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大人がおもちゃ

作者: メイメイ

風俗業に関する記述がほんの少し登場します。性的描写は一切ありませんが、そういった話題を好まない方はご留意下さい。

夜も深まって家族の中で起きているのが私だけになると

別に皆に気を使っているワケではないのだけど

部屋の蛍光灯を消して代わりに夕日のような傘の色が

丁度良いぼんやり具合をかもし出す卓上ランプを付けて過ごす。

窓の外を時折車やバイクが通ると、運転している当人はきっと

全く気にしていないだろうけど、この静寂をガシャガシャと

街中を闊歩する怪獣のごとく壊す様子に私の方がハラハラしてしまう。

夜型人間の私には何の被害も無いけれど、起きてしまう子供や老人が

居てもおかしくない。どちらにせよ、結局私には関係ない事だけど。


部屋の明るさは卓上ランプとPCのモニターだけによってもたらされる

この時間帯は、実家暮らしの私に与えられた唯一の自由時間のように

思えた。実際のところは、小さいながらもこうして自分の部屋を

宛がわれているのだから、日中でも部屋の中で好き勝手にしようと

思えばいくらでもできるけど、私は何故か家族が起きている内は

部屋のドアを閉めずに過ごす事が多い。トイレへの通り道にある

この部屋は、誰かが通れば私がどうやって過ごしているかが

直ぐに分かるようになっている。その事に特にストレスを

感じた事は無い。それなのに、こうして部屋のドアを閉めて

照明を落としてしーんとしている時がとても素敵に思えた。


去年の今頃は、こういう時間のほとんどを一緒に費やした相手が居た。

メッセンジャーでチャットするか、電話で話すかして、とにかく

手段は何であれ夜通し朝が来るまで会話していた。そんなにたくさん

会話をしていたにも関わらず、会う機会も多く、会ってもまた

いつまでも限りなく二人で過ごす事ができた。かと言ってそれは、

私の恋人ではなかった。


人間の存在を定義付ける言葉はたくさんあるものの、

彼に当てはまるこれだ!と言う言葉はひとつも見つける事が

できなかった。毎晩のようにそれほど語り合うほどの仲だから、

親密だった事は確かだけど、その関係が無くなった今も私は

悲しみに涙する事もまた会いたいなぁ、おしゃべりしたいなぁ

などと思う事もなく、いたって普通に過ごしている。

もう、存在や思い出が夢や作り話だったとしても少しも感情が

揺るがないような自信もある。「あ、そう」で終われると思う。


そう考えると、やはり恋愛していたのでは無いようだと

遅ればせながら自覚している今日この頃だ。今後一切の会う機会を

経ったのも自分だし、自ら進んで会いたいとはこれっぽっちも思わない。

以前は早く会いたくて夜も眠らず朝早くから行動したりしていたのに

一体アレはなんだったんだろうか。当時私は自分のその行動を恋だとばかり

思っていたが、今考えるとそうではない事がはっきりと分かる。

一言で言うと、新しいおもちゃを与えられた子供だ。

初めて出会う形、色、香り、仕組み、仕掛けにはしゃいでいただけだ。

おもちゃの魅力を知り尽くすまではとにかくいぢり倒すが、全貌が

明らかになると一切の面白みが無くなってしまい、同時に愛情も消えうせる。


今の私は恋人と幸せに暮らしている。

本当に心の優しい彼で、純粋無垢な彼の行動や言動に逐一感激し

胸をきゅんとさせる。彼の事が大切、大好きと思えば思うほど

普通の暮らしが光り輝く。これが恋なんだぞ!思い知れ!と、どこか

上の方から正された気分だ。初めて二人で私のお手製の朝食を向き合って

食べた時、彼は突然押し黙ってぽろりと涙を見せた。驚いたけれど

彼の言いたい事は私には直ぐに分かった。こうして大好きな人と

朝ごはんが食べられるのが幸せなんだ。彼が今までどんな恋愛をしてきたのか

詳しくは知らないけれど、こういう幸せが自分にやって来た事を心から

喜んで、その喜びを噛み締めるように、決して急がずにゆっくり味わった

朝食だった。先に仕事で部屋を出て行った彼が、さっきはびっくりさせて

ごめんねとメールしてきた。そのメールを読んで私は何故か泣きそうになって

ずっとこの人に大切にされたいし、私もそうしたいなと心の奥底から思った。


実家のこの部屋でこうして過ごすのはかなり久しぶりだ。

もう起動する頻度も減ったメッセンジャーにはまだ、オフライン状態の

あの彼の名前があるが、物凄く自意識過剰で姑息なところのある彼の事だから

きっとログイン状態を私には隠しているかも知れない。

私はもう一切彼に関心が無いのに、もしまだ私と関わらないように

気を使っているのだとしたら少し気の毒だ。

小さいながらも毎日の事となれば多少ストレスになるはずだ。


先に彼をおもちゃに例えたが、果たして魅力を知り尽くした事が

興味を失った原因の全てだろうか?

世の中には、ロングセラー商品と言う物がある。

定番ゲームなんていうのもある。誰もが知っているルール、知っているアイテムを

用いているにも関わらず、根強いファンが後を絶たない。もしも魅力が本物の

普遍性を備えていたとしたら、おもちゃにも捨てられる事無く長い生存期間が

与えられるはずだ。以上から推測するに彼の魅力とは、何か機会があれば

ゴミと一緒に捨てられる程度のレベルだったと言う事になる。


思い返せば、随分翻弄されて危うくひどい目に会うところだった。

彼はとても自我が強く、音楽や映画の趣味は物凄く偏っていて

広くを受け入れようとしない様子だけで十分その人となりを語っていた。

拘った物への執着は激しく、またそれを他人へも押し付けるような節がある。

私もかなり色々な価値観や趣味を押し付けられ、面白そうなところは掻い摘んで

取り入れさせてもらったが、申し訳ないが一切興味が沸かない部分もあった。

またどこか人間的に欠落している部分があって、性や生や死について

人とはどこか違った見解を持っているように思えた。その点については、

私もどこかしらユニークな解釈の部分はあると自覚しているので

話ができないワケではなかったが、決して全てが一致する事は無かった。


以前お金に困っていた私へ彼がオナニークラブで働かないかと持ちかけた。

他人のオナニーを眺めているだけで良いお金が貰えるんだぞ、楽だろうと

さも名案のように提案してきたが、今思うと恐ろしく趣味が悪い。

いくら私が元デリバリーヘルスの店長だからと言って、自らをそこまで

落として暮らすつもりは無かったが、彼には店長業務とオナニー鑑賞の違いが

良く分からなかったようだ。まともに働いた経験が無いから仕方ないのか、

いいやきっとそういう事ではなく、私をはじめ他人を捉える姿勢や感情の

在り処に問題があったように思う。そんな事までさせたら可愛そうなんて

考えは宇宙の果てのどこかへ忘れてきてしまったような言いっぷりだった。

結局、自分では俺なりの生き方的な何かを曲げずにカッコよくしてるつもりが

多大にあるだろうが、実際のところはおかしな自分ルールから抜け出せないまま

変な歳の取り方をしている。恐らくこのままでは何もモノにしないまま

道端でのたれ死んでいても何の不思議も無い。また「あ、そう」だ。


遊び飽きたおもちゃを捨てる機会はあっさり訪れた。今の恋人との生活だ。

もう少し遊んであげてもよかったのだけれど、向こうは自分が

遊んでもらっている立場である事をどうやら理解していなかったようだ。

ある意味頭の良い人だとは思ったが、そういう自分に甘いところが残念だ。

ただ遊んでいた側の私に至っても、おもちゃを相手にしていた事にこうして

やっと最近気づいたのだから、そこは言いっこなしにしてあげるのも悪くない。

私にはもうゴミになるようなおもちゃは必要ない。

私もやっと、いつまでも飽きない王道のド真ん中を行く

長く愛されるであろう定番ゲームを手に入れたから。

最後までお読み頂き誠にありがとうございます。

初の投稿作品でがくぶるしていますが、

マイペースに増やして行きたいと思っております。

自分のコレがジャンルとしては何のの部類に入るのか

ピンと来なくて困っています。誰か親切な方が

いらっしゃいましたら教えて下さい。


この作品はほぼフィクションです。

つまり少しはノンフィクションです。

知人が読んだら実在の該当者が直ぐに

割れると思われますが、気にしない事にします。


グロいのや激しいのは得意ではありません。

ほわ〜んと、なんとなく何か分かったような気がする

みたいなノリのモノをこれからも目指して書きたいです。

ではまた会う日まで。

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