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5話 蠢めく世界

 戦端開かれたイストニア王国より遥か西、


遠く遠く遥か西、


その大陸は終わり、海を越え、


3つの大陸が、


北大陸、


中央大陸、


南大陸と、


列に並んで、それぞれの国を創っていた。


北に、北アトランティス。


中央に、中央アトランティス。


南に、南アトランティスと並んでいる。



北アトランティスの気候は、


北極圏にありながら、火山と地熱の影響で、


気温が高く雨も多い、熱帯雨林である。



対象的に、南アトランティスは、


赤道直下にありながら、大陸全土が永久凍土に覆われる。


不毛の地である。



理由は、


その大陸の主人、


氷河魔神シアンの影響である。



居城は、大陸の中心の山、


ゴッドマウンテンの頂きにある、


大神殿の中である。



この大陸には、神殿関係の施設しか無く、


商店も、神殿に使える者の為にある、変わった国だと言える。



最後に、


中央アトランティスは、


北の熱波と、南の寒波に挟まれ、


1年を通じて、穏やかな気候で、


常春の国と呼ばれる。



当然のようだが、住民も多く全てにおいて繁栄している。



巨大強国、


それが、中央アトランティスである。



軍事的には、世界最強であるのは間違いない。


が、


南の氷河魔神と、北に住む魔人に挟まれ、


軍を他国に対して向ける事が、出来ない現状だ。



それでも、


中央アトランティスは、


1年中、実り収穫し、豊かで裕福である。



北アトランティスは、


密林、つまりジャングルと、火山地帯で、


野獣や魔物で溢れた、およそ人間が住むのに適さない地で、


変わりに、


魔族や、鬼、魔人など、


世界の爪弾き者達が住む地。


人間もいるが、だいたいが逃亡者なのだ。



そんな、北アトランティスの最南端の港町ギャザ。



唯一栄えている街だが、治安は良くない。


その中の一件の酒場に、赤いローブの男が入って行った。



赤いローブの男はフードを深く被っており、顔はよく見えない。



空いている席に座り、周りを見ると、


客は、魔族が多く、鬼や魔人、さらに魔神もいた。



客の中で、彼が1番人間ぽかった。


注文を済まし待っていると、彼に近づき声を掛けてくる者がいた。


「よう、チビ人間。」


赤いローブの男は、またかと言う感じでその者を見た。



「なんだよ!たかが魔人のぶんざいで、お、俺とやろうって、


言うのか?」



彼はうんざりした様子だったが、


左手でやらない事を振って示した。



「だよなぁ!魔人が魔神に勝てる訳ねぇもんなぁ!」



随分と酔っ払っている鳥人系の魔神は、


手に持っているジョッキの酒を、


目の前の男に掛けようとした瞬間、


魔神の飲み仲間の魔神が、


その者をブッ飛ばし止めた。



「すいません、コイツ飲み過ぎたみたいで、


よく礼儀を教えて置きますんで、どうかご勘弁を、」



赤いローブの男は、再び無言で、左手で去れと振った。



「はい、行きます!申し訳ない。ほら行くぞ!」



その魔神は、ブッ飛ばした魔神に肩を貸して急ぎ、


店の外へ出て行った。



外では、酔っ払いの声が響いている。



「何でなんだぁよぅ!、あいつは、魔人だろぉ?」



「あの方は、特別なんだ!下手すれば瞬殺されるぞ!」



「魔人の力なんかぁ〜魔神に勝るものかぁ〜」



「頼むから、その口を閉じてくれ!俺は、まだ死にたくない!」



仲間の真剣な顔を見て、



「何なんだぁあいつはぁ〜」


「後で教える。」


ようやく口を閉じた。




店内のその男は、注文した酒を飲み干すと、


周りを見渡し、それから店を出て行った。



その赤ローブの男は、炎のオーラを纏い、


そのまま空へ飛び出し、


空気の壁を打ち抜き、轟音立てながら、


北大陸の中心に向かって行った。



そこには、


死の火山、デスマウンテンがある。



赤ローブの男は、その火口へ入って行く。


その中の壁に城門があり、山腹の城の入り口になっており、


そこに降り立ち、城門に向かって右手をかざした。



すると、


城門は動き出し、城内の灯りが溢れ出す。



そこには、給餌服を着た1人の少女が立っていた。


とは言え人間ではない。


その姿は、人と変わらないが、額から2つの角が生えている。



「朱鬼!帰ったぞ!」


「お帰りなさいませ主上様。


さっそくで申し訳ございませんが、


主人ラーミア様が、お会いしたいとの事です。」


「わかったすぐ行く。」


赤いローブの男は、城内に入って行き、


頭を下げていた朱鬼は、顔を上げ、開かれた城門に手をかざし、


その門を閉じた。



デスマウンテンの山腹の城、その最も見晴らしの良い部屋、


ラーミアの部屋に、赤いローブの男は現れた。


「戻った、ラーミア。」


「カクーは、ずるい!」


紅玉のような赤い瞳の美少女は、


人間の年齢なら17歳くらいの見た目、髪も赤く光り輝くよう、


その巻き髪は上向きにハネ、腰まで伸びた髪は炎のようである。



ずるい、と言われたカクーは、少し困り顔で、


ラーミアは、それを見て苦笑している。



「すまんラーミア。


2人で何処にでも行ける世界を早く創りたいのだが、、」


「良いの、急ぐ必要は無いもの。」


「それで、お外は、いかがでした?」



「うん、いつもどうりだったが、奴の手下が入り込んでいた。」



「まぁ奴だなんて、シアン様は、


あなたのことが心配なんですよ。」



「何を心配しているのか。」


「入り込んだ手下は、どのような者でした?」


「女だ、銀髪の長い、酔っ払い女だ。


あれで仕事をしているのか疑問だが。」



「まぁ女の人、、」



「失礼します。お茶とお菓子をお持ちしました。」


そこに朱鬼が、入って来た。


「ありがとう。さあ朱鬼も座って、一緒にお茶しましょう。」


「はあ、よろしいのですか?」



「そうしろ。」


子供のいない、2人にとって、朱鬼は娘のような者だった。



しかし、


生真面目な朱鬼は、あくまで使用人の立場であろうとしている。


だが、2人の気持ちも理解しようとしている為、



「では、わかりました。」



そう言って、ラーミアの隣に座った。



3人は、しばらく談笑していたが、


ラーミアが本題を話し始めた。


「カクー?いい?」


「?」


「風が動き始めました。」


「何!風のフォルクロアがか?」


「はい。」


「あのぉ、フォルクロアとは、何ですか?」


朱鬼は疑問を口にした。


カクーは、胸を張り得意げに言う。



「俺が創った、進化の秘宝のカケラだ!」



「あの詩にある、魔人の生みし太陽ですか?


カケラって、幾つくらいあるんですか?」



「まぁ、160億個位だろう。」



「えっ!そんなに、」



「ふふ、だが、なかなか見つかる物ではない。


あれらには、意志のようなものがある。


その力に呼応する者にしか、見つける事は出来ないだろう。」



「意志?ですか?アイテムなのに?」



「まぁ完全な意志ではない。


そのフォルクロアを使えそうな者に、自らの存在を明かし、


そうでない者からは、存在を隠す性質のようなものがある。」



「なるほど、じゃあなぜフォルクロアなのですか?」



「ふふふ、ゴロがいいからだ!」



「相変わらずでしょう、カクーのネーミングセンスは、


朱鬼ちゃんも、もっといい名前にしてもらったら良いのに。」



ラーミアの言葉に、耳を真っ赤にしているカクーだが、


朱鬼は、気遣いだろうか、



「ラーミア様、私はこの名前で、いいのです。


それから、カクー様?太陽は、なぜカケラになったのですか?」



話題を逸らした。



「それはな、あ奴が、ぶっ壊したんだ。嫌がらせで。」



「またカクーたら、


朱鬼ちゃん、シアン様は、嫌がらせで破壊した訳じゃないのよ、


神の法に則り、罪がカクーに及ばないように、そうしたのです。」



「俺は、かまわんかったがな!あんにゃろう壊しやがった。」



さすがに、朱鬼も苦笑いしている。


ラーミアは、脱線し続ける話題を、本題に戻した。



「カクー?風が動き始めたのだけど?」


「おっ!そうだった。2人には、悪いが少し出てくる。」



カクーは、席を立ち赤いローブをひる返し部屋を出て行った。



「何も格好つけなくてもいいのにね、


朱鬼ちゃんもそう思わない?」



「カクー様は、ラーミア様に格好いい何処を見せたいのでは?」



「でもねぇ、一万年も一緒にいるのに、今更って思うわ。」



身も蓋もないと思うが、あえて口にすまいと心で言う、


朱鬼である。



その、デスマウンテンよりずっと南の港町、ギャザ、


先程カクーが入った酒場の店内で、


銀髪で膝裏まで伸びたロングストレート、


顔は本来美人であろうが、今は泥酔してグダグダである。



周りの悪党どもから憐れみの目で見られている程に。


そんな彼女が、突然、もの凄い勢いで立ち上がり、


トイレに駆け込んだ。



すると当然、聴きたくない音がする。



おーうぇ、ゴボゴボボト、おーうぇ、ゴボゴボボト。



そんな中、彼女に通信魔術、念話、が届いた。


、、聴こえていますか?報告の時刻は、とうに過ぎていますよ、、



この声は、周りには聞こえない。


トイレの中から聞こえる声は、


周りには泥酔した女の1人言にしか思われない。



「報告うぇしますうぷ、ぅうぅあの魔人は、動くようぅぷすが、


ありませんんゲバゲバゲフ!」



、、あなた、、飲みましたね、お酒を、、、、



しばらくの沈黙の後、



「のんれませんよ!」



明らかに、バレバレである。



、、あなたに命じます。あの魔人は動き始めました。、、


、、速やかに、


風のフォルクロアの持ち主ドリファンを見つけ出し、


彼を護りなさい。、、



、、ただし、あなたの正体を明かさぬように、、、


、、もしバレたら、お仕置きです。、、



「ゲフ、ヤ〜ダ〜、お仕置き、ヤ〜ダ〜」


その時、


女の頭上に、金色の魔法陣が現れ、小さな金色の光りの粒が、


粉雪のように降り注ぐと、



彼女は、素早く直立不動の姿勢をとり、身体を直角に頭を下げて、



「も、申し訳ございません!直ちに任務に入ります!」



解毒され、酔いが覚めた彼女の顔色は、酔っていた時より、


さらに、青くなっていた。


、、くれぐれも内密に事を進めなさい。、、



「はっ!風のフォルクロアの持ち主を探し出し、護衛します!」



、、頼みましたよ。、、



しばらくして通信は切れた。


真っ青な顔の女は、トイレから駆け出し、


テーブルに金貨10枚を置き、猛然と店を出て行った。



とうとう限界を超えたのだと、店の中者全員、


憐れな者を見る目で、見送った。



この世界の通貨は貨幣のみで、最小価値のストーンから始まる。


地方により呼び名は変われど、


10ストーンで銅貨1枚、


銅貨100枚で、銀貨1枚、


銀貨10枚で、金貨1枚と、成っていく。



この店の酒の値段は、一杯が平均5ストーンなのだから、


途方もない程飲んだのは、間違いない。


迷惑料を差し引いても。



その女は、銀髪振り乱し港町を爆走し、


出港間際の船に飛び乗り、東に向かった。




そして、


港町ギャザから少し離れた、南の大陸、


中央アトランティスでも、


王宮内で、動き始めた。



白い大理石に、黄金を惜しげもなく装飾し、


絢爛豪華を極めた王宮。


その玉座に美女達を侍らせ、くつろぐ王。



アレス、二つ名は、軍神。



中央アトランティスを統治して千年、絶対主君である。



王の楽しみを妨げたのは、大臣の報告であった。



「陛下、かの魔人が、東に向かったとの連絡がありました。」



「なんだと?」



王の、美酒の入った杯の手が止まる。


大臣は、不適な提案を喜び話し出した。


「軍部からの提案ですが、


今こそ北を攻め取る時、との事で、ございます。」



「却下だ。」



美女達を驚かせないよう、静かに答えたが、


その笑顔に暖かさは無い。



「陛下、もしよろしければ、御心を御教授ください。」



大臣は、頭を深く下げて教えを受けた。



「かの魔人は、少し変わっていてな、


自身への攻撃には、ほとんど怒らないのだがな、


身内に犠牲が出ると、激怒する。


かつて世界を滅ぼしかけた程だ。」



見た目も美しい二十代に見える男は、年老いた大臣にそう話す。



「陛下、私の聞き覚えない事柄ゆえ、お教えください。」



再び大臣は、頭を下げる。


王は語る。



「無理からぬ事だ、大臣、歴史に刻まれる以前の話しだからな。」



「いったい、どれ程の昔でしょうか?」



「一万年は、さかのぼる、繁栄を極めし我ら超神族の御代、


神々の世界。


それを、


あの魔人は滅ぼした。 


おかげで、月に有った我が軍本部は、消滅、


火星宙域に配備した我が宇宙艦隊は、壊滅し、


俺は、丸裸になったわ。」



大臣には、訳が分からない話しではあったが、


王の懐かしそうな顔を見て、深く聞く事は避けた。



「陛下、かの魔人は世界を滅ぼす程の力があるのですか?」



「正確には、暴走した魔人と、


南アトランティスの主、魔神シアンが、激突した結果だ。


あの者どもの、戦いによって、世界の9割以上が、灰となった。」



玉座の若々しい不老者は、苦笑いしながら答える、


大臣は、改めて自国の置かれた状況に、絶句した。



「大臣よ、直ちにシェルターの点検にかかり、


防衛強化体制をとれ。」



「はい、直ちに取り掛かります。」



緊張気味の大臣は、急ぎ王宮を後にした。



その頃、そこより遥か東、


聖イストニア王国の北西、魔国バゼルでも、


動き始めた。



「魔王様、かの魔人に動きが、」



「感じておる。忌々しい弟弟子め。


イストニアの、ゼガホーンとダークフルキスに、


あの魔人と遭遇しても、戦うなと、命じるのだ。」



「はっ!かしこまりました!」



そして、魔王城の地下深く、


球状の封印術に囚われている美しい女性は、


膝をつき手を合わせ、祈り続けており、


それを見つめる、面付きの鎧を装備した黒騎士がいた。



また、


遠く離れた、イストニアのシャウリン領の南の外側、


切り立つ岩の並ぶ平原、


その中に、人の手により円形に並べられた岩があり、


中心に円筒形の岩が聳え立つ、


そこに、白いローブの男がフードを深く被り、


顔を隠し立っていた。



しばらくすると、フード付き迷彩マントの男が、


その前に跪く、


男は、報告を始めた。



「枢機卿、例の者があの森を出ました。」


「それで?」


「はっ!現在カゲ様が、暗殺を試みています。」


「うむ。」


と、その時、話しに上がったカゲが、現れた。


「申し訳ございません、暗殺は、出来ませんでした。」


「で?」


「はい!あの者の力は、危険であると判断します。」


「ならば、次の手を、打つしかないな。」



そう言い残し、中心の柱の様な岩の中に溶け込むように、


その枢機卿と呼ばれる男は、消えて行った。



さらに、


王都と、シャウリン領の中間辺りにある、中央諸都市と呼ばれる、


イストニア王国最大の都市群から、少し北側にある森、


迷いの森と呼ばれるその場所に、


夜空を眺める美少女がいた。


黒髪の長い彼女は、天空の星々を読み、


世界の動きを探っているのだ。



「困ったものね、私も巻き込まれる事になりそうね。」



1人呟く彼女、あるいは、近くに控える使い魔達に言ったのかは、


定かではない。




こうして、


本人ドリファンの預かり知らない何処で、


世界が動き始めたのだった。



 5話 完

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