137・東城家三姉妹
――時は現在に戻る――
「ふう...今日は大変だったなぁ......」
――ガチャ。
「ただいま~」
冒険ギルドでの聞き取りを終えた優子は、フラフラと疲れた身体を何とか動かし家のドアを開けて家の中に入る。
「お帰りなさい~優子お姉ちゃ......って!?ど、どど、どうしたの!?そ、その夥しい傷の数々は!?」
「い、一体どうなさったのですか、優子お嬢様!?」
部屋でまったりしていた三女の友里茄とメイドが優子に目を向けると、身体中に付いた優子の傷に気付き、大きく目を見開いて驚く。
「ああ、この傷?ギルドの方でちょっと色々あってね」
「い、色々とは?」
「そこまで気にする傷じゃないから心配しないで。このくらいの傷、冒険者にはなんてことない付き物なんだからさ!」
「いやいや!普通のダンジョンならそうでしょうけど。でもお姉ちゃん、今日は確かギルドが危険を監視したり管理するダンジョン内で戦ったんでしょ?そんなとこで戦ってそんな傷だらけになる訳ないじゃんか!?」
「ゆ、友里茄お嬢様の言う通りです!これは今すぐギルドへ抗議をいたしましょう!まさに東城家ご息女をコケにする行為ですわっ!!」
メイドさんは怒り心頭でそう言うが否や、携帯電話をその手に取る。
「お待ちなさい、彩!」
「ゆ、裕佳梨お嬢様!?」
「電話をする必要はありません。ギルドからは既に謝罪の言葉はもらっております。それにそもそも優子のケガの件はギルドに非は一切ありません。あるとするのならばそれは貴女です、友里茄!」
メイドこと、彩から裕佳梨と呼ばれた人物が友里茄に目線を移し、ジロリと睨む。
「うへ!わ、私!?」
「そうです、貴女の責任です。何故なら優子の身体中に出来たそのケガの数々は、貴女が引率者として紹介したあの大学生達のせいなのですから!」
「な!?あいつらのせい!?」
友里茄がビックリするさなか、裕佳梨が今日冒険ギルドで起きた、ことの顛末を詳しく話していく。
「......という経緯のケガなのです」
「お、おのれ......あいつらか!あ、あのクソ野郎どものせいかぁぁぁああっ!!よくもよくも私の可愛いお姉ちゃんを囮にしやがったなぁぁぁぁああっ!!あいつらの兄、見た目も態度もクソチャラチャラ野郎と思ってはいたけど、それ以下じゃねぇかぁぁぁあぁあっ!!」
友里茄のクラスの中でカーストトップグループにいる男子二人、その男子達の兄が冒険者でそこそこ強いといつも自分の如く自慢していたので引率を頼んでしまったのだ。
「今日大学生らと会った時、何か嫌な予感はしたんだ。あの時、空気を呼んで口を閉じなければ良かったよ!あいつらぁあ!明日学校で覚えてろよぉぉぉおおっ!!」
「そ、それで優子お嬢様!お嬢様と一緒に冒険ギルドに行ったお友達達はご無事なのですか!?」
裕佳梨からどうして優子がケガを負ったのか、その訳を知るや否や友里茄が自分の紹介した大学生達に怒りの言葉を投げ付け、そして彩は優子の友達、佐紀達の事を心配する。
「佐紀達は無事だよ、安心して彩さん。ワタシがその場に殿として残り、みんなをなんとか逃がしたからね!」
「し、殿!?お嬢様!な、なんという無茶な事を!?」
「よく無事だったわね、お姉ちゃん!?」
優子の無茶な行動に、彩と友里茄が驚く。
「あはは。流石にあの時はもう駄目だと観念...諦めそうになったんだけど、けれどたまたまその場にいた冒険者に助けてもらい事なきを終え、この通り無事で生還出来たんだ!」
「うおお!?な、何その展開!?ピンチに颯爽と現れて弱き者を助けるだなんて!それってまるでマンガやアニメのヒーローものみたいじゃん!?」
何故優子が無事だったのか、その理由を聞いた友里茄はさっきまでの怒りはどこへとばかりにキラキラ瞳の表情に変わると、優子に起きた奇跡なる展開に、感動を含んだ笑顔と言葉をこぼす。
そして彩も、
「おお、名も知らない冒険者様。優子お嬢様を魔の手から助けていただき、誠にありがとうございます!」
優子の事を助けてくれた冒険者に感謝の言葉を口にする。
「それで優子。ブラックコボルトを退治し、貴女をお救い下さったというその冒険者は一体誰なのですか?」
「え!?ワ、ワタシを助けてくれた冒険者......ですか!?そ、それは......」
.........うむむぅ。
ゆ、裕佳梨お姉様に朔夜お兄さんの事を知られるのは、何かマズイ予感がする。
「え、えっと。す、すいません、裕佳梨お姉様。じ、実はワタシもそのよく知らないんです。何せ、ワタシを助けてくれたあの冒険者様。ブラックコボルトを倒した後、素性も名も告げずにその場を去って行きましたので.......」
サクヤとの約束もあるが、しかし裕佳梨にサクヤの事を知られると絶対ロクでもない事になりそうだと直感した優子は、サクヤの事は裕佳梨には知らせない感じで進める事にした。