アスカ 前編 カルトの町 3
カルトの町は“娯楽”の町。
いつだって、毎日楽しいお祭りで溢れた華やかな町。
だから今日もお祭り。
金のリボンを町の隅々に縛って、コスモスの花束で飾り付けましょう。
キラキラな飾りを沢山飾り付けて、華やかな祭りの衣装を着て、みんなで手を取り合って踊りましょう。
空からは、はらはらと花びらを降らせるのです。皆で沢山花びらの雨を降らしましょう。
町を守る警備隊だって優しいのです。
外から来た方は誰だって、にこやかな笑顔で通します。
旅人だって、獣だって、“神様”だって化け物だってかまいやしません。
ようこそ、ようこそ、旅人の皆様。
今日はお祭りです。
みんな様、どうぞ楽しんで。
歌って笑って踊って飲んで食べて。皆で楽しくお祭りを楽しみましょう。
さあ、さあ、皆様
今日はお祭りです。みんなどうぞ楽しんで、娯楽のカルトを楽しませましょう。
「……………」
「……………」
娯楽の町、カルトの町。
“娯楽の神”が収める毎日がお祭りの町の中、その入り口。
首に花飾りを下げて、シアーナ達はその余りの華やかさに立ちつくしか出来なかった。
娯楽の町は毎日が祭りの町。
事前に聞いていたとはいえ、その様子も雰囲気も想像していた何十倍も華やかで派手派手しかったのである。
何せ町の建物、壁と言う壁には金色と様々な色をしたリボンがと、鮮やかな花束で飾り付けられている。
町人たちは皆美しい衣装で着飾り、旅人はシアーナ達と同じように首から花飾りを下げて、全員が音楽に合わせて踊っている。
横笛に太鼓にギターに、アコーディオン。リズムを取りながら歌う女性の側では、ビールを片手に笑う男達。
ふと、空を見上げればハラハラと、降るのは色とりどりの花びらと紙吹雪。
町の入口にはウエルカムボードが掲げられていて、ああ、その華やかさと賑わいは正に毎日が祭り の町に相応しいと言えるものであった。
…そんな町だ。アスカとエイデは流石に愕然と見上げるしかない。
「毎日が祭りって話だが…これは華やかな町だな」
「思っていた祭りより十倍以上凄い!!」
異世界人である二人は素直に感心するしかなかった。
二人とも其々別々の世界の住人だが、二人とも。元の世界では此処まで華やかな町は訪れたことも無かったのである。
いや、正直言えばエイデは元の世界でこんな祭りを行う町に訪れたことはある。
「懐かしいな。俺の世界でもこういう祭りをやる街があった。――年に一回だったけどな」
酷く懐かし気に思い出すのは、その祭の事だ。
ある街で開かれる1年に一度の大祭り。思い返せばその賑わいに近い。
「ああ、あの祭りは楽しかったなんて」思いながら、エイデは感心する。
何せ彼にとっては一年に一度の規模の祭りが、この町では毎日開催なのだから。感心するしかない。
いや、しかし本当に華やかだ。
そう…まるで年に一度の大きな祭りの様に――。もう遅い。
「――!!!」
「――」
シアーナとエイデは踵を返して逃げ出した…。
「!?おいまて!!なんで逃げる!?おい!!」
エイデが邪魔して逃げられなかった――!
いや、止めるな。止める暇があるなら逃げろ!
いいや気が付くべきだ!この町の異様さに。
“娯楽の神”が収める町?毎日お祭りの町?
――毎日祭りだとしても、これは華やかが過ぎる!
飾られているリボンは皆新品。花束は異常に豪華すぎるし。
屋根の上を見て見ろ。花を降らしている係の人間。――げっそりしている。何時間あの場所に居るのだ。
そして楽しそうな町人たち?目が笑っていないぞ?必死に青ざめた顔の旅人たちをあの手この手で引き留めているのだぞ?
楽しい音楽?歌声かすれていますけれど?
――町全体が狂気じみているのですけど!?
「おい馬鹿か!!離せエイデ!いや、このままでいい!!!逃げるぞ!オレはアスカを担ぐからお前はそっちを任せた!!」
ディランは叫んだ。エイデに首根っこを掴まれつつも、それでも叫んだ。
隣に居るシアーナも大暴れである。必死に手足をバタつかせてエイデの腕の中から逃れようと、声にならない声で叫んでいる。
その様子にエイデとアスカはキョトンとした目で顔を見合わせるしかない。
何故急に二人が拒絶を始めたのか、まだ気が付いていない。
でも、それも仕方が無い事だ。なにせ今日初めて訪れる異世界の町だ。
事前情報として、毎日が祭りの町とだけ聞いていただけだから、勘違いしてしまったのである。 ――コレがこの町の普通であると。そんな訳ない。
反対に異変に気が付いたのはシアーナとディランである。
町に入る直前、首に花飾りを掛けられた瞬間に察知。
シアーナが即座にその場に座り込み拒否を露わにしたものの、呆れたエイデによって担がれて無理矢理町の中へ連れて来られたのである。
だってコレも仕方がない。シアーナには前科があったから。
「ああ、ここ迄来てまた駄々をこねるのか」なんて軽いノリで、ひょいッと担がれてしまったのである。
だから、誰が悪いとかは無いのだが。
いや、問題は其処じゃなくて。
ああ、つまりは今日、この日、この町は――。
「馬鹿か!!気が付け!!今日は年に一度の大祭り…カルト祭だ!!それも最終日だぞ!気が狂った大会開催日だぞ!!ダメもとで良い!今すぐ逃げるんだよ!!」
「「――え」」
――はい、コレである。
ディランの慌てふためく様な声にアスカとエイデは固まった。
しかし残念ながら、事実である。
昨日で終わっていたと思われていた、『カルトの町』の年に一度の大祭り。
気が狂った、死人が出て当たり前の狂気のお祭り、カルト祭。その最悪な最終日。
それが、今日、この日なのである――。
「――なんでだよ!その祭は昨日で終わったんじゃないのかよ!!」
最初に我に返ったのはエイデであった。困惑した頭で彼はもっともなことを口にした。
しかしだ、そう問われても困るのはシアーナとディランだ。
「しらねーよ!!毎年昨日で最終日だよ!!あいつの気まぐれにしか思えねぇ!!」
ディラン叫ぶ。
彼の情報は正しい。カルト祭は毎年決まった日にやると定められている。それは勿論祭り参加を防ぐためであって、近隣諸国と“神々”であるなら、その日はしっかり頭に叩き込んであるからだ。
だから断言しよう、大祭りは昨日までであったと。…昨日までの筈だったんだけどな、と。
シアーナに関しては150年も引きこもっていたのだ。――知る訳が無い。話が違う――!
なんにせよ、これが年に一度の狂ったお祭りなのは間違いない!
「そもそも気づけよ!いくら毎日が祭りの町でもな、コレは華やかが過ぎる!!門番たちの様子も可笑しかっただろ!!目に生気が無かっただろ!!」
「お花の首飾りなんておかし過ぎます!!ウェルカム過ぎです!!150年前と全く変わっていません!!!気が狂った祭狂の仕業です!!!帰ります!!出ていきます!!!!」
二人は勿論抵抗をするように暴れながら叫んだ。
気づけよと言われても…。
「しらねぇよ!?もっと言って!!祭りだ、逃げようぐらい言って!?」
「拒否行動をしました!蹲りました!荷物みたいに持ち上げたのはエイデさんです!」
「それで通じたら――」
――。いや、確かにあの瞬間、異常さに気が付くべきだった。
ディランは硬直していたし、シアーナは蹲って必死に地面の草にしがみ付いていたもの。確かにおかしい。
「嫌です!!嫌です!!!帰ります!あいつとは会いません!!」
シアーナ、大暴れ。エイデの腕の中でウサギの様に暴れまわった。
何時もの彼女と比べれば、あまりに違い過ぎて、その様子はうっすら狂気すら感じる。
なんか、本気で間違えたような。絶対に何としてでも今すぐ逃げ出す、あるいは隠れるべきである様なそんな気がする。
「――まってシアーナちゃん。もしかしたら優勝できるかもしれない…!」
「正気です!?アスカさん!?」
その中で何故かアスカだけが、的外れな言葉を零す。
いや、アスカ。決意が籠った目をしているが、コレは唯逃げられないと諦めただけだ。
逃げられないなら立ち向かうべきだと、まさかの前向きに受け入れただけだ。
シアーナはエイデの腕の中で思い切り顔を上げた。心から信じられない在モノを見るような恐ろし気な表情でアスカを見上げた。
アスカはまだ理解しきれていないのだ。
コレから待っているのは地獄のお祭りということに…。
“神様”が一目散に逃げだす…と言う理由にまだ気が付いていないのだ。
だが、ここであえて言おう。
――もう、遅い…と。
「うわっはぁ!!なにこれ凄い!!ええ!!?珍しいお客さんどころじゃないじゃん!!ええやばっ!!ラッパ!!ラッパを鳴らせ!!ギターも弾いて、ピアノも叩きならせ!!僕の登場を盛り上げて歓迎しろ!!!」
町中に響く、興奮した少年のどこまでも通る大きな声――。
シアーナとディランがびくりと肩を揺らす。
後半の言葉が完全におかしいが、訂正する人物は一人としていない。
何処からともなくトランペットやらトロンボーンやらを持った何人もの人間が出てきて、整列。
同じくなんかカッコいいポーズを取ったギターを掲げた連中が並んで、何処から出したのかドでかいグランドピアノがドンっ!!!…町を彩った。
――そして…。
――じゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃーーーーーーーん!!!
だとか、なんだとか、言葉に表す事が出来ない音楽(?)が叩き弾かれたのは、次の瞬間であった…。
いや、音楽になってはいるのだが、とんでもない音量で、音楽とも言えなさそうな感じで、ああ、うん、4人が耳を塞いだのは当然である。
なんならシアーナは「みゃー」と叫び声すら上げた。
「い――やっほぉ!!!!!」
その音に負けない程の声が一つ。
地面には黒い影、見上げれば空をくるくる飛ぶ誰かのカゲ。
クルリと体制を変えた彼は見事に地面に着地、「シュタッ!」
腕もビシッと斜めに上げて、はい、なんかカッコいいポーズ。
綺麗に揃えられ結われたピンクの髪に、首には花飾りを3つほどぶら下げて、
「きらっ」と顔を上げれば綺麗な大きな青い瞳。
どう見ても少女にしか見えない彼は最後に一番いい笑顔を浮かべて、決め台詞。
「――颯爽と登場、“娯楽”のカルトくん…だぜ!」
――嗚呼、彼こそが娯楽の神、カルトその人である。
「「「「……………」」」」
はい、皆拍手!




