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残酷で、ただ残酷なこの世界  作者: 海鳴ねこ
1章 暁の魔女
22/39

アスカ 前編 カルトの町 10


 「あ、あの…アスカさん…この町での失態は全部忘れてください…気が狂っていました、私…」

 「可愛かったよ!シアーナちゃんの素が見れた感じで!もっとその調子で行こう!」

 「………」


 カルトの町の出口。

 あれから一晩明け、町を出る事になったシアーナ達はここ迄来ていた。

 昨日あの後、シアーナが元に戻るには数時間かかった。

 と、言うか。あの後、シアーナが宿屋の一室に閉じこもってしまい一晩出て来なくなったので、仕方が無く、一晩町に止まる事になったのだ。

 アスカは部屋から出そうと頑張っていたが、エイデがコレを止める。

 人見知りのシアーナが誰より頑張ってくれたことだし。今日は、そっとしておこうと言う話に決まった。


 カルト祭の大行事が終えれば、祭りは普通の祭り。

 せっかくだと言う事で、其々祭りを楽しんで一晩明けたのが、今この時の事。

 一晩明けて、シアーナも元に戻ったようだ。いや、昨日の自身の事を思い出して、未だに青ざめているけど。

 フードを被ったまま、泣きそうなシアーナに、アスカは笑顔。


 「ま、いいじゃねえか!これで旅は安泰だからな!」

 賞金も手には言った事で、エイデもこの通り上機嫌だ。

 足りなくなっていた食料も揃えられたし、久しぶりに祭りと言うものを楽しめたので、なにも言うことは無いのである。

 ディランだって楽しんでいたから文句は言えない。

 いや、全く、気が狂った大会さえやらなければ、楽しい祭りなのに…とは思ったけど。


 「もう、行っちゃうのかい?さみしいなあ」

 そんな旅を再開する一行の前で、カルトはしょんぼりとした顔を見せていた。

 見送りに来てくれたのだ。彼には町を出ていくことは言っていないはずだけど。

 何でも日が昇る前から待っていたらしい。苦労な事だ…。

 ただ、反対にアクスレオスの姿は無かった。

 彼には、本当に散々世話になったので、彼にこそお礼を言いたかったのだが、アスカはあたりを見渡す。


 「カルト…さん?アクスレオスさんは?」

 「ん?あいつはね、昨日の夜から町を走り回っているよ?祭りが終わった瞬間に倒れる連中沢山出たからねー。見送りに来る暇は流石にないっしょ」

 「そ、そう」

 ――やはり、お医者様は大変である…。

 コホンと咳払いを一つ。

 アスカはカルトを見る。

 つまらなさそうな彼に、アスカは笑顔を浮かべた。

 

 「じゃあ、カルトさん。昨日はありがと!」

 「え?何のお礼?昨日のお祭りの事?」

 カルトの問いにアスカは頷く。

 彼女にとって、昨日の祭りは楽しい物で違いなかった。ソレに対してお礼を言ったのだろう。

 一歩間違えれば、地獄のお祭りであったが、結果良ければすべてよし、と言う事だろうか。

 これにはカルトも呆気にとられる。


 「…君ってさ、かわっているねぇ。じゃ、今度、来年こそは僕の本当のお祭りを――!」

 「それはお断りします!」


 元気よく、アスカは拒否を示す。当たり前だ。

 その様子にカルトは濁った眼を細めて、小さく笑った。


 「残念。君が来ればシアーナちゃんもさ、参加するのにぃ」

 「だったら尚更参加は出来ません!毎年死人が出て当たり前のお祭りなんて、教育に良くありません!」


 アスカの言葉。コレに誰よりも先に反応をしたのは、シアーナ本人であった。

 それは後ろにいたエイデや、ディランも同じだ。カルトもそう。

 思わず、静かな静寂が流れる。

 その静寂を壊したのはカルト。

 彼は一瞬無表情になったものの、直ぐに笑みを浮かべる。


 「…それは何故?」

 「何故って…?人が死ぬようなお祭りはしちゃいけないに決まっているでしょ?」

 「――ん…あ、そう。そういうことね。――なんだ、そうなんだ」


 浮かべた笑みが、瞬く間に引き攣った物になったのも瞬間。

 カルトは、ここで全てを理解したようにシアーナを見据えた。

 どこまで。あきれる。納得。まるで、そう言っている様だ。

 それと同時に、目の前のアスカと言う少女にカルトは僅かながらに歪んだ表情を向ける。


 「あのね、お嬢さん。確かに僕のお祭りでは死人が当たり前だけどさ。でも別に、僕の祭りで人が死ぬんじゃないよ?」

 「――…?」

 「僕の祭りが無くても人は死ぬ。それがこの世界の理」

 カルトの言葉にアスカは首をかしげた。

 その様子にカルトは小さな息を付く。

 どういえば分かるかな。なんてワザと笑って、彼は言う。

 だからさ。つまりさ。――。なんて前置きをして。


 「この世界ではね。人の死は決定されてるんだよ。産まれたその瞬間にね」

 「――?」

 「僕の祭りで死ぬんじゃない。その時、その瞬間に死ぬ運命だったから死ぬんだ。つまりさ、僕の祭りに参加していなくても、祭りの開催時間に死ぬ運命であるなら、その人間は死ぬ。時間通りに必ず。何があってもその人間は死に至る。何をどうしたって逃れられない。それがこの世界の“死”と言うものだからね」

 「――…」


 その言葉に、カルトの説明に、アスカは息を呑んだ。

 一瞬、冗談とすら思ったかもしれない。“神様”のちょっとした冗談なんて。

 だって、カルトの言葉は余りに信じがたい一言であったから。

 しかし、目の前の“娯楽”を名乗る神は、濁り切った目をしていたが、その目は真剣そのものだった。

 嘘偽りのない。そんな目。


 言葉を失うアスカにカルトは笑う。


 「――…いつだれが死ぬか。それはこの世界の“死”を名乗る存在しか分からない。でも、最初に言っておくけど、人間の死を決めているのは“死”と言う存在ではない。それは確か。…でも、人の死が生まれながらに決定されているのも確か」


 ――だから、さ。だったら、さ…。


 「みんなで楽しく死を選ぶのも、選択の一つじゃない?――少なくとも僕の町に住む皆は、理解して、それを望んで此処に暮らしているだけなんだよ?」


 ――それが、此処、カルトの町。

 この異世界では“死”なんてモノが生まれながらに確定されている。

 何時、どこで、誰が、どのように死ぬか。それが産まれたその瞬間から決まっている。

 その瞬間が訪れれば、“死”が現れて逃れようもない“死”が訪れる。


 なんて、本当はその“死”にだって『何時』『誰が』しか、知らないのだけど。

 でも、「死と言う運命は最初から決定されている」

 コレは紛れ様も無い事実。だとすれば、それが仕方が無いのなら、とカルトは笑う。


 死が決定された世界のなら仕方が無い。

 仕方が無いから皆で楽しく死んでみよう?――コレがカルトのモットー。


 カルトの言葉にアスカは愕然としたように黙っていた。

 後ろで少女が俯いて黙っているのにも気が付かず。

 ただ、数秒の間。静かな時間が流れる。


 ――アスカが静かにカルトを見据える。


 「――…この世界では人の死は決定されてる…これは分かった。でも、お祭りは強制参加何でしょう?それって、貴方が勝手に人の死を決定しているとも言えるわ」

 「――」

 「私だったら自分の未来は自分で決めたい。死の原因なんて、その瞬間まで決めたくないし、決められたくも無い。皆で一緒に死のうなんて押し付けは要らない。楽しく死ぬ?そんなの、迷惑なだけよ」


 だから、死ぬかもしれないのなら、やっぱり貴方の祭りは参加しない。

 真っすぐに、ただ真っすぐにアスカは、そう言った。

 嫌味なんてない。嫌悪感もない。ただ、自身の本心を隠さずに。


 今度、口を噤むことになったのはカルトの方であった。

 彼はその愛らしい『少女』の顔に確かな驚きを滲ませて、静かにアスカを見据える。

 僅かに笑ったのは数秒後。


 「――…わあ、今の言葉、心が抉れたよ?」


 ただ、その言葉をアスカに送るのだ。

 カルトの言葉にアスカは笑む。


 「だったら来年からは、今年みたいな楽しいお祭りにしないと!」

 「それはヤダ!楽しいだけがお祭りなんてつまらない!」

 「だったら、うちのシアーナちゃんは参加させられません!」


 いつも通りのテンションで。

 アスカの一言に不服そうな表情を浮かべて。

 カルトはニマリと笑みを浮かべた。


 「まあ、いいさ。だったら君と僕は相性が悪いって事なだけだ」

 「それって、カルトさんが真面になれば仲良くなれるって事だと思うけど?」

 「…無理だね。僕は君が嫌いみたいだ。――吐き気がする」

 「そうかな?シアーナちゃんが可愛いと思う同士、仲良くできると思うけど!」


 カルトがサラリと毒舌を吐いたのにもかかわらず、アスカは満面の笑みであった。

 カルトが小さく息を付いたのはシアーナが、アスカの発言に首をかしげた頃。

 彼は、またニマリと笑った。


 「…ま、あれだよ。綺麗ごとのお嬢さん。君はさ、その子の側にいない方が良いと僕は思うよ。――どうぞ。今後、最悪な旅路を。どうぞこの世界を楽しんで」


 悪びれる様子もなく、カルトは手を振る。

 それが心からの嫌味なのは、その場にいる誰でも気が付いた。


 それでもアスカは笑みを浮かべる。


「じゃあね、カルトさん。好きな子いじめも、ほどほどにね!」


 そう、笑顔で。

 アスカは手を振りながら。

見せつける様に、暗い顔のシアーナの手を取って、カルトに背を向けるのだ。


――。


 カルトは遠ざかっていく4人の姿を見て、小さく息を付く。

 疲れた。久しぶりに疲れた。身体に感じる倦怠感にカルトは僅かに眉を顰める。

 祭りをして、疲れたなんて思うのはどれぐらい振りか。…いや、初めてか。

 いや、疲れた原因は祭りじゃない。

 先程自分に威勢よく食って掛かってきた、あの赤毛の女が原因か。

 

 「…ん、ま。別に良いや。腹が立ったけど、僕には関係ないし」


 しかしだ。考えた所でこの先何か変わる事でもない。

 この先もカルトは気が狂った祭を続けるし、死人が出て当たり前のこの祭りを辞める気も無い。

 それは、カルトからすれば、それが至極当然なことで、それが自分の義務だと定めているからだ。


 ただ、思う。

 あまりに久しぶりに、嫌。

 ()()()対峙した彼女()を想って、呆れてしまう。


「どうして、あの子。あんな子に懐いてるわけ?偽善的過ぎて気持ち悪い。悪影響?それは、あの赤毛のお嬢さんの方だろう。…いや、懐いてないか、アレは…」


 呆れて、酷い嫌悪感と、僅かな嫉妬を感じながら、ため息を付く。

 どうせ、この先。何があろうと、あの二人はお互いに傷つけ合うのだろう、と。

 それがあまりに馬鹿馬鹿しくて、愚かに感じて、何度だってため息を付く。


 「ま、いいさ。どうせ次は“発明”の異常者の所だもん。エルシューの馬鹿よりマシだけど、実に吐き気がする頭でっかち。この世界の異常性にすぐ心が折れるさ。――それが無くても、あの子は“死”だ。…前の時と同じ。持つはずがないね☆――忘れよっ!」


 それでも、“娯楽”と呼ばれる存在は無理矢理に笑って、町へと身体を向ける。

 明日のお祭りは何しよう。来年のお祭りはどうしよう。

 さっさと今の出来事を忘れる様に。

 カルトは自分の町へと戻っていくのである――。




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