124・冒険ギルドに報告...していないんだろうな
「うん、しない。っていうかしたくない。だって俺がブラックコボルトを退治したってギルドに報告したら、絶対に面倒ごとが起きそうじゃん！」
「イヤイヤ。横からだけど、そこは面倒が起きたとしても報告するべきだと思うよ、お兄さん！だってお兄さん、ブラックコボルトをソロで討伐したんだよね？そんな秀逸、絶対ギルドに報告した方がいいって！」
「そうそう！優子や佐紀の言う通りだってば、成美のお兄さん！ギルドに報告をすれば、確実にランクが上がると思うよ！うんにゃ、きっと上がる！」
優子の驚きに続くように、成美の友達の佐紀さんと綾香さんも驚きの表情と共に、ギルドに絶対報告した方がいいと訴えてくる。
「うう～ん、でもなぁ。正直いってランクが上がる下がるには全く興味がないんだよなあ、俺。それよりもギルド側に目を付けられて目立っちゃう方が俺的にご勘弁だし......」
だってよ、数日前にランク外を飛び越してF級になったばかりだぞ。
だというのに、期間も開けずに上のランクって。
んなの、確実に目立ち&厄介ごとのオンパレードだわ。
そう...あっちの世界で駆け出しの冒険者の時も、後に勇者として活躍しだした時も、
絡まれたり、
嫉妬されたり、
怨まれたり、
マジで鬱陶しく面倒この上なかったからな。
そういうのって、根っからの陰キャラには本当キツイんだよ。
あの浮気女...恵美と付き合っていた時の件は俺から告白したっていう経由もあったから、正直そこまでそういった類いは苦ではなかったのだが、しかしもう自ら進んでという選択肢はない。
「成美だって勿体ないって思うよね！あなたの大好きなお兄さんの活躍劇を闇に葬るのはさ！」
「そりゃわたしだって佐紀達が言うように勿体ないと思うよ。けどさ、お兄ちゃんの気持ちも大事にしたい。だからお兄ちゃんの意を汲み取り、これ以上あれこれ言うのはもうやめようよ」
「ま、まぁ確かに本人が嫌だって言ってるんだもんね。分かった、私ももうこれ以上は何も言わないでおくよ」
「ワタシもだ！」
「うん。しつこくごめんなさいね、成美のお兄さん」
成美の言葉に、佐紀と優子と綾香が了解したと口を揃える。
それを聞き、成美が「ありがとう、みんな！」と頭を下げる。
そして成美がゆっくり頭を上げると、
「と・こ・ろ・で......少し良いかな優子さん？あなた、何ゆえにお兄ちゃんからお姫様抱っこをされているのかな？」
見た目はニコニコ笑顔だが、しかし殺気がだだ漏れしている表情に変え、優子に自分の顔をスッと近付ける。
「こ、これはブラックコボルトとの戦闘のせいで、足が震えて立てなくなってしまってな。だから朔夜お兄さんが気を使って、ワタシをこういう形で運んでくれたのさ！」
「それにそれよ、それぇえっ！あんた何でお兄ちゃんの事を朔夜お兄さんって呼んでいるのかな～っ！かなぁぁ～～～～ああっ！！？」
「――はひぃ！？そ、その刺さる様な顔圧はやめろ！？コホン、それはだな！成美と被るから...だよっ！ほ、ほら、成美と朔夜お兄さんがいる時に光野さんって発したら、成美も一緒に振り向きそうじゃないか？だからワタシが朔夜お兄さんに頼み、そう呼ばせて貰う事にしたんだよ！」
威圧と殺気が更に上がった成美の至近距離ニコニコ笑顔攻撃に、優子がたじろぎつつも朔夜お兄さんと呼んでいる言い訳を繕っていく。
「ふむ。なるほどなるほど、あんたの言い分は良く分かった......」
「......そ、そっか。わ、分かってくれたんだな。なら良か―――」
「―――でもそのような気遣い、全く無用なのでこれからは朔夜お兄さん呼びは禁止の方向で―――」
「―――断るっ！！」
成美から朔夜お兄さん呼びの禁止命令を受ける優子だったが、しかし先程までの怯えはどこにとばかりの表情で両の目を大きくクワッと見開くと、優子は流れる様な脊髄反射でノーという言葉を成美に速攻で返す。
「はい？わたしがちっとも気にしないって言っているんだぞ♪だ・か・ら・素直に従いなさいな......ね♪」
成美がニコニコ笑顔と共に威圧と殺気をMAXに上げてそう返すが、
「い・や・だ・ね♪ワタシがそう呼びたいんだ！即ち！成美の戯れ言なんぞ耳に入れる気は毛頭ないっ！！」
だが優子もまた、威圧の込められたニコニコ笑顔を浮かべ、成美に対してそう返答を返す。
「てめぇええ！わがままも大概にしろよぉぉおっ！マジで残り少ないあんたのそのHPにとどめを刺してやろうかぁぁぁああっ！！！」
優子の返答に、ブチ切れな成美が噛み付きそう勢いで優子に飛び掛かる。
「ち、ちょっと！お、落ち着きなってば、成美っ！！」
「どうどうどう！優子は怪我人なんだから......ねっ！ねっ！！」
しかしそれを佐紀と綾香がやんわりと羽交い締めにして優子から成美を遠避けていく。
「ったく。あんたのお兄ちゃん好きにはホント困ったもんだねぇ.....でも今はこんな所で喧嘩なんてしている暇はないよ。大事になる前にいち早くギルドに帰り、私達が無事だっていう事を報告しなきゃいけないんだし！」
「大事か......だがあのクソ野郎ども。果たしてワタシ達の事は元より、ブラックコボルトの事をギルドに報告しているだろうか？」
「だ、だよねぇ。あいつらには囮にされちゃった訳だし、多分...いや確実に虚偽の報告か、はたまた報告すらしていない可能性があるかもね？」
「ああ...その可能性は大きいか。あのクソ野郎どもだもんな？」
優子、佐紀の二人は、あのチャラ大学生達がブラックコボルトの事を冒険ギルドにはきっと報告をしていないだろうなと、それぞれ呆れ口調の言葉をこぼす。
「おのれぇぇえ、あのチャラ野郎どもめぇぇえ！逃げるわたし達を蹴り飛ばし、ブラックコボルトの壁にして逃げやがってぇぇぇぇええっ！マジで絶対に許さんからなぁぁあっ！！」
そして綾香は自分達を囮にして逃げて行ったチャラ大学生達に対し、顔を歪めて苛立ちと怒りを露にする。
