119・予期せぬ展開
「う~ん、そだね。別の魔物とも戦ってみたい......かな?」
「オッケー♪」
他の魔物と戦いという成美の言葉を聞き、俺はダンジョン出入口でギルド員から手渡されたダンジョンマップをパッと広げると、次の目的地をどこにするかと目を向ける。
「ふむふむ。このダンジョンマップを見るに......ここの地点にいるコボルト辺りが良いターゲットかな?」
この階層ではスライムの次に弱いとされる魔物みたいだしな。
「コボルト?」
「ああ。成美はまだ初心者の初心者なんだ。だからあまり無謀な戦闘をせず、確実に倒せる魔物を無難に倒していこう。おっとその前に、武器と防具が破損とかしていないか、歩きながらでも良いからちゃんとチェックしておけよ。戦闘中に武器や防具が壊れでもしたら目も当てられないからな!」
「うん分かってるよ、お兄ちゃん!」
成美がニコリ顔でそう言うと、サクヤに注意された武器の状態チェックをする。
「でもお兄ちゃん、ホント冷静だよね?お兄ちゃんもダンジョンは初めての筈だよね?なのにさっきも言ったけど、ベテランの...経験者の貫禄が滲み出過ぎじゃないかな?」
「はぐ!?は、初めても初めて!初めてのダンジョンですよ~!自分、マジのピッチピチの初心者さんですよぉ~、あははは♪さ、さぁさぁ成美さん!そんなどうでも良い話よりもさっさと次の場所に向けて移動しちゃいましょうや~~~~っ!!」
慌てる事なくテキパキと指示をする俺に対し、めっちゃ疑いを含んだジト目で成美がこっちを見てくるので、俺は全力の苦笑いでそれを誤魔化し躱すべく、次のターゲットのいる場所に身体をクルッと向けて急ぎ足で移動して行く。
「あ!?ち、ちょっとお兄ちゃん!?置いて行かないでよ~~っ!」
そんな俺の後を成美が慌てて追い掛ける。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふう。意外に遠かったね、ここ......」
「はは。直線に進んだら近かったんだろうけどな......」
ここまでの道のりはクネクネした道ばっかで、左に曲がったかと思えば右に曲がったりとかだったもんな。
「そんじゃ早速、ターゲットのコボルトさんのいる場所を探すとしますか!」
俺がコボルトのいそうな場所に目線を移し、探知スキルを発動させようとした次の瞬間、
「うわぁぁあああっ!きき、き、聞いてないぞぉぉぉぉぉおっ!?」
「な、なんでだよ!何であんな魔物がこの階層にいやがるんだぁぁあ!?」
いかにもチャラ男な男性二人が血相を変えてこっちにダッシュしてくる。
「死にたくない!死にたくない!死にたくないよぉぉぉおおおっ!!お、おお、俺は自分の命が一番大事なんだよぉぉぉおぉぉおおおおっ!!」
「お、俺だってそうさぁぁあ!そ、それに俺はみんなが憧れる英雄となりうる男だぁぁあっ!だ、だから悪いけど嬢ちゃん達、その未来の英雄たる俺の為にその命を賭けて囮となり、そいつの動きを防いでいてくれやぁぁぁああっ!!」
唾を撒き散らす様に叫声を荒らげながら、俺達には一切脇目も振らずにその横をチャラ男どもが駆け抜けて行くと、ダンジョンの出入口に向かって一目散に走り抜けて行った。
「な、何だったのよ、あのチャラ男どもは!?血相を変えて死に物狂いで走り去って行ったけど!?」
「そんなに慌てる様なものがあっちの通路にあるのか?」
俺はチャラ男どもが逃げて来た場所に目線をスッと向ける。
なっ!?
何だ、この魔物の放つ威圧感!?
この魔物、ここにいる魔物達のレベルを遥かに越えているんですけど!?
先程チャラ男達が逃げて来た通路の少し先の方角に、この階層にいるとは思えない威圧感を放つ魔物がいる事に気付く。
「な、何でこんな魔物がこの一階層にいるんだ?」
「あ!み、見てお兄ちゃん!また誰かがこっちに走って来る......って!ああ、あの子達!佐紀と綾香じゃんっ!?」
「佐紀?綾香?も、もしかしてあの子ら成美の知り合いか、何かか?」
「う、うん。知り合いどころか大親友だよっ!」
俺の問いに成美が深刻そうな表情でそう答える。
「ハァハァ...た、助けて下さい!」
そんな会話を成美と交わしていると、成美から佐紀と綾香と呼ばれた女性二人が俺達の下に辿り着く。
「ど、どうしたのよ、佐紀、綾香!そんなに慌てちゃって!?」
「ふえ?ど、どうしてあたし達の名前を......って、ああ!あ、あんた成美じゃんかっ!?」
パニックから目の前が見えていなかったのか、駆け寄った相手が自分の親友の成美だと今気付く。