100・古島から意味の分からない申し出が
「ふうやれやれ。まさかこいつの頭がここまで悪かったとは......」
心愛が信じられないという表情で、古島の放った発言に呆れている。
「亜依子、あんたもこの馬鹿に何か言ってやるし!」
「......ねぇ古島。あんた、わたしの家がどんな職業をしているかは知っているわよねぇ?」
「あ、ああ。勿論知っているけど?だけどそれがどうしたってんだ!」
「そんな家のわたしがさぁ、仮にあんたの言う様な洗脳なんて受けていたら、家の者から即座に気付かれちゃうわよ。洗脳された人物なんて商売人にとって死活問題だからねぇ!」
「それに亜依子の家にはあーしも行った事あるんだけど、家中にスキルをキャンセルする魔道具も設置されてあるから、洗脳なんて出来っこないわけだしっ!」
「......う、うぐ!?」
心愛と亜依子の反論に古島がそう言えばと思い出すと、ぐうの音も出なかった。
「この事もあんたには話した事があると思うんだけど。ホンマジ、あんたってば、自分に興味がない事や都合の悪い事っていつも覚えないよね?例え覚えていたとしても直ぐに忘れているしっ!」
心愛は心底の呆れたジト目で古島を見る。
「あ、因みに恵美ちゃんも亜依子の家に来た事あるけど洗脳されていたとかっていう反応は、特になかったって事は付け加えておくぞ!」
「ぐぬ!ぐぬぬぅぅううう!う、うっせい!うぜぇえ!うるせぇぇえええっ!!なんと言われようとも俺は認めねええ!ぜってえに認めねぇぞぉぉぉぉおおっ!!」
亜依子や心愛の論破を、古島は駄々っ子の様にごねて掻き消す。
「あんたの言い分なんか知るかボケ!ってかさ、責任転嫁すんなやぁっ!例えあんたの言葉が正しかろうとも間違っていようとも、あんたがわたし達をあの場所に置き去りにして逃げ出したっていう事実は一個も
消えないんだからなぁっ!!」
そんな我儘全開な古島を、亜依子がゴミでも見るかの様な蔑んだ目で睨み付ける。
「古島の奴、聞けば聞くほど苦しいし酷いな......」
「大体さ。もし光野君が洗脳スキルを持っていたとしたら、とっくの昔に光野君から何かしらの制裁を食らっているわよね、古島君?」
「あれだけ毎日毎日揶揄われたら、絶対に俺ならやるねっ!」
「俺もやるな、確実に!」
「おれもおれも!」
「私も!」
クラスメイト達もまた、古島の言い訳を馬鹿馬鹿しいと揶揄していた。
「クソがっ!どいつもこいつも光野の味方をしやがってぇぇえっ!」
耳に聞こえてくるクラスメイトのヤジ声に、古島が折れそうな勢いで歯をギシギシいわせて苛立ってしまう。
「な、何か手はないかか!何かこいつらや光野の野郎をギャフンと言わせ締める手立てがよぉぉお...............あっ!」
そ、そうだ!
確か、二限目の授業って体育だったよな?
で、授業の内容は組み手式の試合だったはず!
くくく。こいつはおもしれぇえっ!
これならコイツらにも亜依子達にも文句を言われず、合法的に光野の野郎をぶっ飛ばせるじゃないかっ!
「亜依子達がそんなに言うなら、光野!てめえの実力が本物かどうか、二限目の授業でこの俺が見極めてやるよっ!」
「ん?二限目の授業?」
「今日の二限目...体育の授業は組み手式の試合がある!その試合でてめえと戦って、俺の言い分が正しかったっていう事を証明をしてやるぜっ!」
「いやいや。何を言っているんだお前は?仮にどっちが勝ったとしてもお前の言い分が正しくなるなんて事はないと思うんだけど......?」
俺は意味の分からん古島の申し出を、やんわりとお断りしようとするが、
「いいじゃん、朔夜くん。こいつと勝負してやったら?」
心愛がニマニマ顔でそう言うと、俺の腕にギュッと抱き付く。
「お、おい。心愛!?」
「そうそう。あんたが古島の揶揄いに対して反撃をしなかったせいで、こいつ自分の実力の方が上だって勘違いをしているみたいだしねぇ?だからその勘違いをその試合で徹底的に解いてやりなよぉ~♪」
亜依子もニヤリ顔でそう言い放ち、俺の腕にギュッと抱き付いてくる。