第六十四話 弱者には弱者の強者には強者の戦い方がある 其の七
ふう。まあ、あの青い竜は放っておくとして・・・周りが邪魔だなぁ。
「残りの数が・・・おおよそ一体か。」
『数も数えられないのか?これだから愚民は。その黒ずくめの衣装もどうせ自分の醜い顔を見られたくないだけだろう?』
う~ん・・・。こいつ、ちょっとは強いと思ってたけど・・・仲間が死んだ気配も察知できないとはね。はっきり言って失望したなぁ・・・。八つ当たりの対象ぐらいにはなると思ったんだけどな。
『どうした?怖気づいたか?そうかわかったぞ!!自分の醜い顔を見られたくなくてそうやって無言を貫き通しているのだな?安心せい!我がお前を殺したらお前はその醜い顔とおさらばできるぞ?』
「はぁ・・・。」
『む?何が言いたい?』
「お前まだわかってなかったのか?」
『何をだ?』
「仲間・・・とっくの昔に死んでるぞ?」
『そんなわけがあるか!!こう見えてもこいつらは我の直属の部下だぞ!!!そう簡単に死ぬはずがな・・・・・なに!?』
千数百体の竜が今度は喉から派手に血しぶきをあげてべきゃぐちゃと汚い音を立てながら闇の渦に吸い込まれていく。
『ふ、ふざけるな!!?こんなの幻覚に決まっている!!!』
「幻覚じゃないに決まってるだろ?」
ス・・・と音も無く青い竜の後ろにまわり、首に漆黒の刃を突き付ける。
『な・・・!?』
「死ね。」
ピュッと首を搔っ切ろうとしたその時!
「よそ見はダメだよねぇ・・・。」
「っ!!?」
ガキィン!!という音が響く。
「誰だ?お前?」
「人に名前を聞くならまず自分から名乗ればぁ?」
「シドゥだ。」
本当に誰だこいつ?黒髪黒目の女。何だ?あの服?ネクタイに青と黒の・・・異世界の服のブレザー?とかいうやつか?・・・そして・・・かなりの胸部装甲を持っていらっしゃるな。見たところ大和撫子的な感じだが・・・まさか異世界人か?
「それ偽名だよねぇ?本当の名前は?」
「・・・・・」
どうしよう?本名言ったほうがいいかな?でもさぁ・・・得体のしれん奴に名乗りたくないしなぁ?
「だんまりかなぁ?ま、それでもいいけどさぁ。」
「いや、いいんだったら聞くなよ。」
「そういうわけにもいかないんだよねぇ。」
「へっ!俺の狙いはそこのカスドラゴン一体だけだ。さっさと殺させろ。」
「う~ん・・・。だめだねぇ。こんなやつでもまだ利用価値はあるからさぁ。」
「ふーん。ま、どうでもいいか。じゃあな。俺はまだやることがあるんだよ。」
「フフッ実は君に伝言があるんだよねぇ・・・。」
「ア”?」
「まあまあ、そう睨まないでよぉ。僕はただの伝言役。依頼主の正体なんか分からないんだからさぁ。」
「で?何だよ?」
「コホン・・・よう同胞。随分と久しぶりだな。覚えてるか?俺はお前とおんなじ奴に仕えていたものだ。まあ、覚えてるよな?だって俺たち仲間だったもんなあ?おっと、話がそれたな。話を戻そうか。お前の女は俺が預かった。返してほしくば俺に勝て。いやあ・・・。この女で何して遊ぼうかなあ?今から楽しみだよ。じゃあな。会えるのを楽しみに待っているぜえ。」
「・・・・・」
「こんな感じだよ?じゃあ僕はこれで。おっと、言い忘れてたけどさ、クリーナ?だっけ?の家も此処の数倍の規模のドラゴン部隊に襲わせてるからね?早くいったほうがいいんじゃない?」
「あいつらなら大丈夫だよ。さて、じゃあ俺も伝言をお前に頼もうか?」
「相応の対価を支払ってくれるんならいいよ?」
「(コマンド起動。影系中級魔法『シャドウ・ドライブ』。到達座標指定。起動。)」
フッ・・・と俺の姿がそこから消える。
「・・・え?どこ?どこどこ?は?え?いないんだけど?え?」
チャキッ・・・と異世界人(?)の首に深淵を閉じ込めたかのような刃が突き付けられた。
「・・・・・相応の対価か。そうだなぁ・・・お前の命とかどうだ?」
「い、いいよぉ。ほら、このままの姿勢でいいから言ってよぉ。」
「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。ってとこだな。」
「わ、分かった必ず伝えるよ。」
「ああ、よろしく頼む。」
今更気づいたが、此処の数倍の規模ってやばくないか?
「急がねえとだな・・・。」
『転移シマスカ?』
「よろしく。」
『デハ、転移魔法術式起動。転移系上級魔法『テレポート』展開。座標自動設定。起動。』
ヴォンッ・・・と俺の足元に青い魔法陣が現れる。
『転移開始』
そのまま俺の視界は青一色に包まれた。
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「ククククク。ハーッハッハッハッハッハ!!!!成程、あいつがそんなことを?面白い!!面白いなあ!!!」
コラシオン王国最南端に位置する森、その中にひっそりと佇む純白の城。その内のひときわ大きい部屋で、一人の女が笑っていた。
「首を洗って待っていろ。若しくは、俺がお前の首を切りやすいように長くして待っていてもいいぞ?まあ、それまでにお前が生きていたらの話だがな?・・・か。あいつもなかなかに面白いことを言う。そうは思わないか?オーガの巫女姫?いや、鬼人の姫よ?」
その女は自身の座っている椅子の近くにあるクリスタル、その中に全裸で入っている、エメラルドグリーンの髪色で頭に角が生えた鬼神の女性に語り掛ける。彼女は当然返事をしないし、目を開きもせずにつぶったままだ。
「はぁ・・・。手出しはしないといったんだがなあ?こんな魔力の塊で自分を覆ってしまうとはね・・・。まったく。頑固だなあ。」
コツコツコツと足音が響く。
「何だ?グライ?」
入ってきたのは赤髪の悪魔。グライだ。
「テオ様。例の物を・・・回収してきました。」
「ご苦労だったなグライ。」
「本当にあれが必要なのですか?テオ様?」
「フフフ。少し静かにしていろグライ。私は今、最高に楽しんでいるんだよ!!!」
「はぁ・・・。」
この漆黒の夜に純白に輝く城の中で深紅の悪魔が吐いたため息は、そっと闇に溶け込んでいった。