105・古島の下らない言い訳を成敗
「ゼェ...ゼェ...ゼェ...ぐぬぬぅぅっ!な、なんで...だよ!な、なんで俺の攻撃がちっとも当たらねぇんだ!スキルでスピードを上底した攻撃...な、なんだぞ!?だというのに、何で全然あいつに当たらねぇぇぇえっ!クソが!クソが!クソがぁぁぁぁあっ!!」
自分の攻撃が全く当たらない現実に古島が思いっきり顔を歪め、何度も床をバンバン叩いて悔しがる。
「......なぁ、古島。ひとつ質問してもいいか?」
そんな子どもの様に悔しがる姿を晒す古島の下に俺は近寄って行くと、さっきからどうしても気になっていた疑問を聞くべく口を開ける。
「あの不良どもに絡まれた時にさ、何故その素早さをアップさせるスキルを使い、亜依子と心愛と一緒に逃げなかったんだ?そのスキルを使用すれば、恐らく亜依子と心愛を連れてあの不良どもから逃げ出す事が出来たよな?」
「うぐ!そ、それ......はっ!?」
俺の疑問を聞いた古島は、バツが悪そうな表情へと変わっていくと視線を俺の目線から反らす。
「それは...なんだ?なぁ、あいつらと共に逃げなかった理由は何なんだ?」
しかし俺は古島の反らした視線の先に自分の目線を向けると、真面目な顔付きで再度古島に疑問の答えを問う。
「......あ、あの不良共、攻撃スキル持ちだったんだよ。そ、そんな連中から亜依子達を連れ...て、もし逃げられなかったら...よ。お、俺が...あいつらに捕まって....ボコボコにされちまう...じゃねえ...か...っ!」
古島の口からポツポツと語られていく疑問への答えは、俺の想像通していた通りのとても残念で情けない内容だった。
「......つまりは、自分は不良どもからヒドイ目に合いたくなかったから、確実に逃げられる勝算ある選択肢をとったって事か?確かにお前が言うように、亜依子と心愛さえいなければ身軽になってあの不良どもから逃げられる勝算がグッと上がるもんな?」
「ああ!そうだよそうだよっ!てめえの言う通りだよっ!俺はこの世で自分が一番可愛いんだよぉぉおっ!だからあいつらを置いて逃げたっ!だ、だがよ、それの一体どこが悪いっていうんだよっ!そこで聞き耳を
立ててるクソ共も俺の立場になればよ、きっとみんな揃って逃げ出すさぁあっ!誰だって自分の身の安全が一番大事で最優先だもんなっ!!なあなあ、俺の言っている事は間違っているかっ?あ"あ"あ"あ"あ"んっ!!!」
完全に開き直った古島は、逆切れ気味の大きな声でギラついた目で周囲一帯に叫び散らす。
「「「「..................」」」」
古島の訴えにクラスの男子達は「お前と一緒にするんじゃねぇよっ!」と言ってやりたかったが、しかし自分も古島と同じ立場だったら恐らくその場から逃げ出している確率が大きいだろうなという自覚があったので、全員揃って口を閉ざして黙り込んでしまう。
「ハァ...ハァ......ハァ......ほれ見てみろよ、光野!誰も彼も俺の言葉に反論しねぇだろがっ!結局どいつもこいつも自分さぇ良ければいいんだよっ!くわあはは!あははははははっ!!」
自分の訴えに対し、誰ひとりと反論をしてこないクラスの男子を見て、古島はしてやったりという高笑いが体育館の中に響き渡る。
「......そうだな。確かにお前の言い分は正論だよ........」
事実あっち世界でも、逃げ時を少しでも間違えていたらイコール死という状況がいくらでもあった。
自分の我儘な感情をグッと押さえなければ、アキラ達や魔王を倒すべく一緒に戦ってくれた仲間達を死の局面へと巻き込んでいたであろう場面も多々あった事もまた事実。
............だけどな。
だからと言って、
「不良どもの下に亜依子と心愛を置き去りにして大ピンチへと追いやったてめえがぁぁあ!何事もなかったっていう面で後悔も謝りもせず、あいつらに気安く話し掛けちゃあ論外だろうがあぁぁぁああっ!!!」
「――――のべが!?!?」
加害者の分際で被害者達に対して悪びれもなく接近した挙げ句、挨拶なんてしてんじゃねぇよ!正論以前の問題じゃああっ!!と、俺は古島を頬を思いっきりビンタすると、古島はビンタを食らった衝撃で身体を勢い良くグルグル回転させながら体育館の壁にめり込む様に激突する。
「あが...あが......あが.........がは!?」
そして激突した壁の中で古島があわあわと声にならない声をこぼした後、口からブクブクと泡を吹き、壁から床へと崩れ落ち、そのまま白目を剥いて気絶した。
「え..................??」
試合の審判をしていた教師が目の前で起こった惨状に何事が起きたのかしばらくの間理解出来ず、唖然と立っていたが、
「し、勝負あり!こ、この試合、光野の勝ちっ!」
これを俺がやった理解が追い付いた教師が、震える手で笛をピッと吹いて俺の勝ちを宣言する。
そしてその後、未だに気絶している古島を介抱するべく、教師が猛ダッシュで古島の下に駆けて行った。
ザワ...ザワ...う、嘘だろ!?
ガヤ...ガヤ.....ビンタしただけで、人ってあんなにぶっ飛ぶのかよ!?
ザワ...ザワ...こ、古島の野郎、完全に死に掛けてんじゃん!?
ガヤ...ガヤ...光野の激おこ、超怖ぇぇぇぇええっ!?
光野と古島の試合で起こった惨状に、試合を観察していたクラスの男子一同が目を大きく見開いて喫驚すると、
「「「「こいつは絶っっ対に、怒らせない様にしなければっ!!!!」」」」
全員がその言葉を心に深く深く刻み込むのだった。