103・古島、スキルを使う
「まぁ何はともあれ、あんなにもパワーアップした光野の奴と試合する事にならなくて良かったぜ!」
「ああ、古島の馬鹿には本当に感謝だな!」
「俺、あいつとよく組まされていたから特に感謝だよ!」
クラスの男子達が光野の物凄い蹴りで吹っ飛んだ古島を見て、自分達が光野と試合をする羽目にならなくて本当に良かったと心から安堵する。
そして、
「ふう良かった。俺も危うく光野と試合する所だったぜ......」
試合の相手を何気な気持ちで光野に選ぼうとしていた隅田だったが、あれを食らう羽目にならなくて救われたと、古島の横やりに感謝の苦笑いをこぼしつつホッと胸を撫で下ろす。
「お、おい、古島!だ、大丈夫か!?しっかりしろ!い、意識はあるか!?」
審判をしていた教師が古島に近付き、大丈夫かと呼び掛ける。
「うぐ...まだだ。ま、まだ俺は負けてねぇ...いける...ぞ...うぐう......」
教師の呼び掛けに古島が力なき声で反応すると、倒れ込んだ床からゆっくりと起き上がる。
「お!古島の奴が起き上がったぞ!」
ふう~。
完璧じゃなかったけど、手加減は上手いこと出来ていたみたいだな。
生まれたての小鹿のようにだが、何とか起きあがった古島を見て俺は手加減を成功させたぜと笑顔をこぼす。
「くそ!くそくそくそ!陰キャラがぁぁあ!こ、こうなったらもう規則なんてクソくらだぁぁぁああっ!!」
『加速しろ!スピードォォオブースタァァァァアッ!!』
立ち上がった瞬間、古島が負けん気なる叫声を大きく荒らげると、自分の素早さを上昇させるスキル...スピードブースターを発動させた。
「な!?な、何をしているんだ、古島!試合でスキルを発動させる行為は禁止だと口酸っぱく言ったおいた筈だぞっ!」
「う、うるせぇぇえ!んなもん知るか、ボケがっ!このカースト上位の俺が、こんな底辺クソ野郎の陰キャラなんぞにコケにされたんだぞ!このまま黙ってなんていられるかぁぁぁぁあっ!!」
古島が教師の注意を思いっきりガン無視し、光野をブチのめすという威圧の込もった目付きでギロと睨む。
「おいおいおい。古島のやろう、教師に逆らいやがったぞ!?」
「あ、あいつ、女子と教師にだけには良い顔していたのにな?」
「それだけ光野にやられた事が悔しかったって事か?」
「毎日揶揄って馬鹿にしていた相手からイナなされ、あまつ気絶しそうな一撃を貰っちまったんだ......」
「カースト上位様としては、そんな情けない姿は看過出来ないか!」
古島の暴走に対し、クラスの男子がついに隠していた本性が出たなと騒ぎ出す。
「く、古島の奴めっ!あいつのスキルを止めたくても、スキルキャンセルの
魔道具は今現在女子達が授業で使用している。今から取りに向かっても間に合わないだろうし、そんな暇もないだろう。こ、こうなれば仕方がない。多少ケガをさせてしまうかもしれんが......やむを得んっ!」
これ以上手をこまねいて大事が起こってからでは遅い、そう判断した教師は古島の暴走を止めるべく、身体能力をアップさせるスキルを発動させる。
が、そんな教師の前に俺は割って入ると、
「待って下さい、先生。俺は別にこのままでも構いませんので!」
と、古島の捕縛に待ったを掛けた。
「何を馬鹿な事を言っているんだ、光野!駄目だ駄目だっ!教師として生徒を危険な目に合わせる訳にいかん!あいつはこのクラスの中で一番強い。そんな奴にスキルまで使われたら、正直悪いがお前では歯が立たんよ!」
「大丈夫ですって!さっきの俺の攻撃を見れば分かるでしょう?」
「た、確かにさっきの攻撃は見事だったが、しかし駄目だ!あれは古島が油断していたからというのもあるだろうし―――」
「―――ホント大丈夫ですって。だって......」
俺はそう言うと教師にスッと近寄り、ジャージのポケットから取り出した冒険者カードをクラスの皆には見えない角度で教師に見せる。
「な!?冒険者ランク...F級!?バ、バカな!中学生の能力ではF級になれる訳が......なっ!?F級に更新した日が新規登録の日じゃないかっ!?」
俺の冒険者ランクとランクの更新日に、教師が目を大きく見開いた表情で驚く。