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情報技術産業に潜む“国境が曖昧”という危険 ~主に中国を事例に

以前に書いた「中国の情報技術産業戦略と無防備な日本」と主旨はほぼ同じになります。

中国に大きな動きがあったので、短くしてその点についても触れてみました。

 あなたには中国製のゲームをプレイした経験がありますか? 僕は少なくとも意識している限りではありません。

 どうしてそんな曖昧な表現になるのかと言うと、メーカー(運営)を詳しく調べていない場合もあるので知らない内にプレイしているかもしれませんし、そもそもメーカー(運営)が嘘をついていて、実体は中国企業だったなんてケースもあるようなので確証が持てないからです。

 (ただ、そこまでたくさんゲームをやっている訳じゃないので、多分やってはいないと思っているのですが)

 もし、あなたが中国製のゲームをプレイしているのなら、利用規約を一度調べてみることをお勧めします。中国製ゲームの多くには、規約に『提供された個人情報の完全なる保護を約束することはできません』といったような記述がされているそうです。

 思わず「おいおい……」と言ってしまいそうな話ですが、恐らくこれは中国に中華人民共和国国家情報法(以下、国家情報法)という法律があるからでしょう。

 この国家情報法では、企業や個人は中国から求められたなら、その情報を提供しなくてはならない事になっています。

 つまり、あなたがプレイしているゲームのメーカー(運営)がどれだけ誠実な企業であったとしても、中国政府から「情報を提供しろ」と命令されたらそれに従って情報を提供しなくてはならないのです。

 更に、中国製のゲームには改ざん(チート行為)防止の為に、監視ソフトが入っていて、しかもそれがスパイウェアまがいの性能を持つというケースすらもあるそうです。

 様々な国が中国の情報技術産業を警戒している背景には、このような要因もあるのです。

 僕は臆病な性格をしているもので、これだけの話を聞いただけでも、中国製のゲームを少なくとも重要な情報が入っているハードでプレイする気にはなれません……

 (だから、これを読んでいるあなたにも、もしプレイするのなら、重要な情報が入っていないハードを選択することを強く勧めます)

 

 もちろん、情報技術関連で警戒するべきなのはゲームに限りません。これは僕の職場での話なのですが、「マルウェアの入ったEclipseをダウンロードしてしまっている人がいたので気を付けるように」と注意喚起を促すメールが届いた事があります。

 Eclipseというのは、主にJavaというプログラミング言語で使われている開発ツールで、昔は基本的な機能しか付いていないものをまずはダウンロードして来て、そこから自分達の開発に必要なプラグインを入れて機能を充実させていくというスタイルだったのですが、ある時から、初めから様々な機能が追加されたEclipseをダウンロードするというスタイルが主流に変わりました。

 もちろん、その方がとっても便利なのですが問題点もあります。予め機能がセットされていると何が入っているのか使っている側には分かりません。そして信頼のおけないサイトからダウンロードしてしまった場合、そのEclipseにマルウェアが混入しているなんて事もあったりするのです。

 その“マルウェアを入れてしまった”という問題を起こしてしまった誰かは、恐らく油断して妙なサイトからEclipseをダウンロードしてしまったのではないかと思われます。

 因みにうちの部署はその辺りは厳しいので、そんな人はいなかったようです(同じ会社でも部署によって慣習が全然違うものです)。

 

 「ネット上には様々な危険が潜んでいる」

 というのは今や常識になっています。

 これはネットが普及し始めた当初から言われていた事で、その頃は「法整備がまだ進んでいないから」と言った言葉をよく耳にしていました。

 ところがそれから何年経っても「法整備が進んでネット環境が安全になった」という話は聞きません。いえ、それどころか以前よりも危険になってしまった可能性すらもあります。

 ……ただ、これ、冷静に考えてみれば当たり前の話なのです。何故なら、ネットを介して世界中と繋がった情報技術産業では、“国境”が非常に曖昧です。だから、日本だけで法整備を進めても意味がありません。そもそも発展途上国ではまだ充分に“法治”という概念自体が浸透していないケースすらもあるそうです。

 そして、そういった海外の“法整備が整っていない国”を悪用して、何かしら好ましくない事をしている方々なんかもどうやらいるようなのです。

 先程少し触れましたが、ネット上でサービスを提供している会社が国籍を偽っているケースもその一つです。

 例えば、通称「KOF’98 UMOL」と呼ばれるゲームの運営会社が、表向きは日本の会社となっていたのに、実際は中国の会社である事が分かった事件がありました。ユーザーの一人が、この会社に対して訴訟を起こしたらしいのですが、その所為で訴訟自体が未成立になったそうです(その後も色々あったようです。詳細は検索をかければヒットすると思います)。

 つまり、何かしら卑怯な手段でユーザーを騙して稼いだとしても、訴訟すら起こせないのです。

 これを聞くだけで不気味に過ぎます。

 情報技術産業の“国境が曖昧”という特性を悪用するケースはまだまだあります。動画や漫画などの違法アップロードサイトが海外を拠点にしているというケースは少なくありません(当然、著作権侵害です)。稀には摘発されたというニュースも聞きますが、何年間も放置されているサイトもあるようです。

 因みに、僕も実は一度、ささやかなものではありますが、著作権侵害の被害に遭っています。

 僕は趣味でへっぽこな音楽作成をしているのですが、アップロードしたその音楽を中国のbilibiliって動画配信サイトに無断転載されてしまっていたのです。

 「一体、自分の音楽なんて無断転載して何の意味があるのだろう?」

 とは思いましたが、もちろん完全な著作権侵害です。調べてみると、他にも被害者が何人もいました。bilibiliのユーザー(?)が無断転載するというのは、どうやら有名な話のようです。

 これが日本国内のサイトなら、運営に抗議をするだけで済みますが、そもそも中国語が分からないのでどうすれば良いのかも分からない上に、かなり努力しないとそういった無断転載された動画を削除してはくれないそうです(成功例の体験談があったのですが、その人はbilibiliに自分の動画を投稿してファンをつくった上で協力を求め、ようやく削除してもらえたそうです。……bilibiliに投稿している時点で、bilibiliの運営にとっては利益になっているので“どうなんだ?”って感じですが)

 もちろん、訴える事も可能ですが、当然ながら日本国内よりも遥かに面倒な手続きが必要なようです。大体の人は泣き寝入りをしてしまうのじゃないでしょうか?(因みに僕は泣き寝入りしました)

 海外のサイトに著作権侵害をされていた場合、それを咎めるのはかなり難しそうです。

 

 このような問題を改善する為には、国際間で適応できる何かしらのルールが必要です。製造、或いは運営している国の法律をも考慮した上で、安全性を担保できるルールの作成を目指すのですね。

 ただ、これが一朝一夕では難しいのは言うまでもありません。まずは製造運営元の国の法律も考慮に入れた“情報技術を取り扱う上での安全基準”を国際的に取り決め、その安全基準を基に各国で安全性を判定し、“安全性適合”の認定を行うといったような試みが現実的な線ではないかと思われます。

 もちろん、全商品サービスに対して、安全性適合の判定を行うのは難しいので、申請のあったものだけに対して行うという事になるだろうと思われますが。

 もしこれが上手くいったなら、“より安全性の高い商品”が市場で好まれる環境を作り出せます。その方が消費者にとっても良いのは当り前に分かりますし、国際的な市場で勝つ為には、自国の法律を安全なものに変える必要も出てきます。つまり、中国の国家情報法のような“問題のある法律”を変えさせる圧力にする事ができるのです。

 もちろん、その国が圧力に屈するかどうかは分かりませんが……

 

 デジタル庁が日本で創設されました。様々な政策を計画しているようですが、まずは情報技術の安全基準を作成し、それを「国際標準としよう」と世界に対して訴える試みをしてみるべきだと僕は考えます。

 

 今までは、企業単位の小規模な話でしたが、もっと大きな範囲で、かつ別視点で“各国の法律の差”が問題になるケースが情報技術産業にはあります。

 有名な話ですが、中国は情報技術産業において外国の企業を法律で規制して締め出しています。ゲームでも、検索サービスでも、動画サイトでも。ですが反対に外国の市場には進出しているのです。

 つまり、法律で護って国内の企業を成長させ、その成長した企業を国外に進出させるという、真っ当な競争とは言えない、なんとも不公平な事がまかり通ってしまっているのですね。

 しかも情報技術産業…… デジタル情報経済の場合、このような事で得られるメリットが他の産業よりも高くなります。

 デジタル化可能な商品は、開発には費用がかかる場合が多いですが、複製にはほとんど費用がかかりません。また、資源の制約もほぼ受けないと考えて良いでしょう。更に情報が瞬く間に世界中に広まりますから、いわゆる“勝者総どり”と言われる状態になり易くもあります。

 これは現在情報技術産業で成功している企業を思い浮かべれば、簡単に分かると思います。グーグルやフェイスブックなど、極一部の企業が市場を席捲しています。

 ゲームでイメージするともっと分かり易いかもしれません。プログラミングさえしてしまえば、ゲームは複製するのに大して費用がかかりません(そもそも、ブラウザでプレイ可能なゲームもありますし)。そして、それが“面白いゲーム”であったのなら、世の中のたくさんの人がプレイしようとするでしょう。

 結果、一部の企業がとんでもない利益を得る事になります(知っている人も多いでしょうが、スマートフォン等でプレイするゲームでは実際にこれが起こっています)。

 このような特性があるので、中国の情報技術産業は脅威と思われていました。日本の場合は特にゲーム業界でしょうか? 優秀な人材の引き抜きなども頻繁に行われ「中国企業の進出に戦々恐々としている」なんて話をよく耳にします。

 これから、中国のゲーム産業に日本の市場は乗っ取られてしまうのではないか?

 と。

 

 ――が、これはちょっと前までの話です。いえ、現在でも恐れられているし引き抜きだってされているのですが、少しばかり事情が違ってきてしまいました。何故か中国共産党が、こういった情報技術産業の企業に対して規制をかけ始めたのですね。

 アニメの配信サイトでは大幅に放映するアニメを縮小し、ゲームでは厳しく制限時間を設け、他の情報技術産業に対しても、独占禁止法に違反しているとして制裁金を科したりしています。

 これを受け、一部企業は中国の外に逃げたそうです。例えば、ゲーム“原神”で有名なmihoyoはカナダに新拠点を作っています(もちろん、だからって中国と切れた訳ではまったくないのでしょうが)。

 このような動きの理由として中国共産党は「格差是正の為」などと発表しているようですが、もちろんそのまま信じる事はできません。僕はこの話を聞いた時、まず真っ先に「情報技術産業があまりに利益を上げ過ぎているので脅威と判断し、勢いを抑えようとしているのではないか?」と考えました。

 先程のデジタル情報経済の説明から想像できたのじゃないかと思いますが、デジタル情報経済では少ない人数で大きな富を得る事ができます。中国共産党がそれを警戒したとしても不思議ではありません。

 テレビの報道番組に出て来た中国の専門家を名乗る人物がやはり似たような発言をしていました。

 なんでも、「中国は一枚岩に見えるかもしれないが、実際は必ずしもそうではない」ということです。

 一応断っておきますが、中国に情報技術産業を抑える動きがあったとしてもまったく安心はできません。「中国で商売がし難くなるからこそ、日本市場に進出する動きが活発になるのでは?」という懸念もあるからです(もっとも、だからといって、日本経済全体にとってそれがマイナスの影響になるとは限らないのですが)。

 なんにせよ、中国共産党と情報技術産業の折り合いが悪い今は、「各国の法律を見据えた国際的な安全基準作り」のチャンスだとも言えます。抵抗が少ないでしょうからね。

 今のうちに動いておくべきだと思うのですが……

 

 僕は中国の情報技術の発展に関して一つ懸念を持っていました。

 社会・共産主義の統制経済が何故失敗をしたのかと言うと、それは何より“情報の制御ができなかったから”です。

 膨大な量の資源と商品の需要と供給を捉えて、適切に生産し、それを適切な価格で売るなんて事は人間の脳には不可能です。資本主義経済の場合は、アダム・スミスが“神の見えざる手”と呼んだ負のフィードバックによって自動調節されますが(これは自己組織化現象の一つと言えます)、統制経済ではこれができなかったのですね。結果、不適切な生産が行われ続け、衰退していき、中国は崩壊する前に経済においては資本主義を取り入れました。

 ですが、人間には不可能でも、AIにならば膨大な経済に関わる情報を分析し、適確に制御するといった事が可能になってしまうかもしれません。

 ですから、中国の情報技術の発展を不安視していたのです。

 「“デジタル共産主義”とでも呼ぶべき新しい体制を中国は確立してしまうのではないか?」

 と。

 もちろん、それが必ずしも人類にとって悪いものであるとは限らないのですが、中国共産党の“支配欲求の強さ”を考慮するとどうしたって不安は拭えません。

 が、今回の中国共産党の規制によって“情報技術産業を抑えようとする”動きを見るに、その心配は後退したと見るべきなのかもしれません。

 もっとも、情報技術産業に規制をかけた状態でも、情報技術自体は発展させられますけどね。

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