可愛いかったしっ!」
水那は手のひらをポンと叩くと、ナンパ野郎に絡まれていた少女...成美の姿をふと思い出した。
「おお!でかしたぞ、水那っち♪じゃあさ、その子と一緒にいる人物こそが、あの圧倒的な気の持ち主の可能性が大って事だよねぇっ!」
「うん、可能性としては大きいよ!」
「うっしゃ!ではあの気の持ち主が帰っちゃう前に、何としてもその女の子を見つけ出さなきゃね!行くよ!火奈っち、水那っちっ!」
「「おうっ!!」」
風菜の掛け声に、水那と風菜の二人が腕を上に突き上げ、気合いを入れると、サクヤの妹...成美を探しに行く。