アスカ 前編 発明の街 11
「さて、じゃあこの世界について勉強も出来たし、今日は其々の能力について話すか」
夕食に戻ったエイデ。
彼は当たり前の様に、いつものお互いの身の上話へと話をすり替えていった。
今回、自分の能力についての話になったのは、言うまでもない。本人が気づいてないとはいえ、話してくれたのだ。で、あれば自分達も話しておくのが筋である。それと良心が痛むからです。
しかし、今まであまり必要ないと、簡単にしか話していなかったが、此処でしっかり話しておいても良いと判断したからでもあった。数日前にディランも自分の能力を話してくれたわけだし。丁度良いとも言えよう。
と、ここで、アスカが目を輝かす。
「私も知りたい!だって、ディランの力も凄かったけど、エイデさんの世界も本当に魔法がある世界なんでしょ?」
「ん?ああ、あるよ。魔法。…見せたよな?炎の魔法」
「うん!アレってどうやるの!」
キラキラしているアスカにエイデは僅かに目を逸らす。
どうと言われてもな。別に其処まで大したことでないから、言い淀む。
「簡単だよ。『魔力』を消費して、呪文を唱えるだけだ。呪文が終わると同時に魔法が発動する」
「え?それ何!?魔力!魔力ってなに!?」
「人間が産まれ付き誰もが持っている…あー…力の1つだ。ま、俺は其処まで高くないんだがな」
「産まれ付き…?」
エイデは困った。別に能力とか隠すつもりは無いのだ。
でも、アスカにどう話せばいいか分からなかったのだ。『ステータス』の話とか。絶対こんがらがるに決まっている。
とりあえず、考えた末、『魔力』について話しておくことにした。
「『魔力』は魔法を使う為の…力の事だ。人間には元々ない力だが、『マナ』って存在が力を与えてくれている」
「…マナ?」
「産まれた時に個人其々に憑く存在、人間じゃない何か特別な存在の事だ。彼らから力を借りて、魔法を使う事が出来るが『マナ』の力は其々だ。力が強い奴もいれば、弱い奴もいる。力が強ければ強いほど個人の『魔力』が多くなって、『魔力』が多ければ覚えられる魔法とかも多くなる」
「えーと、じゃあ、その『魔力』の量は産まれつき決まっているってこと?」
「お、良いところに気づいたな。『マナ』はな、憑いた人間が成長すれば同じように成長するんだ。『マナ』が成長すれば『魔力』も増えていく。『マナ』の強さと、そいつの鍛え方によって『魔力』は変わるって事だ」
ここまで聞いて、少し考えてからアスカは小さく頷いた。
「例えばだが、俺に憑いている『マナ』は其処まで強くない。だから俺の魔力量は鍛えてもあまり増えなかったし、覚えられる魔法も少なかった」
「ほう」
「ただ同時に、個人とは別に先祖代々から家系で受け継ぐ『マナ』ってのもいてな。俺の家系には昔から『炎のマナ』ってのが居た」
「炎のマナ?」
「ああ、こいつは『魔力』が上がる代わりに炎魔法しか習得できない結構気難しい奴だが。親父からソレを引き継いだ俺にはこの2つの『マナ』が憑いているって訳だ」
「じゃあ、エイデさんが炎魔法得意なのも?」
「ああ、その『炎のマナ』のおかげ。家には炎魔法の本も沢山あったし、結果的に炎魔法限定で強い魔法が使えるようになった」
此処で次はディランが首を傾げる。
「あれ、お前。炎しか使えないの?前に炎魔法の他にも少しだけだが別の魔法も使えるって言ってなかったっけ?」
「『炎のマナ』を引き継いだのが15の時なんだが、それ以前は必死に他の魔法を覚えようと努力したんだよ。簡単に言えば、その時に覚えた魔法の事だ。魔法類は一度覚えたら二度と忘れないからな。使えるは使えたんだ。微々たるものだけどな」
ふーんと声を零すディラン。
シアーナは眠たくなってきた。
そんなシアーナの頭をわしゃ付きながら、エイデは話を続ける。
「この『マナ』てのはな、時々以上なまでに強い奴が産まれる時がある。近い例が俺の『炎のマナ』だが、他に『魔力のマナ』だとか『武力のマナ』とか呼ばれる『マナ』も存在する。そいつらは亜種って呼ばれてるんだが、こいつらに憑かれると普通なら人なら到底到達できない高見まで強くなれると言われている」
「高見?ほかのとは違うの?」
「ちがう、普通の『マナ』は『魔力』しか与えてくれないが、例えば『武力のマナ』だったら、『魔力』は少ないが『力』の成長が…じゃないな、超人レベルまで体術を極める事が出来る」
「えーと、『魔力のマナ』なら?」
「普通の『マナ』の何百倍もの『魔力』を産まれついた時から習得している。んー、そうだな…」
エイデは更に考える。
近くに在った、木の棒を手に取って、地面に数字を書き始めた。書いた数字は「300」。
「これが、普通の『マナ』を限界まで育て切った数字だとすると、『魔力のマナ』は、こうだ」
「300」の隣に次の数字を書く。数字は「999」。確かに大きく違う。違うけど。
「なんだ、思ったより強くないんだな」
「…あのな、此処まで育つと俺の世界では神の領域と呼ばれてるんだぞ。それにこれで、カンスト…い、いや」
ディランに苦言を零しながら、コホン。話を続ける。
「まあ、なんだ。こういう奴らは『マナの加護』持ちと呼ばれている」
「『才能』?うーん…つまりなんだけど、すっごく珍しいって事ね!」
「ん?あ…!う…んー、どうなんだろうな?俺の周りには結構いたからなぁ。ちなみに俺は、コレに当てはまらない」
「なんで、才能なんだ?その『マナ』ってやつの力だろ…」
苦言を零す様にして問いを投げかけて来たのはディラン。エイデは笑みを浮かべた。
「才能だよ。『マナ』ってのは気に入った存在に憑くって言われているが、実際は同じ時間、同じ場所で同じくして、この世に産まれた人物に憑くんだ。それは胎児の時からって言われている。一度憑いたら一生涯離れない。一心同体の同一存在とも呼べるもの同士。だからそれは、産まれ持った才能と呼んでも間違いじゃない」
「…ふーん…」
「先に言っておくが、俺の家系にいた『炎のマナ』は例外中の例外だ。今思えば、アレもアレで何か別の物じゃないか…?」
ディランが難癖をつけてくる前に、エイデは言いきった。
さて、と思う。これで、自分の話は終わりか。
「他に質問はないか?」
「じゃ、1つだけ!その『マナ』ってどんな姿をしているの?」
「さあな、姿は見えないんだよ。話も出来ないし、アイツらは俺達の中や側にいて一緒に暮らしているだけ。そんな『マナ』の為に感謝祭は毎年するけどな…」
「そっかぁ…」
残念そうなアスカ。彼女がそれ以上質問をしてくることは無かった。
それどころか、長話になったからか、異世界の話に着いて行くのが必死なのか、これ以上は誰も質問はあげてくる気配が無い。
シアーナに至っては寝ている。…そこまで興味が持てない内容だっただろうか。
少しだけ、眉を寄せて、そのおでこに軽くデコピンを1つ。
眠たそうにしながらも、シアーナは嫌そうな表情をエイデに向けた。
「ならこれでおしまい。コレが俺の魔法の使用方法だ。ちょっと、長話に成っちまったな」
「うんん、楽しかった!ありがとエイデさん!」
楽しんで聞いてくれていたのはどうやらアスカだけだったらしい。
と、まあ…エイデは思う。もっと詳しく話せば更に長話になるのは確実で、ここに更に『スキル』やらなんやら色々混ざって来るので、これ以上は話さない方が良いと判断。
そもそも、魔法の初級として話をしたが、結局の所この異世界ではエイデは炎魔法しか使えないのだ。それも、おそらく本当は魔法でないとか。
むしろ「魔法が無い世界」じゃなくて「魔法を認める気が無い世界」と言った方が正しいのだろう、と最近は思えて来た。
「ま、色々話したが、いつも通り今の俺は炎魔法と武術が使えるだけって思っていてくれ」
「――分かった!」
最後までアスカだけは素直であった。
さて、と一回前置きして、エイデはアスカを見る。
「今度はアスカの番だ」
「なるほど、私か!」
アスカは、今度は腕を組んだ。
エイデの話が終われば自分だとアスカも察していたが、「うーん」と。
顔を上げれば、いままで眠っていたシアーナがぱちくりと此方を見ている。あんなにぐっすりだったのに、そんな興味津々な…。でもアスカもアスカでシアーナには弱い。
「…アスカ、お前、適当な説明で終わらせる気だったな」
「え!?いやいや、ち、違うよ!!」
慌て方が尋常じゃない。
アスカはコホン。小さく笑みを浮かべた。
「エイデさんと比べたら私のは、こう、さっぱりしているから、話も簡潔でさ…」
「そこは別に比べる必要はないだろ。俺は『マナ』の話が必須だったからな。長くなったのは俺だ」
エイデのフォローにアスカは頷く。
「うーんと」「まず」、前置きして。
「私の世界では魔法って呼ばれるものはないの」
「ああ」
「でも、代りに『奇跡』って呼ばれるものがある」
其処までは初めに話を聞いたと通りだ。
「『奇跡』は産まれ付きのもの、誰が、どうやってそんな力が与えられるか、なんでそんな力が与えられるか、分からないけど、瞬時に傷を治したり、エイデさんみたいに炎を生みだしたりできるの」
「そこは同じなんだな」
ディランの言葉にアスカは頷く。
「でも、全員じゃない。『奇跡』を持つ仔は本当に僅か。…私の村でも、私と幼馴染のエミリアって子だけしか持っていなかったし。それに、エイデさんみたいに沢山の魔法を一気に使える訳じゃなくて、『回復の奇跡』を持つ仔は回復だけ、『炎の奇跡』を持つ仔は炎だけとか、一つしか使えなかった」
「…アスカのは『回復の奇跡』って言っていたな」
今度はエイデの言葉に頷く。
「といっても私の『奇跡』てね、凄く弱いの。擦り傷を治す程度」
「…そこも、俺の世界と似ているな」
「うん、そうだね。個人に大差がある。エミリアの方は私と比べ物にならない程強かったんだけど。私は本当に全然」
えへへと頭を掻いて、アスカは小さく俯いた。
「だから、私はちょっとだけ剣術を習った。と言っても護身術程度。賊とか、獣に襲われたら対処できる程度かな…?」
つぎは、あははと。
そのままアスカは口を閉ざす。少しの間、アスカは笑顔のまま眉を「ハ」に時にして顔を上げた。
「ごめん、以上です。これが私の力のすべて」
ふう、と息を付いたのは誰が最初だったか。
彼女の様子から、何か隠している事があるとも思えない。どうやら、アスカの能力は本当にそれだけの様だ。たしかにエイデと比べればあっさりとしている。
「えーと、その『奇跡』ってどう使ってたんだ?」
これでアスカからの話が終わりなら…と、エイデはアスカに問いかけた。
アスカは前に手を翳す。
「こうやって、手を翳して願えばいいだけ。この傷を治したいって。使えば使う程疲れちゃうんだけどね」
「あんまり沢山使える訳じゃないんだな」
「そうなの、寝たら少しは体力も回復するんだけど」
「…其処も同じだな、俺の世界だって魔力には限りがある。一日に何十回も『魔法』を使えるわけじゃないからな」
酷くアスカが申し訳なさそうだったからか、エイデがフォローを入れた。
アスカは小さく笑う。
「なんだ、意外と似ている部分沢山あるんだね」
「そうだな」
つられてエイデも笑う。
その様子をシアーナは「じいっ」と見ている。そんなシアーナにアスカは顔をのぞき込ませた。
「ごめんね、シアーナちゃん。期待してくれたみたいだけど、すっごくあっさりで」
「…いいえ、エイデさんの世界はややこしくて…私はアスカさんの『奇跡』の話の方が、好きです」
「そうだなー。子供だもんなー。簡単な方が良いよなー?」
もう一度、わしゃわしゃ、エイデはシアーナの頭を撫でる。
アスカは2人の様子を微笑ましそうに見つめながら、「ああ」と思い出したように手を叩いた。
「そういえば、もう一つだけあるよ!」
「なんだ急に、なにが?」
「能力って言うのかな…?特別な力…がひとつ!」
「ちょっと言い淀んだよな?いま」
僅かに怪しむディラン。
気にせずアスカは腕を前に差し出す。正確には、腕についている腕章を。
彼女の細い指がソレを指示した。
「これ!この腕章!『願いの奇跡』の聖女様の加護が付いているの!」
「『願いの奇跡』?」
「うん!大昔の聖女様でね、なんとこの腕章に願い事をすれば、叶えてもらえるのです!それも永続的に!!ある村でもらった物なのです!」
――どや、っと。アスカは胸を張って言いのけた。
勿論と言うべきなのか、エイデとディランは胡散臭いものを見つめるような表情となったが。
「胡散臭い」
と、言うのはディラン。
「どうせアレだろ?表向きは良くて、実は何かとんでもない対価とか支払う災い系のものだろ」
呆れた様子で言うのがエイデ。
2人の疑いの視線。
アスカは、きりっと胸を張って…
張っていたが、顔を崩していった。
「えへへ、分かっちゃう?」
「そう言う類は決まってそんな呪いが付くもんなんだよ。捨てなさい」
エイデがぴしゃり。
呆れるディランの視線を浴びながら、アスカは慌てて首を振った。
「まって!聖女様の加護が付いているのは本当よ!…規模が変に小さいだけで…」
「…規模?」
アスカは頷く。なんというかな。なんて前置きを一つ。
「願い…って言ったけどね。なんでも…じゃなくて、その、本当に小さい物なの。簡単に言うとね、『お金が欲しい』って願うと」
「願うと?」
「毎朝目が覚めるとワンコインだけ枕元に置いてあるんです…!それも毎日…詳しく言えば銅貨一枚…ね」
――それは、確かに、小さい。
アスカの様子から見て、銅貨とは、この世界でも、エイデの世界でも使われていないが、小さい額なのは良く分かった。
此方からしても分かりにくいと思うので、分かりやすく書けば。毎日財布に1円玉が一枚追加されている。――コレである。
アスカは小さく唸った。
「ああ、もう!銅貨千枚で銀貨一枚の価値なのよね!銅貨一枚なんてパンの欠片も買えない!!もうね、ほんと小さすぎるのよね!そのくせ変に力が強い所があって、生きている限り永遠に叶え続けるって、大きいのか小さいのか、分からないのよね!!しかも一回限り!」
珍しくアスカが慌てている。
うん、確かに、それは強いか弱いか分からない願いを叶える道具だ。
エイデが眉を顰めた。
「いいじゃねえか。塵も積もればって言うだろ?――いらないならくれよ」
「え、エイデさんが本気の目をしている…!」
――確かに、エイデからすればかなりの宝なのも事実である…。
そんなエイデにアスカは首を振った。
「だ、ダメよ、エイデさん!確かに文句はあるけどあげないから!まだ何に使うか考え中なんだから!絶対ダメ!」
「…エイデさん、女性から物をカツアゲするのは最低です…」
腕章を守る様に身体を隠したアスカ。シアーナも追撃に入る。
その様子にエイデは諦めるように溜息をついた。
「嘘だよ、嘘」
「其れこそ嘘だよ!」
「おまえ、目が本気だったぞ…」
ついにはディランまで呆れた視線。
エイデは少し顔を顰めて、にやりと笑った。
「嘘だって!アスカが手に入れたものなんだろ?そりゃ、使わないならくれよと思うけどな。使う気があるなら何も言わない」
「ううう、腕章隠しておこうかな…」
「エイデさん、最低です…」
「悪かったって!本当に盗む気とかは微塵も無いから!」
アスカは疑惑の視線をエイデに向けながら、離れていく。
コレから数日、アスカはエイデに気を張る事になるに違いない。それが安易に予想出来て、エイデは溜息を付くしか出来なかった。そもそも、その願いの腕章、この世界で発動するかも謎であるが。
場を変えるようにエイデはパンと手を叩いた。
「ま、なんにせよだ。今度こそアスカの能力はソレで全部だな?」
「う、うん。そうです。…『回復の奇跡』使えませんが…」
「それは俺も同じだ。雷魔法とか、水魔法とか、小さいが色々使えたんだけどな…水はディランが居るからいいか」
「え」
「…エイデさん炎魔法使えるのに贅沢な!」
「…で、シアーナは謎空間の移動が可能と」
「なぞ…?」
突然に話を振られてディランは驚き。アスカは嫉妬にも似た視線をエイデに向ける。
シアーナはあんなにちゃんと説明したのにエイデには伝わっていない事が判明しショックを受ける。
アスカがムッとしたままシアーナを見た。
「シアーナちゃん、明日から暫く夕食はエイデさんの嫌いなもので行こう!私も手伝います!」
「………任せてくださいアスカさん。今、右手にフライパン、左手に鍋を持った協力者さんが仁王立ちしています…!」
「心強い!」
「おい、お前らな…」
それは、ささやかな彼女達の復讐と言うべきなのか。何故か息ぴったりに、少女たちは頷き合うのである。
2人の様子にエイデは苦笑を一つ。そもそも俺の嫌いな物知らないだろう。――なんて、自分でも呆れた事を浮かべて。和やかな笑みへ変わる。
焚火がぱちぱち音が鳴って。
そんな何時になく、穏やかな夜はゆっくり開けていくのであった。
エイデの話はもっと簡潔にしようと思っていましたが、
彼の性格上、しっかり教えてくれるだろうと『マナ』の話をしました。
書いていた私はエイデ憎しになったのですが。
彼は炎の魔法と武術が使えるとそれだけ覚えておけば大丈夫です。
次回は未定になります




