アスカ 前編 カルトの町 2
朝食、片付けを終えた後、四人は何時ものように今後の話をする事となった。
もっと詳しく言えば、『カルトの町』までの進路についてだが。
「それで、今日で4日目だが…『カルトの町』までは後どれぐらいだ?」
エイデがディランに問いただす。
ディランは僅かに眉を顰めた後、口を開く。
「…今日中には着くと思うぜ?(神様の御心次第だが…)」
「――」
最後の一言は、本当にボソリと…。聞こえないように口に出したはずなのに、シアーナはギロリ。――ディランは慌てたように目を逸らす。
――いや、でもコレは仕方が無い。
だって、本当は昨日中には『カルトの町』には着く筈であったから。
なら何故こうしてまだ町に着いていないかと言えば、コレは簡単。
昨日は何故か朝から豪雨に遭遇したのである。それも朝から晩まで。それも、それも…、何故か朝食後に急に、と来た。つまりは、一日一歩も動けなかったのだ。――何故か?…はぁ。ディランはため息を付く。
いや、此処まで来て迷うのは、どうなんだ?――そう、ディランが顔を顰めるのは仕方が無い。
…いや、むしろ…。彼女の迷いに反応した“彼女”の仕業だろうが…。
今でもしっかりと繋がりがあるのか…。
――と、ディランは心の中で感心もした。
なんにせよ、だ。昨日の豪雨で町にたどり着けなかった理由。それは完全に判明している。
間違いなくシアーナの仕業であると。
なので、つい思ってしまう訳だ。
シアーナの決心が決まるまでは、町までにはたどり着けないのだろう、と…。
「…お前、昨日も同じ事言っていただろう?」
「――仕方が無いだろう!」
ただ、納得いかないのはエイデの方だ。
なにせ昨日もディランが自信満々に「今日中には着く!」と発言した結果が豪雨だったのだから。
いや、雨はディランの仕業では無いのは分かっているけど。
なにせ“海”が雨を降らすなんて無理である。
それもだ。朝から夕方まで足止めを余儀なくされる大雨が降っていたかと思ったら、夜には嘘のように雲一つなく晴れるなんて…
絶対におかしい。おかしいってレベルじゃない。人為的、いや、神業。
そうなれば、エイデからすれば犯人は一人だけになるけれど。
でも、ただの”死”が其処までの力を持っているのかとエイデの中でも謎である。
「…心配しなくていいです…。今日中には着きますよ…」
エイデから視線を貰う前にシアーナはポツリと呟いた。
何度目だろう…。全員の視線が彼女に集まる。結局は集まる。
「…今日中には着きます…お昼までには着きますよ」
仕方が無い事とは言え、シアーナはその視線から逃れる様に顔をそむけた。
エイデからは完全に疑いの視線を向けられているし、なんならディランだって疑いの視線を向けてきているけど。
でも、シアーナだって。昨日の豪雨に関しては良い訳がある。
そもそもシアーナからすれば、ディランが悪いのだ。彼の余計な一言が…。いや、余計では無かったが。
彼は言ったのである。
「今日中にはカルトのとこには着くぜ。丁度、年に一度の大祭りの日だ。ついでに楽しんでいくか?」
――と。
何が問題か?説明しよう。
『カルトの町』
ここを治めているのは名がついている通り『カルト』と言う“神”である。
詳しく記すなら、娯楽の神カルト。なんの“神”かは、その名の通り。
と、言っても誰もが想像する娯楽じゃない。
カルトの娯楽とは所謂「祭り」だ。
遊び楽しむ事をモットーにして、町を楽しく治めている“神様”。
“彼”の町では“死”への偏見ですら無いに等しい――と言われている。なら何故か?
カルトは良くも悪くも中立であり、“娯楽”だからだ。
“彼”は言う「楽しい事は皆で楽しんでこその娯楽だ。そこに悪とか善とか神とか人間とか?化け物とか獣とか無いでしょ?」と。
誰にでも愛想がよくて八方美人。そんなカルトの町だからこそ誰に対しも偏見は無い。
――これは彼を誉めての言葉である。
そのカルトの本性を記そう。
“彼”の町では毎日がお祭りだ。
みんなで楽しんで笑って、子供の様にはしゃいで、泣き叫んで発狂して、カルトだけが笑っている。
来るもの誰だって何だって、全員祭りに強制参加。
“彼”が満足するまでは町からは出られない。
そんなふざけた決まり事を当たり前に創った楽天家な狂人である。――失礼、“娯楽”である。
そのお祭りが只のお祭りだったら、問題は無かったのだが…。
ただ、その祭。150年前に他の街々や国から苦情が来て、一年に一回になった。本当は100年に一回にしてほしかった…。
150年前、一度その祭りを見てシアーナは思った訳だ。
「あ、こいつ狂人だ」と。――そんな祭りである…。
つまり、そんな祭りに参加なんて絶対したくなかったのである。
わざわざ揉め事に飛び込むとか、あり得ない。目立つ事とかしたくない。
そもそも“神様”になんて会う事は極力したくない。
祭り強制参加=狂気=カルトに合う=目立つ…なのだから!
これがシアーナの言い訳である。
昨日聞いた瞬間に、シアーナは心の底から「行きたくない」と思った訳だ。その結果が昨日の足止めだ。一応フォローしておくと、豪雨はシアーナが降らせたわけでは無いのだが。
シアーナは“彼女”に心から感謝をしたほどだ。
ともあれ。ディランの話からすれば、祭りは昨日までだと言う事も聞いている。一番最悪な日は免れた。
一日時間が出来たと言う事で、心の整理も付けたのだ。
カルトと出会うのは、もう仕方が無い事。アスカを助けると決めたのなら覚悟を決めておくべき。
あの祭りの強制参加を防げたのならそれでよい。…と。
…だから、今日は町には着けるのである。絶対。
何度目だろ、コレ。
コレ、大問題なので早々に解決した方が良いだろう絶対…。
でも、シアーナの正体が全く分かっていないアスカは無理な話であるし、ディランは変えさせる気は無いしと、解決の道が無い。
唯一エイデだけは眉を顰めていたが、彼もまたシアーナの事は理解しきった訳ではない。
ただ、これはおいそれと簡単に口を挟めるようなことでは無いと察しがついてしまった訳で、今直ぐに口に出来るような状況では無かった。
とりあえず今は、今日こそ町にたどり着けることを願うしか無いのである…。
「でも、残念だったね。お祭り見て見たかったなぁ」
エイデが今後に関して眉を顰めていると、隣からアスカの残念そうな声が響いた。
彼女の言葉に嘘などない。表情からしても、かなりがっかりとした顔をしている。
どうやら、アスカは祭りを楽しみにしていたようだ。
「なんだ?祭りに参加したかったのか?意外だな」
「え?いや、だってお祭りだよ?私達からしたら異世界のお祭りだよ?気になるよ!」
思わずエイデが口にしたら、アスカは当たり前と言う様に返してきた。
いや、確かにエイデからしても異世界のお祭り。
気にならないと言うと嘘になる。
エイデはアスカより長くこの世界に居るが、祭りは体験したこと無い。“神”が主催する祭りなので、若干心配はあるが。覗いてみたいと言う気持ちは勿論ある。だが、問題は其処じゃない。
「――いや。先、急いでいたんだろ?てっきり、そんな暇はない!…とか言うと思っていたからな」
問題はアスカが早く元の世界に戻りたがっていた事だ。
事情は詳しく知らないが、彼女が早く元の世界に帰りたがっているぐらいは嫌でも察しが付く。
だから、アスカの言葉は意外であったのだ。
「え!?そんなことないよ!確かに元の世界には早く帰りたいけど」
「“けど”?」
「だってお祭りだよ!お祭りだもん!」
そんなエイデの疑問を吹っ飛ばす勢いでアスカが声を上げる。――二回も。
その時のアスカの目はかなり輝いていたし、これは本気で祭りを楽しみにしていたようだ。
実質一日足止めを食らい、焦っているのではないかと思っていたが、全くそんな様子はなかった。
むしろ、そのあまりにキラキラとした表情に、シアーナが僅かながらに心を痛めると言う結果が残った。
…そんなに楽しみにしていたのか…お祭り…。
というか、意外とアスカは祭り好きな所があるのか…なんて。
「お祭りってアレでしょ?――みんなで、ご馳走を食べて踊るんでしょ?絶対に楽しいよ!」
「お前の祭りの規模小さくない?」
思っていた以上に、アスカの祭りはこじんまりだった…。
みんなでパン食べて踊るのが、年に一度のお祭りなのか。いや、ありそうだけど。皆で踊るなら楽しいかもしれないけど。
「それは楽しそうですね。それぐらいだったらどれだけよかったか…」
「え?違うの?」
シアーナ、150年前を思い出して眉をわずかに顰めた。
ディランも同じだ。それぐらいだったら、良かったのに…と。
しかし残念。
近隣諸国が苦情を入れる程の祭りだ。――そんな訳が無い。
「去年はそうだな…。そんな祭りだったって噂だぜ?」
ディランが口にする。
「何だ!やっぱり楽しそうじゃない!」
「………町人旅人強制参加、休みなしのパン大食い大会&エンドレスダンス大会だったらしいがな」
「――え?」
「腹いっぱいパンを詰め込んだ直後に、最後の一人になるまで踊り続ける。そしてそれをカルトの野郎が笑いながら見ていたとか…。倒れる連中は当たり前、嘔吐する奴らもあふれ出て。町中阿鼻叫喚。アクス…“医術”の奴がブチギレ乗り込んでカルトと大喧嘩とか、中々だったぜ?」
――ちょっと、想像の斜め上に行った、いやブチ破った。
シアーナは心から思った。やっぱり参加しなくて良かった。心から“ケニアス”に感謝しよう。
カルトは150年前から可笑しかったのだ。
むしろ昔よりマシになったじゃないかと…。何せ150年前は毎日アイツの町で異常な数の死人が出ていたもの。というか、去年の死人はソレが原因だったんだ。――なんて…。一般からすれば笑い事じゃない。
流石にアスカもこれには口を閉ざした。エイデも同じだ。口を閉ざして、ちょっぴり思ってしまった。
――参加できなくて良かった…と。
いや、本当に笑い事じゃない。コレだから神ってやつは…!
「ま、気が狂った行事は最後の一日。それまでは普通の祭りなんだがなぁ。祭りが終わるまで町に閉じ込められるから、気は抜けないが…」
「ちょ!それ、何処が楽しめになるの!?」
思わず…いや、当たり前な問いをアスカが返した。
昨日ディランは言ったはずだ。「楽しんでいくか?」と。
何が「楽しむ」だ。楽しめる訳が無い。選択肢も無いじゃないか!
そんなアスカに、ディランは開き直ったようにニヤリ。
「強制かくれんぼ。楽しめる奴には楽しめるって話だぜ?」
「馬鹿か!!一人で楽しんでこい!こっちはただの人間なんだぞ!ふざけんな!!」
勿論、エイデに頭を叩かれた訳だが。
なんにせよ、シアーナの足止めは功を成したという訳だ。ちょっとだけシアーナは誰にも気づかれない程度に誇らしげに笑みを浮かべた。
ちなみにカルトの祭りは毎年変わるのだが。まぁ、参加しないアスカたちには関係ない事である。
「ま、カルトの年に一度の祭りは終わったが…アイツは懲りずに毎日小さい規模の祭りは開催してるからな。そっちは楽しめるんじゃないか?」
「――待ちなさい。ディラン…………は?」
ドヤ顔で小さくガッツポーズを決めようとした瞬間、次のディランの一言でシアーナは固まる事になった。
いま、ディランはなんといった?
僅かに安堵を見せていたアスカとエイデも同じように固まった。
いや、だって。そんな死人が当たり前に出る祭りを開催している神が、だ。毎日小規模の祭りを開催しているとか。――想像もしたくない。
と言うか、年に一回とは一体何だったのだ。結局祭り強制参加か。コレはシアーナですら知らなかった。折角逃れたと言うのに…なんて無駄骨だろうか。
「あ。いや、50年ほど前から。『やっぱり祭りは毎日が良い!』って言いだしてな。『娯楽として絶対に毎日楽しい遊びをやるんだ!』…とか?…止められなかった」
「馬鹿じゃないです?止めなさい。何の為の年に一回のお祭りなんですか?」
ディランの言い訳にシアーナがもっともなツッコミをする。
本当に全くだ。なんなら、遠回りしてでも町には入らないように、通り過ぎるべきだ。そうエイデが考え始めた時だった。
ディランは慌てたように続けた。
「ちょ、ま、まて!ちゃんと制約は付けた!犠牲者が出ない程度の祭りだ!簡単な歌声コンテストとか、料理大会程度だよ!――お前たちが思っているような危険な祭りじゃない。参加も強制じゃ、ないしな!」
「ふざけないでください!どうせ罰ゲームと称して仮装させられたり、不味い料理を食べさせたりしてくるのでしょう!そして“旅人強制参加”とか当たり前なのでしょう!?絶対に嫌ですよ!」
「いや!強制参加はしてこないから安心しろよ!!」
「罰ゲームは否定しないのですか!!どうせアレでしょう?豪華な景品で旅人を誘惑して参加させるんでしょ!」
「おま!?…神様が嫌いなくせに良く分かってるな!!」
「最悪です!!!」
ここまでくると、少し笑えて来る気もするが…。
シアーナは唐突な事実に頭を抱えるしかなかった。
少しの間、シアーナはアスカに視線を向ける。
「アスカさん…遠回りになりますが別の道に行きませんか?」
――関わりたくありませんし。
「それぐらいのお祭りなら大丈夫!!楽しもうよ!!」
駄目だった。元よりアスカは祭りを楽しみにしていたのだ。無駄なのは当たり前だろう。
むしろ、楽しむ気満々らしく、目がキラキラしている。
――断れない、拒絶できない!
シアーナは続けて、最後の頼みであるエイデを見る。
「エイデさん。話の通り、カルトは危険です。遠回りしませんか?」
「――」
必死に訴えかける様にシアーナはエイデを見つめた。
その視線を受けながらエイデは僅かに眉を顰める。
シアーナの気持ちはわかる。…一応。
確かに危険な町だ。楽しそうに見えて、かなり危険な町だ。なので、迂回して別ルートからいったほうがよいのは確か――でも…。
「わるいな。流石に食料の調達をしなきゃいけない。3日で行けるって話だったからな、そこまで買い溜めてない。節約しても後2日分だ。迂回したら次の町までは数日たどりつけないだろ?」
「――ええ、1週間は掛かりますね…」
最後の希望まで絶たれた。シアーナは頭を抱える。
もう、昨日のうちにカルトの危険性を訴えて、迂回しておけばよかった。
何を考えても、もう遅いのだが――。
「――それに…」
「?なんです」
頭を抱えていると、エイデが続けるように声を上げる。
まだ他に何かあるのか、シアーナはドキリとエイデを見つめた。
「――豪華景品なら、ちょっと興味がある――!」
「――は?」
エイデはものすごくキリっとした表情で、そう言った。
シアーナの反応は勿論である。いや、むしろ一瞬頭が白くなったほどだ。
白くなった頭で考える。考えて、思いついて、シアーナ…眉を顰める。
つまりこの男――祭りの景品に目がくらんだのである…。
「エイデさん」
「まて!!まてまて!だってちょっとした祭りなんだろ?簡単なコンテストなんだろ?危険性はないんだろ!?だったら、景品次第では参加するのも手だ!!」
――祭りの景品に目がくらんだのである。
誰が思えようか、異世界人二人とも祭りにご執心になるとか。
「ま、まて!待てって!!あのな、お嬢ちゃんは分からないと思うがな!旅には先立つものが必要なんだよ!金とか、食料とか…!ここは異世界だし、食い物に関しては未知だ!だが、俺の貯めていた金だけじゃどうにもならないんだよ!」
「………」
シアーナには良く分からないが、一理ある。
たしかに、だ。旅をするには必要物資があって、それを揃えるにはお金が必要。何処の世界でも同じである。
其れこそ、そこに関してはシアーナとディランが食事を抜けば負担は減りそうだが、先程の今。何故かアスカもエイデも承諾してくれないのは間違いないだろう。
つまりエイデが、賞金に目がくらむのも仕方がない事なのである。――流されている訳ではない。
「俺の世界では冒険者って職業みたいなのがあって、各国の依頼をこなしながら生活をしてきた。でもここにはそういうシステムはないだろ?」
エイデは自身の世界の話をわずかにする。
彼の世界では、ソレが彼のお金の稼ぎ方であったらしい。残念ながらシアーナは初めて聞く事だ。
だから勿論、シアーナは頷いて肯定するしかなかった。
「ありません。…そうですね、誰でも簡単に稼げる手としては…獣の皮や肉を売るぐらいでしょうか…?」
「だな、つーかエイデ。此処に来て、それで稼いでいたんだろ?」
「そうだよ!それが一番性に合っていたからな!」
今度はエイデが肯定した。ディランの言葉に彼は大きく頷いた。
彼の此方での職業は初めて聞いたが、今までの食料や衣服に関してはエイデのその稼ぎから出していたのは違いない。
それに気が付くと、シアーナだって町に行きたくない…なんて我儘は更に通せなくなった。賞金目的で祭りに参加するのは如何と思えるが。分かっていても思わずシアーナはジト目でエイデを見てしまう。
「安心しろ!祭りに参加するか決めるのは町に着いてからにするし、参加するのは最低でも俺だけだ。お前は好きにしろ。宿を取るからそこで閉じこもっていてもいいし、アスカと町の探索でもしてな」
「………」
ただ、エイデもエイデでシアーナの心境には僅かに気が付いてくれたらしい。
ニッと人がよさそうな笑顔を浮かべて、エイデはそう言ってくれた。――シアーナも思う。…それぐらいなら…と。
しかし、次はアスカが黙ってはいなかった。
慌てたようにアスカはエイデの腕をつかむ。
「まって、エイデさん!それはだめだよ!お金が足りないなら、私も――」
「――いい。助けになりたいなら、お前はシアーナの世話をしてやってくれ」
ただ、アスカが何かを言う前にエイデが彼女の言葉を遮った。
こちらもまた、仕方が無い事だ。
エイデはチラリとシアーナを見つめて後に、アスカの耳元で小声で話す。
「あいつの本心で言えば、祭りなんて参加もしたくないだろうよ。でもな、いい機会だ。ああ言ったが、せっかくの祭りだ。楽しむべきだと思うんだよ。だから今回は連れ出してやって欲しい。金の事は心配するな。ディランと二人で稼いでくるから」
それはシアーナの事を考えての言葉であった。
アスカはエイデの考えを聞いて、彼を見つめる。
正直、此処までシアーナの事を考えているのは意外だったのだ。――何と言うかだ。
「エイデさんって…なんかお父さんみたいなこと言うのね」
「ん?――まぁな。いったろ?コレでも、二児…いや、三児の父親でな。お前たちを見ていると娘を思い出すんだよ」
アスカが思わず口にしたことを、エイデは当たり前の様に受け入れて笑う。
嫌、彼に娘がいたことに…。むしろ三人も子供がいたことに普通に驚いたが。
そう言えばと思う、出会った時もそんな事を言っていたような気がすると。
なんにせよ、だ。アスカも気が付く。
コレは彼なりの気遣いであり、同時に自分に与えられようとしている仕事でもあるのだと。
アスカはシアーナに視線を向ける。
正直の所。アスカもシアーナの事は放っては置けない。
“神様”を異様に嫌っていて、自分を化け物と言う人間ではない女の子。
彼女が町の中を歩くのを嫌がっているのは分かるし、祭り参加なんて論外なのはアスカだって気が付いている。
それでもだ。彼女一人で、宿屋に引きこもり留守番なんてさせたくはなかった。一人にはさせたくなかった。
だからこそ、アスカはエイデに視線を戻すと笑顔を浮かべる。
「うん、分かった。折角の異世界の町でお祭りだもん。シアーナちゃんとのデート、楽しませてもらいます!――お祭りに参加するエイデさんも見られるかもしれないもんね」
ちょっと悪戯交じりに、アスカは小声で言った。
その様子に、エイデも安心したように笑う。
「おう。任せておけ」
そして、そう一言。
彼はまるで本当に、娘に接するようにアスカの頭に手を置くのであった――。




