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残酷で、ただ残酷なこの世界  作者: 海鳴ねこ
1章 暁の魔女
20/39

アスカ 前編 カルトの町 8



 「いっえーーーい!カルトの町の諸君、ようやくやって来たぜ!この瞬間がよぉ!!」

 広場の真ん中、カルトの声が響く。

 あいも変わらずテンションMaxで、いえーい。

 のりのりで祭り最終日、大目玉のコンテストの開始の合図。

 カルトの声に合わせて、周りもイエーイ。

 マイクも持っていないのに、彼の声は本当に良く響くものだ。


 「さあて!!今年のカルト祭の締めを飾るのは何と何と、意外や意外、つまんないけど、至ってフツーの料理コンテスート!!参加者も少なくてマジテンション下がるー。でも仕方がなぁい!!みんな盛り上がって行こうぜぇえい!!!」

 ――イエーイ。


 「それじゃあ、参加者メンバーを紹介するぜぇ!!はい、そこ!つまらないとか言わない!!」

 テンションガン上げ。

 カルトの紹介を聞きながら、シアーナはフードを深く被ったまま、用意されていた、キッチンの前に立っていた。

 キッチンと言っても簡単な物だ。

 移動が出来るようになっている簡単な物。

 小さいカウンターがあって、蛇口の付いたシンクにコンロが二つ。

 カウンターの上には包丁、まな板。鍋やフライパンが用意されている。

 蛇口をひねってみたが、水は出なかった。カウンターには水の入った容器が3つあるのでコレを使えと言う事だろう。

 ああ、そうだな。現代的…と言えば分かりやすい。

 野外料理コンテストで良く見る奴。

 コレは、おそらく“発明”が作った物だ。それは間違いない。


 こちらに関しては後程カルトから説明があった。

 発明に作ってもらった物で、簡単なキッチンである。水は出ない。用意した水を使ってくれ…との事。予想通りだ。

 …ただ、意外な点が一つ。

 コンロの、所謂つまみを回せば簡単に火が付くと言う事。


 「ちなみに、火は付くぞお!その、つまみを右に回してみてくれ!――なんかぁ、ガスを使っていて?それを回したら勝手に火が付くってさぁ、“発明”って便利だよねぇ」

 「――……」


 と、の事。

 ――…。


 さて、方針中のエイデは放っておいて、シアーナはなるべく顔を見せないように周りを見た。

 エイデからの事前情報通り、参加者は他にはあと二組。何方も個人での挑戦らしい。

 どちらも日々料理を振舞っている手ごわい輩だ。彼らが何を作るか、確かめておく必要があるだろう。

 次に広場をぐるりと見る。

 広場には円を描くように其々キッチンが3つ用意されており、更にその中心で素材が積まれた机が一つ、別に用意されていた。あそこから食材を各自持ってくるようだ。

 見る限り、食材は人数分しっかり用意されており、他の参加者と食材の争奪戦とかはしなくて良さそう。


 自分達に必要なカレーの材料。

 それをまずは取って来なくてはいけない。

 材料に関しては頭に入っているので、其処は問題ないが。制限時間があるので、早く材料をあの山から探さなくてはいけない。コレが大変そうだ。


 「それでわぁ…開始☆」

 

 確認していると、遂にカルトの開始の声が広場中に響いた。

 シアーナとアスカが走り出す。

 とりあえず、材料に関してはあらかじめ決めていた。

 野菜に関してはアスカが用意して、それ以外はシアーナが探すのだと。

 ここはアスカに任せるとして、シアーナは必要な物を食材の山から探していく。


 幸運なことに、探していたものはすんなり見つかった。

 野菜とは別の場所に用意されていたからだ。

 今回は初めてのカレーだ。そんな難しくない基本的で行くことにする。

 沢山ある調味料の中から必要な物を手早く探して手早く取って行って、次は肉。此処は牛ブロックを選んでおく。ふと、リンゴも目に入ったのでコレもついでに。

 ここ迄時間は2分。

 流石は『妖精さん』…が憑依したシアーナだ。手早い行動だった。


 ホッとした様子でシアーナは持ち場へ、ちょうどアスカも戻って来たようだ。二人そろって調子が良い。


 「シアーナちゃん、お待たせ!持ってきたよ!」

 「はい…!」


 ニコニコ笑顔でカウンターに食材を置くアスカ。

 彼女が持ってきたのは玉ねぎ、にんじん、ジャガイモ、ブロッコリー。

 …意外な組み合わせである。


 「至って普通の組み合わせにしました!あ、このブロッコリー(緑の)は普通じゃないのかな?なんか変わってるかなって思って持って来たんだけど!料理対決だし!」

 「…いえ、かまいません…たぶん」

 どうやら、ブロッコリーはアスカなりの考えらしいが、いや、それ以前の問題だ。

 玉ねぎは良い。シアーナも使おうとは思っていた。

 問題はニンジンとジャガイモだ。アスカがこの二つを追加で持ってくるとは思いもしていなかった。

 まあ、問題ないだろう。たぶん。


 「で、シアーナちゃんは何を持ってきたの?」

 アスカもアスカでシアーナが持ってきたものに興味を示す。

 しかしアスカと反対に、シアーナが持ってきたのは至って普通。

 カレー作りの基本の物しか持ってきていない。


 「はい、ターメリック、クミン、コリアンダー、ガラムマサラに、カイエンペッパーです」

 「た…く…ぺっぱぁ?」


 ――…アスカ、きょとん。

 ただ直ぐに笑顔に戻る。そっか、そっかと頷きながらキョロキョロ。

 何かを探す様にキョロキョロ。

 カウンターに、持ったものを置きながらシアーナは首をかしげる。


 「どうしましたか。アスカさん」

 「…。…いや、シアーナちゃん!忘れているよ!大事なものを忘れているよ!」

 そしてアスカは慌てたように顔を上げるのである。

 

 ――…今度はシアーナがきょとん…。

 なにが、忘れているのだろうか…?

 そんな疑問を胸にシアーナはスパイスを目に映す。

 …これらは全てカレー作りの基本のスパイスだ。基本のスパイスの筈だ。

 とりあえず初心者ならコレだけで良い筈。その知識がある。

 何か…何か足りなかっただろうか?

 もしかしてアレか、アスカは、もっと上級者向けのスパイスを使っていただろうか?

 あ、いや、それは一瞬考えたのだ。でも、シアーナはカレー作りはこれが初めて。そんな、難しい調合は無理でしかない。ここはアスカに任せるべきであったか…!


 「これじゃあ、カレー作れないよ!」

 「つ、作れませんかっ!?な、なにが足りませんか?クローブ?マスタード?カルダモン?な、なんでしょうか!?」

 とりあえず、スパイスの名を上げる。それらは用意されていたのは確認している。今すぐにでも取りに行けばいい。


 ――…アスカ、二度目のきょとん。

 少しして、眉をキリっと上げて無言。悩み始めてしまった。


 シアーナは焦る。何だろうか。どうしてそんな顔になったのだろうか。

 そんな、まるで、聞いたことも無い呪文でも聞いたような、そんな顔に――!

 ――……。気が付く…。

 

 シアーナは静かに、アスカから目を逸らした。

 アスカが探しているモノ…心当たりがある。


 「アスカさん…聞きたいことがあります」

 「は、はい。何でしょうか!」

 「…アスカさんが探しているのは、黄色っぽい茶色の固形物…もしくは粉末だったりします…?」

 「――…そう、あたり!!」


 ――ああ、うん。察した。

 アスカが探しているモノ、カレー粉だ…。


 この世界にだって存在する。

 既にスパイスの調合が施され、味も調えられた、お湯に入れればカレーが作れるアレ。

 誰にだって美味しく作る事が出来るカレーの元…。

 いや、むしろよくよく考えれば、そちらの方が普通は先に思いつく――。


 思いつくし、確かにそれでもいいのかもしれないけど…。

 コレは料理バトルだ…アスカ…。

 そんな、既に味が調えられて、要れるだけで誰でも美味しく同じ味にできてしまうカレーでは、優勝は出来ない…!アレンジで何とか味を変える程度の、お家の味程度しか変える事が出来ない…!


 現に他の二組は殆ど一から作っている。一組は恐らくミルクとチーズを使ったチキンのホワイトシチュー。もう一組は小麦粉を炙って、側にはトマトピューレ。あれはきっとおそらく、お手製デミグラスソース。肉のブロックもあるから多分ビーフシチュー…。

 市販のもので、勝てるはずがない…!!!

 というか、失格なのでは…?それ以前に、カレー粉無かったし…。

 

 ああ、でも。あの。その…。


 「…アスカさん、ごめんなさい。カレーはあきらめましょう。違うものにしましょう」

 「えええ!?」


 結果、シアーナが下したのはカレーを諦めると言うものであった。

 だって仕方が無い。

 アスカとシアーナが想像して、作ろうとしているカレーは別物だもの。

 本当はシアーナの考えていたカレーで勝負すべきしか無いのだろうけど。

 …なんだろう。

 シアーナのカレーはアスカのカレーとは別物と言っても良い…そんな気がするのだ。

 例えるなら、お家カレーと本格スパイスカレー。

 シアーナが作ろうとしていたのは後者だ。

 スパイスカレーだって美味しいは美味しいが、素人が簡単に美味しく作れるような物じゃない。

 つまり。

 みんなが大好きなカレー…。これ、作れる自信…無い。

 いや、というか、アスカの期待するカレー図を、壊したくない…。壊しちゃダメな気がする。


 だから、これはもう仕方が無い…。


 「そんな!」

 「アスカさん…カレー粉は用意されていませんでした…。結果ですがカレーは作れません。私も考えましたが、私の手ではカレー粉は作れそうにありません…」

 「ええ!シアーナちゃんカレー粉から作ろうとしていたの!あの呪文の言葉はカレー粉の材料だったんだね!」

 あ、やっぱり呪文に聞こえていたのか。

 しかし、アスカはコレに納得してくれたようだ。

 それは仕方が無いと頷いている。カレーは諦める。コレに決定だ。――そうなれば次の問題。


 「じゃ、じゃあ、何を作るの!」

 ――コレである。

 カレーを諦める。コレは仕方が無い。だったら、それなら何を作るか…コレに戻って来た訳である。

 ただ、此方は既にシアーナは考えていた。

 流石に考えなしで「カレーやめよう」とは言ってない。

 シアーナは少し目を逸らしつつもアスカをチラリ。


 「――『肉じゃが』はどうでしょうか…?」

 「…“にくじゃが”…?」

 あまりに聞いたことのない単語に、アスカは首をかしげる事になった。

 そんなアスカにシアーナは僅かに笑みを浮かべながら目を逸らす。

 そして、何処からともなく唐突に一つのワイン瓶を取り出すと、にへらと無理やり笑った。


 「お肉とジャガイモをお醤油とお砂糖で味付けたスープです。コレが醤油と言うものなんですが…あ、い、いえ。厳密には醤油じゃないかも…大豆のような穀物から作って頂いた醤油…?みたいなものですね!あ、味の保証はしますよ…!ククウィック族お手製の物ですから!」

 妙に興奮したような口調、早口でシアーナは説明。

 アスカからすれば聞いたこともない単語の山なのだが。

 というか、先程からエイデが無言のまま凝視しているのだが。

 あ、いや。そこは今は問題じゃない。


 「あ、ククウィック族とはこの世界で唯一の人間以外の種族でして、絶滅しかけているほどに希少な子達でして、人間の前には絶対に姿を現さない…色々器用な子達で、発酵食品もこんな簡単に…い、いえ、本当に美味しくて…!!」

 「シアーナちゃん!」

 「は、はい!だめですね!そうですね!…お醤油…人気無いですもんね…」

 「にくじゃが…おしょうゆ…それでいこう…!!」

 「――…え?」

 今はこの料理大会に何を作るかが問題で。

 カレーが駄目になった今、もう『肉じゃが(コレ)』に縋るしか無いのである…。

 こうしている間にも時間は過ぎている。

 もう何でもよい。早く準備に入らなくてはいけない。

 そのアスカの様子に、シアーナも気が付いたのか、表情を戻して慌てたように頷いた。


 「わ、分かりました。では、『肉じゃが』で…。そ、そうなれば此方とも準備が必要なので…アスカさんは野菜の準備をお願いします。材料はアスカさんがお持ちしたもので十分ですから」

 「――分かった!」


 こうなればヤケだ。二人は慌てたように準備に入る。

 こうして、シアーナ達はメニューを急遽、カレーから『肉じゃが』に変更したのである。


 とりあえず、野菜の処理はアスカに任せるとして、シアーナは別に『肉じゃが』の下準備に入る。

 肉はブロックを切って使うとして、足りないものがある。――お米だ。


 なにせ、ライバルたちは二組ともシチュー。コレに『肉じゃが』で対抗しなくてはいけない。

 『肉じゃが』はアレだ。単体だと少し物足りない。シチューに負ける!(個人の意見です)

 だからここはお米で勝負。『肉じゃが』はお米があってからこそ美味しいのだ!反対もしかり(個人の意見です)

 だからお米…すなわち白米は譲れない。――シアーナは食べたこと事が無いけど。本にそう書いてあった。

 時間はぎりぎりだが余裕がある。お米だって材料の中に在った。シアーナはコレを取りに行く。

 ここ迄のあらましをカルトが実況していたけど、そんなの知らない。

 

 慌ててお米を取りに戻って、シアーナは準備に入る。

 お米をボウルに移して、コレを20回とぐ。水で流して、繰り返し。回数は三回。

 用意されていた鍋に移して、此処が大切。入れる水の量は、中指を差し込んで、その第一関節まで。それが目安。

 蓋をして、コレを中火で沸騰するまで熱するのだ。沸騰したら弱火にせねば。


 「ということで、エイデさんは此方をよろしくお願いします!」

 「…え?あ、ああ分かった!沸騰したら弱火…だな!しっかり見ておく!」

 と、言う事で、やることも無くて呆然としていたエイデに頼んでおいた。先ほどから何か言いたそうだったけど、いきなり仕事を貰ったエイデは大きく頷いて、静かに鍋を見下ろし始めた…。


 これで此方の準備は終わった。シアーナは慌ててアスカの元へと戻った。

 次はブロッコリーだ。こちらの下準備をしなくてはいけない。塩を入れたお湯で下茹でをしなくては。

 ソレにアスカ。

 アスカはどうだろうか。どこまで進んだだろうか。先程野菜を洗っていたのは確認したが。

 そう思いながらのぞき込めば、包丁を手に今まさにジャガイモをキリっと見下ろすアスカの姿が映った。

 少し視線を外せば、にんじんはもう切り終えている。

 ――終えているが、歪だ…。


 ニンジン…、凄く、歪だ。

 そのまま切ったのだろう。簡単に言えば輪切り…の筈だが、右側が異様に太くて左側が異様に薄いと言うあまりに非対称的なものが目立っている。いや、薄すぎて三日月形のものまである。ヘタまで入っている…。

 何故だろうか、酷く不安なのは、気のせいだろうか。



 「………アスカさん?」

 「あ!シアーナちゃん、そっちはもういいの?ちょっと待っててね!次はジャガイモだから!大丈夫!!終わらせちゃうから!」

 終わらせるって、ジャガイモ持っている手が震えているのだけど。

 ジャガイモ、皮が付いたままなのだけど。

 

 シアーナ、手でアスカを制した。

 ちょっと、聞きたいことが出来たのだ。


 「アスカさん、1つ聞きますが」

 「はい!」

 「…野菜の皮は剥けますか?」

 「――…!」

 アスカ、僅かに驚く。

 少しの間。自信満々に答える。


 「――…皮むき器があれば…!」

 何か手を上下に動かしながら一言。

 皮むき器…?ピーラーの事だろうか…?

 確かに、別に、ピーラーがあれば野菜の皮は剥ける。ニンジンとか。ジャガイモの皮だって剥ける。

 …でも残念なことに、此処に皮むき器(ピーラー)は無い。


 少し悩んでシアーナはもう一度問いかける。


 「アスカさん…玉ねぎの皮は…どうやって剝きますか…?」


 またまた少しの間、アスカは、自信満々に答えた。

 

 「…皮むき器があれば――!」



 ――玉ねぎの皮は、ピーラーでは、剥かない…!!



 「アスカさん、野菜は私が切りますから。アスカさんは混ぜる係です。それとサラダを作ってください…。包丁は使わなくていいですから」


 シアーナは、ごく当たり前に苦渋の選択をした。

 もう絶対にアスカに包丁は持たせてはいけない。それは理解した。


 アスカは暫く包丁を離さなかったが、シアーナの断固とした決意に渋々と包丁から手を離すことになった。

 ただ切り替えが早いアスカ、彼女は足早に材料へと駆けて行く。彼女なら美味しいサラダを作る事が出来るだろう。


 これで問題は解決だ。

 ――ただ、別に新たな問題が後ろで生まれるのだが。


 「――…え?」

 ディランである。

 たった今、アスカは混ぜる係に任命されたのだ。

 つまりだ、ディランの仕事が無くなった…。


 ま、仕方が無い。

 シアーナはテキパキと下準備を終わらせることにした。

 ブロッコリーは花蕾を一口サイズに切って、先の通り下茹で。

 ニンジンはこのままで良い。

 まず、ジャガイモ。芽をとってから皮を剥き、半分に、更にコレを6つになる様に切りそろえる。本当はもう少し大きい方が良いが、時間が無いので少し小ぶり、一口サイズに。コレを水につけておく。

 次は玉ねぎ、根の部分を切り取り、皮を剥くと、くし形切りに。

 簡単だが、之で野菜の準備は完了である。

 


 さて、少し時間を食ってしまったが、此処までの時間は10分も経ってない。

 ここからが勝負だ。

 シアーナは、大きな鍋に手を伸ばす。


 空いているコンロの上に鍋をのせて、十分熱してからコレに油を敷く。

 最初は玉ねぎだ。

 コレを少し透明になるまで炒める。

 玉ねぎが透明になったら、次は薄く切って置いた牛肉を入れ炒める。

 肉は焼き過ぎると固くなるので、僅かに色が変わる程度まで。

 次はジャガイモとニンジン。二つを入れて、更に1分ほど炒める。此処まで火は中火。

 炒め終えれば此処に入れるのは水だ。材料がひたひたに浸かるぐらいが丁度と情報がある。ここで、隠し味、昆布を入れるのだ、出汁が出て美味しい。

 ここ迄終わったら、水が沸騰するのを待つ。沸騰したら、昆布を鍋から出し、此処で漸く醤油の登場だ。つまり味付けである。


 味付けは砂糖と醤油の二つだけ。

 入れるのは、まず砂糖から、次に醤油だ。「さしすせそ」は完璧。

 醤油の味によって変わるが、今回は醤油の味が濃いので、砂糖を多めにしておくと美味しい。ほんの少しだけ味を濃い目にしておく。

 最後に味を確認して、――これでOK。

 後は蓋をして、ジャガイモとニンジンが柔らかくなるのを待つだけだ。

 問題はブロッコリーなのだが、此方は最初に入れるか後に入れるか悩んだ結果、彩を考えて後に入れる事にした。

 ――なんだこれ、いったい何を書いているんだコレは。


 「よし、ではディランは此方の鍋を見ていて下さい」

 「!わかった。任せておけ!」


 味の確認を終え、火を弱火にしたシアーナは側でボンヤリしていたディランに声を掛ける。

 彼に出来る仕事はこれしかないだろう。

 ディランは大きく頷くと、静かに鍋を見下ろし始めた…。



 ――これで、シアーナのすべき工程は今終わった。

 まだ灰汁取りとか、最後の仕上げとか残っているけれど、問題の大きな作業は終わったのだ。

 用意されたタイマーを確認したが、残り30分。

 野菜は火が通りやすいように小さく切ったので、20分もあれば出来上がる筈。

 余談だが、炒める事に関してはアスカがやってくれた、絶対にやるのだと言い張って木べらを離してくれなかったからだけど、はらはらして見る事になったけど。

 なんにせよ、遂にやり切ったのだ!

 それはもうホッとした、やり切った気持ちでシアーナは息を付いた。



 ――しかしだ。…なんだろコレ。なんなんだろうコレ、この光景…。

 シアーナは、ふと我に返る。

 料理はほとんど終わったが、この光景。

 男二人は無言のまま其々鍋を見下ろして動かないし。

 後ろではアスカが見たことも無い程の山盛りのサラダを作り始めている。

 それを常にフードを被った子供が見ている…て、コレ、観客席から見たらどんな光景なのだろう…?

 何とも言えないのは違いない…。


 「シアーナちゃん、一緒にサラダを作ろう!レタスとリンゴのサラダ!」

 そんな事を考えていると、後ろからボウル一杯にレタスを盛り付けたアスカが嬉しそうに声を掛けてくる。

 彼女、レタス3玉使った気がするのは気のせいだろうか…?

 先ほどからカルトが青い顔で此方を見ているのだが、アイツはこれ全部食べられるのだろうか。

 

 「アスカさん、リンゴは私がやりますからっ!アスカさんはドレッシング作りお願いします!」

 ただ、それ以上考えても仕方が無い。カルトを気にしている暇はない。

 とりあえず、今はまだ料理に集中しようと。

 鍋を見つめる二人から目を逸らすと、アスカの側にあるリンゴを見てシアーナは慌てたようにアスカに駆け寄るのであった。




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