141・お礼と感謝の品
「そ、そこまで熱意ある視線で見られると、わたくしとても恥ずかしいので、止めて下さいませ......ぽっ」
「はわわあ!?す、すす、すいません!と、東城さんがとても綺麗な顔立ちをしていらっしゃるものだから、ついつい見惚れてしまいましたっ!」
サクヤはあわあわと慌てた表情で、当たり障りのない褒め言葉を綴り変な空気感を誤魔化す。
「あらあら。いやですわ。光野様ったら御上手ですわね♪」
「――――はうっ!?」
サクヤの褒め言葉にユカリも満更ではないと頬に手を当て、ニコリと微笑みを返す。
うひゃあぁあええぇぇぇええっ!!?
こ、こいつの笑顔めちゃくちゃこえぇぇぇえぇええ!?
何で屈託ない笑顔なのに、
あんなにも威圧感MAXなんだよぉぉおっ!!
あっちの世界での数々の記憶が甦ってきて、身体中が凍る様にゾクゾクしてくるぅぅぅううっ!!!
俺は震えの止まらない身体を両腕で力強くギュッと抱き締める。
「......おっと。申し訳ございません。話が少し脱線してしまい、肝心な事をまだ光野様に伝えておりませんでしたわね!」
ユカリがハッとした表情に変わる。
そしてコホンと軽く咳払いをした後、
「光野様。迫り来る魔物の手から我が妹を救い出して下さり、誠にありがとうございました。お陰で無事に優子は生還する事が叶いました。貴方様は優子......いいえ、我が東城家の恩人です!」
ユカリは真面目な表情へと変わり深々と頭を下げると、サクヤに恩恵の言葉を告げる。
「お、恩人だなんて大袈裟ですって!俺はただ成美に...そう、妹の成美に良い顔をしたくて優子ちゃんを助けただけなんですから。だ、だから本当に畏まったお礼も感謝もいりません!」
俺は恩人なんて柄じゃないので、何とか恩を感じないよう嘘を混ぜた言葉で誤魔化そうとするのだが、
「うふふ、またまたご謙遜を。例えそれが本当だったとしても、優子にとっても我々家族にとっても、光野様が恩人だという事には変わりはありませんわ。だからどうか優子からと我々家族からのお礼と感謝の言葉をお受け取り下さい!」
しかしユカリはそんな誤魔化しでは引く事もなく、どうか我々東城家の恩恵の言葉を受け取って欲しいと改めて頭を下げる。
「あわわ!?わ、分かった!分かりましたからどうか頭を上げて下さい!う、受け取りますから!貴女方家族からのお礼と感謝を受け取りますからっ!!」
このまま押し問答をしていると土下座までしそうな勢いだったので、俺は慌ててユカリからのお礼と感謝を受け入れ、頭を上げさせる。
「我々のお礼と感謝を受け取って下さり、本当にありがとうございます、光野様。あ、そうそう。言葉だけでは我々の誠意が伝わらないと思い、これを持参しました。どうかこれをお受け取り下さいませ!」
ユカリはそう言うと、手に下げていた豪華な絵柄の紙袋をサクヤにスッと手渡した。
「い、いやいや。言葉だけで十分ですから!だからこれはお返し...いたし......ま............っ!?」
俺はこいつから何か受け取ると絶対に録な事がないと予感し、手に渡された紙袋をユカリに返そうとしたその時、
「――――なっ!?」
か、紙袋口から覗き見えるこの箱はぁぁぁあっ!!?
こ、この箱......間違いないっ!!
アニメ雑誌のコラボ企画懸賞商品として生産され、抽選でたったの五個しか当選数がなかった、あの大天使アイナースのアクリルスタンドじゃあないかぁぁぁぁああっ!!!?
俺もいちファンとしてこのアクリルスタンドを当てるべく、小さい頃からコツコツと貯めていたお小遣いやお年玉を溶かし、そのアニメ雑誌に何通も応募したんだが、結局当たる事はなかった。
「そ、そのアクリルスタンドが俺の目の前にあるだとぉぉぉおおっ!!?」
俺は信じられんという驚愕の表情で、紙袋口から見える箱を凝視する。
「うふふ。どうやら我々のお礼と感謝の品、お気に入り召したようで嬉しいですわ♪」
そんな俺を見て、ユカリがしてやったりという表情でニコリと微笑む。
「うぐ......」
わ、分かってる。
分かってるさ。
こいつをユカリから貰うという行為は、録な事が起きない前触れだという事は。
だからいらないと突き返したい。
そうした方が正解だと理解もしている。
しているのだが、
生産数たったの五個だぞ。
この後、恐らく手に入る確率は殆どないんだぞ。
そんな超レア物、
欲しいに決まってんだろうがぁぁぁぁあぁぁああいっ!!!
こいつを貰うべきか、返すべきか、それを頭を抱えてあれだこれだと葛藤した結果、貰うの方が勝利した。
ゼェ...ゼェ...ゼェ...ゼェ...。
お、己ぇえ、流石はユカリ。
俺の心を弄びやがるぜ。
しかしユカリの奴、いつ俺がこのキャラクターを好きだと知ったんだ?
優子ちゃんとは日常を語り合う会話はしてないから、俺がアイナースを好きだと知る訳がないし。
それにユカリにも、あっちの世界で俺がこのアイナースが好きという事は語っていなかったと思う。
召喚前なら尚更知らないはず。
こいつと会うのは、これが初めてな訳だしな。
......で、でもユカリなら有り得るのか?
「あの案件の時も貴族が絡んで厄介だったあの事件の時も、いつの間にかゲットしていた数々の情報や証拠物件にて、その案件相手や絡んできた貴族達を腹黒全開のニヤニヤ顔で報復していたからな......」
サクヤはあっちの世界で敵だったり、裏切ったり、理不尽な事を言ってくる貴族達に対して行った、ユカリの様々な報復行動を思い出す。