3話 現状維持
もうこれは好きだと勘付かれているのでは、と気が付いたタクタァは思い切って聞いてみた。
ロニを囲むご令嬢達の会話を聞いた限り、ロニは婚約者も恋人もいないようなので、好きな人がいるかどうかが最重要事項なのだ。
「......いるよ」
「どういった方でしょうか?」
(タイプとか聞いて、その人に近づけるようにしないと!)
声の震えからタクタァの緊張がロニにもわかった。
「明るくて気遣いが出来て笑顔が素敵な人だよ」
「ロニさんが好きになるってことはきっと素晴らしい方ですね」
(明るいは当てはまるかもだけど、それ以外は頑張らないとな)
相当恥ずかしい質問をしたあとなので、タクタァは次の一手に困り黙り込んでしまった。
「そろそろ帰ろうか、送っていくよ」
「ありがとうございます」
ロニが立ち上がったと同時にタクタァも立ち上がった。
夜の街を隣り合って歩いているとふいに手が触れた。
慌てて二人とも手を引っ込めた。
「ごめんね」
「いえ、こちらこそ......」
タクタァが横目で様子を窺うと、赤らんだ顔をしていた。
(ひょっとして、みゃ、脈アリ......?)
ロニの照れ顔を見て、タクタァは期待せざるを得なかった。
「好きです」
「えっ?!?!」
タクタァの呟きにロニが動揺した。
「あのカフェ、シフォンケーキが美味しくてよく行くんです」
にこやかな笑顔でタクタァは、行きつけのカフェをロニに紹介した。
「そ、そうなんだね。 僕も今度行ってみようかな」
(あ、危ない!! ロニさんは女性慣れしてないだけかもしれないし、早とちりはよくないよ! 何やってんの私の馬鹿!!!)
タクタァは内心、自分が告白しようとしたことに心臓が長距離を走った後のように脈打っている。
(焦っても何もいいことないし、うん。 まだそのときじゃない......)
((今はもう少しだけこのままで......))