001・彼女と俺
―――俺...光野朔夜には大好きだった彼女がいた。
―――が、今はもういない。
―――別に亡くなったとかではない。
―――ただ単に振られただけだ。
「......何も言われずに、一方的に...だけどね」
彼女との出逢いは、中学三年生の時だった。
学年が変わり、三年生になった俺は、緊張いっぱいで新しい教室に入り、自分の席にトスンと座る。
そしてカバンを机の横に掛け、教室をキョロキョロと見渡していると、誰かの視線が俺を見ている事に気づく。
その視線が気になった俺は、その視線に向けてチラリと目線を移す。
すると、そこにはあいつ...海川恵美がこっちを見ていた。
―――彼女の視線と俺の目線が合う。
その瞬間、俺は海川恵美に恋をしてしまった。
陰キャラの俺だったけど、でもだからといって、この気持ちを諦めたくなんてなかった。
だから俺は彼女を好きだ、恋人にしたい、そんな燃える様な熱き情熱を糧とし、内気な心を強引に奮い起たせて後押しする。
それからというもの、俺は不器用ながらも懸命と頑張って、あいつに嫌わない程度に好きだ大好きだという、さりげないアピールを続けていく。
勇往邁進で挑んだそんなアピールアタックが、かれこれ百回を越えた頃、
もうこれ以上、彼女と恋仲になりたいという沸き上がる衝動を抑える事の出来なくなった俺は、
「今日こそは海川さんに告白するぞっ!」
と、いう決意を固めた。
そう思ったが吉日だといわんばかりに、俺はドキドキの緊張の中、あいつを...恵美を屋上へと呼び出した。
そして「キミと恋人関係になりたいっ!」ただそれだけの純粋な気持ちと情熱なる思いの乗った告白を、ブルブル震える口で拙いながらも何とかあいつに伝えていく。
すると恵美は静かに顔を下に傾かせると、しばらくの間沈黙を続ける。
その数十後、顔をゆっくりと上げてニコッと俺に微笑みを浮かべると同時に右手を目の前にスッと差し出してきた。
俺は信じられないとばかりに「これってOKの印......だよね?」と恐る恐る確認すると、彼女が頬を赤く染め、頭を小さくコクンと下げた。
それを見た瞬間、俺は歓喜のあまり、声が渇れてしまう程の咆哮を上げる。
そして差し出された彼女の右手を力強くギュッと握ると、その場を思いっきりジャンプして、彼女の周りを喜びの舞でクルクルと回っていく。
―――こうして俺の恋は見事成就し、あいつと...海川恵美と付き合う事となった。
それから俺とあいつは、色んな場所へデートにいった。
映画にカラオケ、ゲーセンにボーリング。
そうそう、あいつのショッピング...服選びにも良く付き合わされた。
あれはホント辛かったな。
だってその服選び、何時間も掛けるんだぞ。
俺は内心で勘弁して下さいよといつも嘆いていたっけ。
まぁそうは思っても、服を選んでいる彼女の姿も好きだったので、結局イヤと言う事もなく、あいつのショッピングには付き合うんだけどね。
「.........本当、楽しかったなぁ」
―――だが、そんな楽しいひとときにも終わりがくる。
そう、あれは恵美と付き合い初めてから、約半年くらいの月日が経った頃の放課後の帰り道だったっけ。
「実はね、朔夜くん。わたし......三週間後の火曜日に転校する事になっちゃったんだ......」
「―――え!?」
―――彼女にから突如そう告げられたのだ。
それから三週間後、
彼女は宣言通り、親の都合という理由のせいで遠くの県へと転校して行った。
離ればなれになってしまった俺と彼女だったが、しかしそれでも俺達の関係は消える事なく続いた。
簡素通信アプリ『リンレス』でのたわいのないやり取りや、彼女の声が聞きたくなった時は、直接電話をして彼女との会話を楽しんだ。
俺達はそんな関係を毎日続けていた。
「うんうん、そうだね!いつかまたデートしたいよねぇ♪」
「だよね。でもその願いを叶える為にはさ、バイトをもっと頑張って運賃や旅行費を稼がなきゃいけないよな。でもバイト料少ないから資金を貯めるのは大変だなぁ......」
「あはは♪わたし達のデートの為にも、そこはしっかり頑張って稼いでよね、朔夜くん♪」
「応!頑張るよ、俺♪」
俺達はいつか絶対に再開してデートをしようなと、彼女と約束を交わした後、夜も遅くなってきたので惜しみながらも電話を切り、俺は彼女との楽しいデートの日を夢見つつ、布団を被って眠りへとつく。
―――そんな日など永遠に来ないとも知らずに。