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117・鬱憤とストレスがもたらす称号


「一......二......三匹か」


通路の奥にいるスライムの数を目視で素早く確認すると、俺は鞘から刀を静かにスッと抜いて身を構える。


「わ、わたしも武器を......だよねっ!」


それに続き成美も、緊張した手で背中に装備していた武器ホルダーから両薙刀を取り出して身を構えた。


「さて。成美は何匹と戦いたい?」


「え!わたしが決めていいの?じ、じゃあ最初だから安全に攻めたいんで取り敢えず一匹で!」


「一匹だな。うん分かった。そんじゃ俺は残りの二匹を担当するよ!」


俺は成美に戦いたい数を確認した後、自分のターゲットである二匹のスライムに向かってダッシュで駆けて行く。


「とりゃっ!」


「――――ピキ!?」


まずターゲットの一匹目のスライムのいる場所に踏み込み、素早く刀で斬り裂いた。


「よし次っ!」


そして斬り下げた刀の刃先を間もなくクルッと横に向けると、


「てりゃあっ!」


「――――ピキキ!?」


残りのターゲットであるスライムを横一文字に斬って捨てる。


「ふう、任務完了♪」


刀をサッと振って鞘に静かに戻すと、ターゲットのスライム二匹が消えて魔石がコロンと二つ転がり落ちた。


「いや~久しぶりのスライム戦だったぜ!」


最初の頃、スライム(こいつ)達にはお世話になったんだよなぁ。


そう...女神によって召喚された異世界で勇者扱いを受けるどころか、無能呼ばわりされて罵倒された挙げ句、何の準備もなくポイと城から追放された俺は、召喚されたあの城の愚王とその配下ども、そして元カノ恵美の浮気の事で溜まりに溜まった鬱憤(ストレス)を晴らす為、ただひたすらにガムシャラになって、このスライムをボコボコにしていた。


当時色々と貯まっていた怒りを晴らすべく、とことんスライム退治に明け暮れていたあの日々を懐かしく思い出し、俺は感慨深い感情に浸る。


「そしてこいつらを毎日ボコボコにしまくったその結果、俺のステータス欄に『スライムスレイヤー』と『スライムバスター』っていう二つの称号が刻まれたんだよなぁ......」


この称号...特に『スライムバスター』の称号を持っているとアキラ達に話すとあいつら思いっきりドン引きしていたっけ?


勇者仲間達にドン引きされた理由。


それは、


『△△スレイヤー』の称号は、同じ敵を千匹倒す事で入手が出来る称号で、効果は記載された魔物に与えるダメージが一・五倍になる。 


そして『△△バスター』の称号は同じ敵を五千匹倒して入手出来る称号で、効果は記載された魔物に与えるダメージが二倍になる。


「......はは。五千匹って」


逆の立場だったら俺もアキラ達と同様にドン引きしちゃうと思う。


因みにスライムバスターのスキルを習得した経緯は、恵美やあの愚王共の鬱憤や恨みだけのせいじゃない。


習得した理由。


それはあっちの世界に召喚されてしばらく経った際、


ふと俺は気付いてしまったのだ!


そう...成美とハグが出来なくなってしまったという事実にっ!!


その事実を知るが否や、俺の心は言葉には言い表せない程の絶望と悲しみのショックに陥り、


このやるせなく、どこに持っていってよいか分からない感情を怒りと変えてスライムをしばきまくった結果なのだ。


「......まぁアキラ達に合流した後は色々とイベントが盛りだくさんな事もあり、成美や恵美の事を思い出す暇が殆どなかったけどな......」


そうそう、因みにこのスキルツリー。


同じ敵を五千より更に上、万匹以上倒す事で入手出来る称号も存在するらしい。


しかし残念ながらその偉業を達成した者は誰もいないらしく、それが一体どんな称号なのか、どんな効果を持っているのか、詳細は一切不明とのことだ。


「......さて。あっちの世界の事はここまでにしておくとして」


俺はあっちの世界の思い出を頭の引き出しにそっとしまうと、


「おお~~い、成美!こっちは全部片付いたぞぉ~~!」


先程ゲットした二つのスライムの魔石を手に持ち、それを成美に見せながら手を大きく左右に振る。


「...............」


だが成美は俺の掛け声に返事を返さず、目を大きく見開き口をあんぐりと開けてその場に立ち惚けていた。


「ち、ちょっと!な、成美さん!?駄目だよ、何をそんな油断全開でポカンとしてちゃ!さっき何度も言っただろう?そんな隙はなるべく作っちゃ駄目だってっ!」


隙だらけで唖然としている成美の下に大慌てで戻ると、俺は注意混じりの説教をする。


「いやいや!いやいやいやいやっ!ポカンともなっちゃうってばさっ!な、何なの今の動きはさっ!?お兄ちゃんの今の動き、サイトの動画で見たどこのA級冒険者達よりも上の動きだったんですけどっ!?」


ハッと我に帰った成美が動揺と困惑の入り混じった表情へと変わり、先程行った俺の戦闘の動きに驚きを見せていた。


「―――へ?」


う、嘘だろ!?


今の戦いがA級冒険者よりも上の動きだっていうのかっ!?


だってあれ、かなり力を抑え込んで戦ったんですけど!?


ヤ、ヤバ!


と、取り敢えず、誤魔化しの言葉をせねばっ!?


「......え、えっと...そ、それは...つまり......だな。そ、そう!お、俺も成美と同じで初めてのダンジョンだったじゃん?だ、だからさ、テンションが爆上がりのメチャ高めだったんだよっ!ほ、ほら言うじゃんっ!人は感情の変化で良しにも悪しにも身体能力が変わっちゃうってさっ!」


俺は慌て口調で適当なそれらしくも尤もらしい言葉を繋ぎ合わせていき、さっきの戦闘の動きの言い訳を懸命に繕っていく。


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 きっとスライム一万匹は「スライムジェノサイダー」
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