012・妹の達てのお願い
ぐぬぬぅぅぅう!
お、おのれぇぇえっ!
毎回毎回、俺の前でイチャイチャ&キャフフしやがってさぁぁあっ!!
そしてその度、その度、
俺を揶揄う様なニヤニヤした目付きでこっち見んなっつうのぉぉおっ!!
......ああ、ああ、分かってますよ。
この怒りは陰キャラの妬み嫉みからくるものだっていう事はさ。
そしてあいつらのそんな態度もまた、悪意のない陽キャラ特有の行動である事は理解はしている。
けどねっ!
ムカつくもんは、ムカつくんですよっ!!
陰キャラはね、その軽いノリが嫌いだから陰キャラなのだからっ!!
......でもまあ、
あいつらからは卑下されたり、蔑まれる事はなかったので憎むまでには至ってないけどね。
......ともかくそういう理由もあって、
俺がイケメンを嫌う原因、それは間違いなくあいつらのせいなのだよ。
あ、無論。あのクソ浮気女の浮気相手も俺のイケメン嫌いの原因にキッチリガッチリ含まれていますけどねぇっ!
何が「キャー!真の勇者様~♪」だっ!
何が文武両道、生徒会長だっ!
恵美の事なんぞはどうでもいい。
が、イケメン野郎は別問題なんだよっ!別腹なのっ!!
まぁ確かに、あいつらイケメン野郎どもに勝てないと悟りはしたさ。
―――けどねっ!
心はまだ負けを認めてはいないんだからぁぁぁあぁぁあっ!!!
俺がかつての勇者仲間だった連中と、かつての恋人だった恵美のイケメン彼氏に対して怒りを露わにしていると、
「ち、ちょっと、どったのお兄ちゃん!?顔が怖いんですけど!?」
俺の見せるイケメン嫌悪感の表情が余程酷かったのだろうか、成美から思いっきりドン引かれてしまう。
「よ、よ~し、そういう気分の時は気分転換が必要不可欠だと思うんだよ!...ってな訳でお兄ちゃん、明日、冒険ギルドにレッツらゴーしちゃおうよ♪うんうん、それ良い!これ決定事項ねぇ♪」
「―――はあぁぁあ!?」
成美が良い事をひらめいたとばかりに、意味不明な事を喜色満面の笑みで提案してくる。
「気分転換は分かる!けどさ、何で気分転換をする場所が冒険ギルドなんだよ!?まったく以て意味が分からないんだけど?それに俺は冒険者にはならないって、さっき話したと思うんだが?」
「ええぇぇえぇ~!いいじゃんかっ!そんなこと言わずに行こうよ~冒険ギルドにさぁ~~っ!お兄ちゃんのそのストレスもダンジョンに蔓延る魔物をバッタバッタと叩き潰していけば、きっと解消すると思うんだよ!うん、絶対にするよっ!」
ギルドに行きたくない俺を、成美が懸命に説得してくる。
「ぐ、ぐむぅ......まぁ確かに、ストレス発散にはなるとは思うけどさ......」
事実、当初の俺は異世界に召喚された時、魔物どもをひたすら無心で倒し続ける事で恵美へのムカつきを忘れる事が出来たしな。
「でしょでしょ!ストレスを無くせばさ、その荒んだ根暗い気持ちも回復するかもしれないと思うんだよ!そうなれば、わたしも嬉しいし、お兄ちゃんも気が晴れてスッキリするし!うん!これこそまさに一石二鳥ってやつだよ♪」
成美がニカッとした笑顔をしてドヤ顔を決めると、俺にグイグイ迫って説得を続けてくる。
「そういう訳なので、お決まり決定って事でいいよね?ねぇ!ねぇっ!!」
「う~む。お前の言う通り、冒険者になる事でこの溜まった鬱憤を払うには丁度良い環境だってのは凄く分かる。分かるんだけども......でもどうにも気乗りがしてこないんだよなぁ......」
正直、しばらくの間は戦いから離れた生活をしていきたいんだよね、俺。
「ええぇぇえ!いいじゃん、いいじゃんっ!お兄ちゃんのだ~~い好きな妹の頼みなんだぞ~~行こうよ~~~っ!」
「――――なうっ!?!?」
未だ行きたくないと愚図りを見せる俺に、最終手段とばかりに成美が俺の腕に向かって胸を押し付ける様に、力強くギュッと抱き付いてくる。
そして、
「ねぇ~ねぇ、ギルドに行こうよ!お~ね~が~い~お兄ちゃ~~ん!」
成美がキラキラした羨望の上目遣いでこちらをじぃぃーっと見つめてきた。
はぐぐぅう。そ、その二の腕攻撃とキラキラ攻撃は...ひ、卑怯なり......っ!
.....ふう、
し、しょうがない。
可愛い妹からこんな羨望の眼差しで頼まれたら、断る訳にはいかない......か。
「......分かったよ、成美!んじゃま、行くとしますかね、冒険者ギルドにっ!」
「ホ、ホント!?うおおぉぉおっ!やったぁぁぁあぁあいっ!!」
俺の決意を聞いた成美は喜びのあまり、花咲く満面の笑顔をこぼしながらバンザイを何度も何度も繰り返すのだった。




