138・四大貴族主催の大会
「おお!自分が誰かも名前も告げずに去るなんて!?マ、マジもんじゃん!?マジもんのマンガやアニメの中のヒーローみたいじゃんか、その人っ!!」
「......あはは!ほ、本当にそうだよねぇ!」
......キラキラ瞳なところ、ゴメンね友里茄。
ワタシ本当は誰かも名前も全部知っているんだ。
「ふむ。素性も分からない。名前も知らない......ですか。それは弱りましたわね。これではお礼の言葉も感謝の言葉も告げられないではありませんか......」
「ゴ、ゴメンなさい、裕佳梨お姉様。ワタシも追い掛けてお名前をお聞きしたかったのですが、ブラックコボルトにやられたケガで動けず、彼の後を追えなかったんです......」
「......ん?『彼』??」
「はう!?し、しまった!?」
優子は自分が口を滑らせた事に気付く。
「.........素性を知らないというのに、何故その御方が男性だとお分かりに?貴女もしや...本当はその御方の素性も正体もお分かりなのではありませんか?」
「はぐ!?し、しし、知りませんっ!!?か、彼って言ったのは雰囲気で...そ、そう!雰囲気がそっかなぁって思って出た言葉なんですっ!!」
「......ハァ。優子お姉ちゃん。隠すのならもうちょっと頑張って隠す努力をしようよ。それにその反応に態度、どう見ても「ワタシ嘘をついています」ってバレバレだよ......」
「優子お嬢様。武道家の御家の者として、もう少しポーカーフェイスをマスターしましょうね......」
優子のあわあわとテンパって言い訳する姿に友里茄と彩が呆れてしまう。
「さぁ優子。無駄な悪足掻きはもう止めて、その冒険者様の素性と名前を今すぐ白状しなさい!一から十、キッチリと...ですよ?」
裕佳梨が優子の両肩をガシッと掴み、威圧的MAXの表情でニッコリと微笑む。
「......うぐぐ!な、何で裕佳梨お姉様がそこまで朔...コホン!ワタシを助けてくれた冒険者に拘るのですか?」
優子はサクヤとの約束を守るべく、裕佳梨の威圧を受けても必死に耐える。
「先程も言いましたが、我が妹を救出してくださった事への感謝の言葉を伝えられないのは東城家として威信や沽券に関わります。という訳ですのね、さぁ......優子。わたくしがニコニコと微笑んでいる内にさっさと冒険者様の情報をお吐きなさい♪」
「う...うぐ......い、いや...でも......お兄さんと...の約束が......」
「いいから、お・吐・き・な・さ・い♪」
――数分後――
「......なるほど。貴女のお友達である光野成美さん、そのお兄様の光野朔夜ですか......」
「はぐぐ...ゴメンなさい、朔夜お兄さん。裕佳梨お姉様の追い込み威圧には抗い勝つ事が出来ませんでした......くっ!!」
裕佳梨の威圧感に負けた優子が手を重ね合わせて土下座し、サクヤに無念なる謝罪の言葉をこぼす。
「ふふふ。しかしブラックコボルトを一撃粉砕する力をお持ちになられる御方ですか......これは使えますわね?」
「つ、使えるっ!?使えるとは一体!?な、何に朔夜お兄さんをお使いになられようとなさっているんですか?その内容いかんによっては裕佳梨お姉様といえども盾になって全力で抵抗させていただきますよ!」
「ご安心なさい、優子。別に貴女が身構える程の事ではありませんから。ほら、貴女も知っているでしょう?年に一度、四大貴族が仕切って執り行う大会の事を?」
「年に一度、四大貴族が仕切って執り行う大会......ですか?」
裕佳梨が問いに、優子が首を傾げてしばらく考える。
「ああ!あれですか。商人ギルドのトップである四大貴族、東城、西城、北城、南城が自家の持つ全ての力...金、人脈、信頼、信用...等々。それらを使って見つけた人物を使って試合をして争い、どこの家が一番強い者を見つけ出せたか......それを競う大会の事ですよね?」
優子が手のひらをポンと叩き、裕佳梨の問いにそう答えを返す。
「ええ。そしてその大会の日にちが六月と決まり、執り行う事となったのよ」
「うわお!本当なの、裕佳梨お姉さん!あのイベントがあるんだ!やったぁぁあ~♪私あのイベントめっちゃ好きなんだよねぇ~!うふふ♪お祭り騒ぎに、彩りなる屋台の数々~♪」
「しかしその大会がどうだって言うん―――ハッ!?ま、まさか裕佳梨お姉様!?朔夜お兄さんをその試合に出すおつもりなのですかっ!?」
「ええ。貴女のお話を聞いて、その御方こそが東城家の選ぶ者として一番なる最優先候補と考えております!」
優子の言葉に、裕佳梨が静かにニヤリと微笑む。