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残酷で、ただ残酷なこの世界  作者: 海鳴ねこ
1章 暁の魔女
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アスカ 前編 カルトの町 5



 「いってぇ…あのゴリラめ…」

 頭を押さえながら、ディランが体を起こす。

 引き攣った顔のエイデが彼に声を掛けるのは直ぐの事だ。


 「おい、ディランなんだあいつ、なんだ?」

 「あ?ああ、アクス…レオス。“医術”だよ」

 「いや、それは聞いた。なんであんな暴力的なの?医術つうことは医者みたいなもんなんだろ?」

 もっともである。

 指さすアクスレオスは未だに暴言を吐き散らかしている。ちなみにその側ではカルトがケラケラ笑って、たった今顔面に拳を貰った。

 ――なんというかだ。

“医術”って言われているが、凄く暴力的だ。何だろう…なんか想像と違う。

 それにディランは答える。


 「あー。あいつ、“医術”で其処ら中の患者見てるからな。不眠不休でいつもイライラしてんだよ。特にカルト祭では毎年走り回る事に成るから、だいたいあんな感じ。ちなみに暴れまわる患者を押さえつけていたら何かブチ切れて、以降アレのひょろさでガチのゴリラ」


 ――お医者さんって大変。


 「後ろのは気にするな、この町は毎年アクスに世話になるから。そりゃもう頭は上がらないよなぁ」

 「――何故、ここの町民は逃げ出さないのですか?」

 「それと、なんか自分の名前ガチで嫌っていて、アクスって呼ばないとブチ切れる」

 「――!!?」


 ――と。このような形でディランによる、“医術”アクスレオスの簡単な説明は終わった。

 うん。まぁ、まともと思ったが、やはり中々の存在であるのは違いない。

 つまりアレだ。常日頃からブチ切れている医者…と言う事。色々と苦労が垣間見える…。ああ言った輩には余計な一言を言ってはいけない。

 ちなみに「アクスレオス」の命名者。シアーナは明確な問いを入れた後に衝撃な事実にショックを受ける事となったが。


 「あれ?でも、“神様”ってみんな女の人の姿をしてるんじゃ――」

 「あいつは別。誰かの姿はとっているらしいが…。まぁ、危険はないんじゃないかなぁ、アイツは…」

 「そうだな。今は俺なんかよりもこのカルトの馬鹿の方が危険だからな」


 こそこそと話をしていると、再び声が。

 顔を上げると、アクスレオスが険しい顔のまま、鼻血を流しているカルトを引っ掴んで、もう一度アスカたちの前へと立っていた。

 後ろの町民たちは90度から崇めたてる土下座に変わっているのだが…。どうやら諦めたようだ…。


 そんな町民たちに興味も無くなったのか、アクスレオスはカルトを地面に投げ捨ててから、此方をギロリ。

 心底信じられない物を見るような視線を飛ばしてきた。


 「あ、あああ、あの…あ、ああ、アクス…??」

 「いいよ。お前はアクスレオスで。…で、なんでこの日にやって来た。馬鹿じゃねぇのか?いや、馬鹿なの?カルト祭の最終日にこの町にやって来るとか?死にたがり?ドM?ハマってる感じ?」

 キョどりながら話しかけてくるシアーナを一刀両断して、至極もっともな問い。

 いや、コレに関してはアスカたちにだって、言い分はある。言い分があるのである!



 「な、成り行きです!元からこの町を目指していたけど、今日が祭りって知らなかったの!いや、知っていたけど、参加しようとかは考えていなかったの!食料の調達と通り過ぎるだけ!」

 「…ま、後は出来れば資金調達だな…」

 ――と、アスカとエイデ。

 エイデは賞金目的で大会に参加を目論んでいたが、今はその考えも無くなったらしい。

 例え、普通の危険性のない祭りと言われていても、この町で祭りに参加するのは危険でしかない事に気が付いたようだ。

 

 そもそもとシアーナは思う。

 「カルト祭は昨日で最終日って聞きました。――なのになぜ?」


 ――コレ、コレ!

 そもそもカルト祭は昨日で終わりであった筈なのだ。

 だから、この町に来たと言うのに。

 いったいどうして!!


 「――昨日の突然の豪雨で延期になった…」

 「あははぁ。そもそも、ソレ、今朝にディランの所にも伝達送ったよ?ほら、一応お隣さんだしぃ??」


 ――豪雨…!

 ああ、まさか、そんな。

 足止めに使用した豪雨が、まさか、そんな!裏目に出ていたなんて!シアーナ、ショック。

 ついでにディランもショックを受けた。

 なにそれ?伝達?知らない。見てない。――4日前から旅をしているのだ。知る訳が無い。伝達とやらは何処に送ったカルト(お前)!!…ディランの住み家にである。


 思わぬ事態に顔を青くさせるシアーナ、悔しそうに顔を歪ませるディラン。

 その二人の様子にカルトはケラケラと笑った。



 「いやぁ。駄々をこねてよかったよぉ!アクスレオスは中止にするって聞かなかったけど、駄々をこねた甲斐があった!!うん!!腐った牛乳ガブ飲み大会が変更されたのは悔しい所だったけど結果オーラぁイ!!」

 「何が結果オーライだ!ふざけるな!!!」


 ディランが叫ぶのは仕方が無い。

 …腐った牛乳がぶ飲み大会って、殺意が高すぎない?

 アクスレオス、お前は今日この日の為にこの町にスタンバっていたのだろう。

 もう少し何とかならなかったのか!…シアーナの視線がアクスレオスに突き刺さる。


 「無理だ。こいつが折れるはずないだろう?」

 「いやいや折れた!折れたから!!本当は一年放置した牛乳早飲み大会(大樽)だったのを、アクスが『ソレをやったらお前の手足を切り離して反対にくっ付ける』…とか言うからさ…。僕も折れたのよ?」


 ――…殺意高すぎない?

 それも、変わって結局は牛乳早飲み大会(樽)だったの?いや、それも可笑しいんだけど。

 …そんな異様な空気が流れる中、カルトは再びきゅるんと反応を変える。

 うきうきした様子で、またシアーナにグイっとよるのである。


 「でもでもでもでも!君が来たなら、競技かえてもいいよぉ!?もっと凄いのにしようか!凄いのにしよう!やっぱり腐った牛乳早飲み大会(樽)とか!!さっきの徒競走もいいね!!制限時間10分にしよう!!!」

 「………ごきかぶりの海を泳ぎ切る以外なら…もうなんでもいいです…」


 ――…どうやら…。

 アクスレオスの登場に期待したが、それは淡い希望であったらしい。

 この娯楽。何があっても気が狂った祭を続行する気で、シアーナ達はソレに強制参加は免れないらしい…。

 そして遂にシアーナ言ってしまった。禁句を言ってしまった。こっちも態々書かないようにしていたのに!

 嗚呼そうだ。150年前、シアーナが見た祭りとはコレの事だ。

 25メートルほどのプールにアレを、黒いカサカサのアレを埋まるほどに入れて、その中を端から端まで泳ぎ切れとか、とち狂った事を町人全員に仕向けたのだコイツは。

 それは正に阿鼻叫喚。言い表せない程に悍ましい。この世の地獄。モザイク連続。笑うカルト。

 仕事でこっそり見届けていたシアーナはその様子を見て、驚愕顔面蒼白顔を覆った。笑うカルト。

 ――以降、カルトは狂っている認定を受けたのである…。


 ああ…なんにせよだ…

 そんな気が狂った存在に、シアーナ達は巻き込まれる…。

 もう徒競走を選んで死ぬ気で逃げ切るしかない…。


 「カルト。その行事をしてみろ。明日からお前の首から手足が生える事になる――」

 「え、僕遂にクリーチャーじゃん。頭、元の頭は何処にいくの?」

 「安心しろ、腹にでも括りつけておく」


 あ、いや。アクスレオス。精一杯の手助けはしてくれるようだ。…脅迫だがそれ。

 てか、それ、やれるの?それ。

 しかしだ、このアクスレオスの手助けは有難い。

 流石のカルトも目に見えて驚愕したのち悩み始めた。流石にクリーチャーになるのは嫌らしい。

 ここで、アスカ達にも希望が見えて来た。期待する。

 

 暫く悩んだのち、カルトは口を開く。

 その濁った眼は相変わらずシアーナを映している。


 「えー…じゃあ、シアーナって呼ぶことを許してくれたらぁ。料理コンテストか、萌え萌えソングコンテストにしてあげるぅ」


 ――バリエーション…。


 「嫌です!!!死ね!!!!」


 ――そして断った!!!


 いや、其処は我慢すべきであろう。

 いやでも、シアーナからしたら絶対に嫌だ。死んでも嫌だ。死なないけど死んでも嫌だ。

 ついでに、このシアーナの選択によって、後ろで顔を輝かせていた町人たちは一気に絶望の表情に色を変えた…。


 カルト、数十秒の間。テンションをぶち上げMax!!!


 「よおっし!!!!ごきかぶり料理大食い大会にしよう!!!!生食でいいかな!!!!一年前の牛乳も持ってこーい!!!!」

 「…ほう…それでいいんだな?」

 …メス。いや、本当にやめてくれ!やめてください!!

 これに誰より慌てたのはエイデ達であった。

 慌てたようにエイデがシアーナの口を塞ぐ。だってこれ、チャンスだ。

 コレを逃したら強制狂った祭なのだぞ!ゲテモノ生食大食い大会腐った牛乳付きだぞ!

 それが料理コンテストか、萌え萌えソングコンテストに出来るんだぞ!馬鹿な選択肢を選ぶんじゃない!――まさにそんな勢いだった。


 「おい馬鹿!!!!名前ぐらい許せ!!!お前分かっているのか!!分かっててさっきの選択肢を選んだのか!!!」

 「シアーナちゃん!!ごき…ゲテモノプラス腐った牛乳だよ!?お腹壊すってレベルじゃないよ!?…いや、でもなんだろ…!いける気がしてきた!」

 「落ち着けアスカ!!おいチビ!!生食で行けるんだな!!それも考えての選択だったんだよな!!」

 「無理です!!いけません!!生とか嫌です!!あいつらの生命力をなめたらだめです!!腹を破って出てきます!!嫌です!!食べたくありません!!焼いてあっても無理です!!!!!せめて芋虫にして!!!…いやだ!!芋虫もヤダ!!口の中で動くのはやだ!!!」


 三人分の説得にシアーナは激しく首を振った。…ちょっとフィクション入っている気もするが。何がとかは言わない。――さて、この世界ではフィクションなのだろうか…?

 それよりも其処まで拒絶するなら早く受け入れて欲しいのだが。


 「でも名前も呼ばれたくありません!!ディランの時より嫌です!!!!」

 「煩い選べ!!腹の中にゴキ〇リを入れるか、嫌いな奴に名前を呼ばれるかだ!!」

 

 そして、遂にエイデのこの一言が決定的なものとなった…。

 …言わないでほしかった…。


 シアーナ、ふらりとカルトの前までやって来る…。

 完全に死んだ濁った眼で口を開いた…。


 「…どうぞお好きにシアーナでもシアでもシナでも呼んでください…」

 「おっしゃああ!!!僕の勝利!!!」

 「「「「………」」」」


 なんだろう。もう痛々しくてたまらないのは何故だろう…。

 げっそり顔のシアーナ、飛び跳ねて喜ぶカルト…。喜びで喝采を上げる町人。

 その様子をアスカ、エイデ、ディラン…そしてアクスレオスは非常に険しい顔で見つめているのであった。

 ――ただ、これで今年の気が狂った祭カルト祭。

 その行事は異例の真面なコンテストに決まったのは確かなのである…。




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