016・サクヤ、チャラ野郎を威圧する
「ゆ、油断した......」
俺が目の前で起きている予想の当たった現実に、眉をピクピクさせていると、
「いいじゃん、いいじゃん♪そんな無下にしなくてもさぁ~!このあとどうせ暇っしょ?なら、オレっちとデートしようよ、デ・~・ト・♪」
「いいくもないし、無下にもしますし、そしてデートなんかしません!」
「またまた~そんな心にもない事を言っちゃて~♪ああ~分かったぞぉ!もしかしてテレちゃってるんだろう、キミ?うひょう、可っ愛いな~ぁ♪」
チャラ野郎がしつこくナンパを成美に続けていく。
「......しくじった」
ちょいと目を離した隙に、成美の奴がチャラ野郎からナンパを
仕掛けられているとは。
「さて...この愚か者をどうやって片付けようか.....」
目の前のチャラ野郎をどういうやり方でこの世から完全に抹消して殺ろうか、その方法を考えるべく思考を走らせていると、
「あ、朔夜く~ん!もう、どこにいたのよ~おっ!横を向いたら朔夜くんの姿がないんだもん!めっちゃ焦っちゃったじゃないか~~♪」
「―――な!?さ、さ、朔夜くんっ!?」
俺を見つけた成美が、俺の名前を呼びながら助かったといわん安堵の表情でこちらにスタタと駆けてくる。
そして、
「ホント、困った恋人さんだよ~♪」
俺の腕に自分の腕を絡め、ギュッと抱き付いてく。
「ち、ちょっと!嬉しいけど、一体どうい――――」
―――ああ、はいはい。
そういう事か。
このナンパ野郎を振り払う小芝居って事ね。
なら、
「はは、ゴメンよ~マイハニ~♪あそこに見えるAランク冒険者パーティの練習風景に熱中しちゃってたよ♪」
恋人の振りをしてくる成美に謝りながら、さっきまで見ていたパーティに顔を向ける。
「もうっ!わたしという彼女を放っておいて、他の女の子に夢中になるなんて~!あの女の子達を見てニヤニヤしていた頬はこれかなぁ~♪」
「あいだだぁぁあだぁぁあっ!?」
成美がわざとらしい膨れっ面で、俺の両の頬を手でグイッと引っ張ってプンプン怒ってくる。
そんな感じで成美と戯れていると、
「はぁあぁぁん?何なんだ、お前はさぁ?悪いんだけど、俺様の邪魔をしないでくれるかな?」
俺と成美の下に、ナンパを邪魔されて苛立ったチャラ野郎がズカズカやってくると、見下す様な目付きで俺を睨み、文句を言ってくる。
「いや、貴様は何を言っているんだ?邪魔するに決まっているだろうが!こいつは俺の彼女だぞ!それが分かったのなら、悔しがりながら回れ右をし、その女の事しか考える事の出来損ない憐れなオツムをションボリとさせながら、あっちへ行ってろっ!」
俺もまた馬鹿を見る様な憐れむ表情と、相手を馬鹿にする様な口調でチャラ野郎に向かって、シッ!シッ!と手を大きく振ってこっちにくんな、あっちに行けというジェスチャーする。
「ふ、ふざけんなぁぁあっ!てめえ、誰に口を聞いていやがんだぁぁぁあっ!俺様はC級冒険者だぞぉぉおっ!てめえこそ、痛い目に合いたくなかったら、あっちに行きやが――――」
『――――黙れ!痴れ者がっ!!』
「がぁあひぃいいぃい!?は、は、はは、は、はひぃぃいぃいっ!?!?」
威圧を込めた視線でチャラ野郎をキッと睨むと、チャラ野郎は喉が壊れそうなくらいの悲鳴を大きく上げ、そしてそのあと、抜けた腰をガクッと落としてその場にドスンと大きな音を立てながら尻餅をついてしまう。
そしてそれと同時に、ジワワワという音が周囲に響き渡り、チャラ野郎の足回りに汚い水溜まりがドンドン溢れ出来てくる。
「のわ!?ちょ!汚ねぇなぁ、おいっ!」
俺の足下に向かって汚い水溜まりが寄ってきたので、俺は慌てて後ろへと
素早く下がっていく。
そんな時、
ピピ.....ピピピ。
ズボンのポケットから、アラームの音が聞こえてきた。
「お、セットしていたアラームが鳴ってるな?よし成美。時間がきたようだから、そろそろあっちのエリアに戻ろうか?」
「う、うん、分かった......」
戸惑いと驚きの入り混じった表情で成美が俺の言葉に小さく頷くと、俺達は受付嬢の言っていた冒険者のルール等の説明会の行われるという場所に向かって移動して行く。
一方、その頃。
「ちょっと!?な、なんだったの!?い、今の凄まじい気の力はっ!?」
朔夜と成美が去っていったグラウンドに居たとある人物が、チャラ野郎に一瞬だけ放った朔夜のスキル『無者の威圧』に喫驚していた。