107・古島に勝ったご褒美という名の奈落の地獄
「へえ~。中々やるじゃんし、委員長!」
「てっきり委員長はひ弱キャラと思ってたのに、まさかこんな馬鹿力の持ち主だったなんてねぇ!」
「うふふ。華宮家の技、お姉ちゃん程じゃないけれども私もそこそこ嗜んでいますから。強者に勝つ事は難しいでしょうが、しかし素人レベルの貴女達には負けは致しませんよっ!」
理緒さんの見せる大胆な抱き付きを皮切りに、心愛と亜依子と理緒さんの俺に抱き付く為の合戦が繰り広げられる。
「キャァァァアアッ!ねぇねぇ、見た見た今の見た!?」
「見たわよ!キスよ、チューしちゃったよあの二人っ!」
「キャ!二人とも大胆過ぎる~っ!!」
「それを言うなら委員長もだよ!」
「うん。委員長ってば、意外に大胆じゃん!!」
「だね。まさかの参戦だよ!」
「くうう!あの三人の性格が羨ましい!私も光野君とキスしたいんですけど!」
「あたしも超したい!光野君とのキスなら自慢出来るレベルだもんねぇ♪」
「じゃあ、あれに参戦しに行くかい?」
「よせやい。あたしはまだ死にたくありませんってぇの!」
「私もあそこに混ざったら、一秒も持たない自信があるよ......」
「だよねぇ~♪」
これまでの一連のやり取りを見ていたクラスの女子達が、黄色い声や熱のある視線、そして羨ましいという視線を俺達に向けてくる。
「「「「「..................」」」」」
クラスの女子と同じく、俺達のやり取りを見ていたクラスの男子達は、女子とは真逆の嫉妬や妬みなる視線を飛ばしてくる。
がしかし、先程の体育の授業で朔夜が試合で古島をボコボコにしたあの参劇がまだ頭の中に鮮明と残っていたので、誰ひとり朔夜達に対してヤジを飛ばす者はいなかった。
......ふふ。
......ふふふふ。
......ふふふふふふ。
なるほど。
なるほどねぇ。
こいつがモテるという感覚なのかぁあっ!!!
うっしゃぁああぁいっ!!
ついに...ついに俺の時代が招来したりだぜぇぇぇええっ!!!!
あっちの世界ではいつもいつもアキラ達のモテモテぶりをあいつらの後ろから憎々しく睨んで来た俺だったが、
だがしかしぃぃいっ!
ようやくこの俺にも、このモテモテと言う名の天国を味わう日がやって来たのだぁぁあっ!!
俺は感無量とばかりに目頭を熱くすると、グッと強く握った拳を天高く突き付ける。
「......それはそうとして。理緒さん、意外に戦闘のセンスがあるのな?」
亜依子や心愛の攻撃を難なくひょいひょいと躱す理緒さんに感心する。
「もしかしたらあの時、俺が助けに入らなくても何とかなっていたかも?」
......いや、結構動けてはいるけれども、でもあの変態イケメンの用心棒だったあの大柄な男に勝つには些か難しいかな?
「それに理緒さんのあの動き、どこかで見た様な気がするんだけど?」
はて...一体どこでだっけか?
俺は首を傾け、それが一体どこでだったかをしばらく思考する。
「―――ハッ!?」
そうだ、そうだ!
思い出したよ!
あいつだよ、あいつ!サクラだよっ!
理緒さんのあの戦い方と動き、サクラにとても似てるんだよっ!
「...って事はやっぱり理緒さんって、サクラの親類か何かなのかな?」
その事を理緒さんに確かめてみたいが、だけどもし違っていたら「え?誰ですか、そのサクラって人は?」とか返されても返答に困るしな。
仮に合っていたとしても「え?光野君と知り合いなんですか?一体どこで知り合ったんですか!?」とか返されても、どう返事を返せば良いのか狼狽えまくる自分の姿が目に浮かぶ。
俺は理緒さんとサクラの関係性が気になるけれども、しかし如何せんコミュ不足な俺ので多分そういう事になりそうだなと思うと、取り敢えずその事は横に置いておく事にした。
......おっと!いかんいかん!
「理緒さんとサクラの関係性も気になる所だけども、いい加減あの三人を止めなきゃなっ!」
俺は気持ちを切り替え、目の前で互いに牽制しあっている亜依子達に目を移すと、三人の争いを止めるべく足を動かす。
「......でも俺を巡って争うかぁ」
モテるって、こんなにもドヤってなるんだなぁ。
これがイケメンや陽キャラ共がいつも味わっている、勝ち組という名の幸福で高揚的な気持ちなのか。
俺は遅過ぎでやっとやって来た自分のモテ期に対し、ニヤニヤと高揚感が止まらないという表情で、亜依子達のキャットファイトを止めに入る。
そんな幸せという名の天国に、俺の心は幸福絶頂に浸っていた。
が、
しかしこの数時間後。
俺はその幸せ天国から、奈落の地獄という名の絶望へと突き落とされる事となる。
「......クンクン、クンクンクン。ねぇお兄ちゃん?何でお兄ちゃん身体からこの間のメス豚共の匂いが媚り付いているのかなぁ♪」
お帰りのハグをした成美が俺の身体を鼻でスンスンと匂った後、ニコッと笑ってはいるが、しかし瞳の奥は全く笑っていない上目遣いで俺の顔をジッと見てくる。
「はひぃぃいっ!?ええ、え、えっと、そ、そそ、そ、それはですねぇ!?か、感謝といいますか!ほ、褒美といいますか!つ、つまりはそれをあいつらから
受けまして...ですねぇっ!」
「ほう...その感謝と褒美の原因というのは、頬にキスまでされる程のものなの?」
「―――はう!?な、な、何故そんな事までがお分かりにぃぃぃいっ!??」
我がマイエンジェルの察知能力、本当マジハンパねぇぇぇえええっ!!!
「......でもまぁ、この匂いの感じ。お兄ちゃんからってな訳じゃなさそうだし、少しだけ刑を軽減してあげますか......」
「え?少しだけ刑を軽く?」
「コホンッ!ではお兄ちゃんへ刑を言い渡しますっ!お兄ちゃんはこれから三週間、私とのハグを禁止と致しますっ!!」
「―――なっ!?さ、ささ、三週間のハグ禁止ですとぉぉぉぉおっ!!??」
成美から言い渡される三週間ハグ禁止という刑に、この世の終わりが来たという表情でその場でバタンと崩れ落ちると、俺はそのまま気絶してしまうのだった。