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4話 魔王軍襲来

 

 日は高く、陽光射し込む木々枝葉、


木漏れ日が頬にあたり気持ちいいはずが、


どこか浮かない。



理由は簡単、


自身の膝の上に頭を乗せている、


黒髪で横にツンツン頭の森の少年、


そうドリファンが、


まだ、目覚めないからだ。



朝から昼まで寝ているのだから、


そろそろ起きてもいいと思う彼女は、


飽きずに平凡な顔の隅々まで見ていると、


やっと目覚めた。



「ドリファン大丈夫?」


「ミン?」



逆さに見える彼女の顔に理解しようと考え始め、


徐々に覚醒すると、



「ぅわっ!」



飛び起きた。



「何よ、失礼ねぇ〜」



ドリファンは、理由も分からずドキドキしていた。



「何?ドリファン?」


「本当に着いてくるの?」


「そうよ。」



「大丈夫?家とか?」


「大丈夫よ〜たぶん、、」


「お母様達は、味方してくれてるし。」



「ゼンさんは?」


「パパは、ダメね!目覚めたら物凄い勢いで、追ってきそう。」



そう言ったら、身震いした。



「ドリファン急ごう!」


「どこへ?」


「王都よ!」


「王都?何しに?」


「ほら!何も知らないんだから〜。」


「?」


「身分を証明する旅券を持ってないと、トラブルの元よ。」


「?」


「イストニア王国では、旅券の発行の出来るの所は王都だけよ。」


「そうなんだぁ」


「だから、とりあえず急ぎましょう!」


「わかった。」


2人は、王都を目指して旅立った。





イストニア王国の、ほぼ中心にある太湖ターニア。



それは海と見間違う程。



その北のほとりに、王都イストニア城がある。



王都は、城塞都市であり、高い城壁の中に町が広がる。



都市中心に王城が座す。



しかしながら当然、本来の王都とは様子が違う。



そう、


まもなく襲来して来る魔王軍から逃れるため、


王侯貴族から、ただの市民まで、持てる家財を持って、


必死に北の森を目指していた。


大混乱を伴って。



「ひどいものね。」


そう呟くのは、ダマリアに虜囚になると言われた姫。



「まったくです。」


そう答えたのは、ダマリアに飛び掛かろうとした赤い鎧の騎士。



「魔王軍が迫って来れば致し方ないと思います。」


そう言うのは、姫の付き人。



「やはり南側は、見捨てられてるわね。」



「貧民街ですね。スホミュラ様。」



「わたし達だけの時は、メーリンと呼んで、リンザ。」


「あっ、つい、メーリン様。」



「アズもそうしてくださいね。」


「はいメーリン様」



「本当は、様も付けなくていいのですけど。」


「さすがにそれは、」



姫の名は、スホミュラ・グランダード・イース。



また、以前は、メーリン・グランダードであったが、


先代国王によって、スホミュラの名を与えられた。



「で、わたし達は、動きますか?」



そう聞く女騎士、リンザ・キス・ワンパは、


メーリンの信頼する副将であり、王宮に来てからの友人である。



付き人のアズは、メーリンが王宮に上がる前からの幼馴染である。



「部隊を2つに分けます。」



「1隊は私と、南町に行き、


逃げ遅れた人達の避難誘導をします。」



「もう1隊は、リンザが指揮して城門の扉を開けてください。」



「はっ!」



「北は空いているでしょう、王宮、東、最後が西です。」


「了解です」」



「アズは、南町の人達の避難先を、


貴族達から離れた所に用意してください。」



「わかりました。」



2人の顔を見て、メーリンは頷いた。



「では始めましょう。」




3人は、それぞれの場所に向かった。




メーリンとアズは、南町貧民街の出身である。



メーリンは、正真正銘いまの国王の娘であるが、


彼女が産まれた頃、幼い王子、王女達が、


相次ぐ不審死に見舞われたため、


聡明なメーリンの母は、


それが暗殺によるものと気づき、


すぐさま、第一近衛師団団長ギルメーヤの協力を得て、


逃げのびたのである。



暗殺の魔の手から逃れるため、実家に帰る事は出来ず、


王都の南町貧民街に隠れて暮らしていた。



やがて、


その母も病に倒れ亡くし、12歳の頃、


先代国王、つまり祖父に見つけ出され王宮に戻った。



しかしながら、


育ちの悪さか、王宮暮らしは、肌に合わないと言い、


王立学院に入り、勉学に励む事とした。



本人の希望通りにならず、


全課程5年のところ、わずか2年で首席で卒業したのである。



いや、してしまったのである。




その天才ぶりに、先代国王は、大いに気に入り、


スホミュラの名を与えた。



しかし、


それが一番上の兄の、


妻か補佐になる意味があると知ったメーリンは、


城を飛び出した。



14歳の時である。



以来2年間、姿を眩ました。



当然の事ながら、捜索隊も組織されたのだが、


効果もなく、


親友の、リンザとアズは当然、後を追った。



リンザは、大将軍ドン・ワンパの娘で、


母は王族キス家の人間、


したがってリンザは、王族である。



リンザまで、王都を出てしまって、


王宮内は、ちょっとした騒ぎになったのだった。




結局、


2人がメーリンを見つけたのは、


同盟国の窮地を救った英雄として、聖騎士団領教皇より、


聖女騎士ホーリーナイトの叙任式の最中だった。



2人はびっくり仰天、


「いったいどうしたら!こうなるんですか!」



リンザは、当然叫ぶが、メーリンは軽く返す。



「ちょっと、大冒険をしただけですよ。」



長年の付き合いのアズは、諦めているようで、



「はぁ、、メーリン様、普通、大冒険は、


ちょっとで、するようなものでは、ないですよ、、はぁ、」



詳しい事は教えてもらえず、逆に2人のここまでの旅の話しを、


聞き楽しんでいた。



2人の疑問はまだあった。



そもそも、


どこで剣技を学んだのかと。


多くの疑問を残しつつ、王都に帰還したのだが、


噂は王都にも広がり、民衆からの歓呼の嵐をもって、


迎えられた。



そのため、


厳罰を用意していた王室も、


家出を不問とするしかなくなった。


イストニア王国、始まって以来の、


とんでも姫、


それが、


メーリンである。



そのメーリンは、逃げ遅れた人々を、


部隊の兵と共に、自らも避難誘導をして、


全体としても、順調に進んでいた。



そして、


リンザの方も、順調に城門を開いていった。


最後の西の城門を開いてしばらくすると、


西の空の暗雲と共に、


大地から土煙りが迫って来るのが見えて来た。



「いよいよね、、、。」


魔王軍の襲来である。



「わたし達も撤収するわよ!あなた達は、この事を報告!」



リンザは数名の兵士に指示を出して、全員で撤退した。






遠く砂塵の中から、


イストニア王都城門を注視する者がいる。



ミノタウロスロード、ゼガホーン、



魔王軍、イストニア侵攻軍総大将である。



今は、人化している。



2メートルほどの大男にだが、肌の色も人と変わりは無い。



そのゼガホーンは、全軍の進行を止めた。



「なぜ?城門が開いている?」



「急ぎダークフルキスを呼べ!」


「はっ!」



牛人の部下は、


少し後方の魔道部隊、隊長兼、参謀長の元に走った。



やがて、その参謀長はやって来て、


ゼガホーンの横に、馬を寄せて止まった。



ゼガホーン自身は、牛車に据えた玉座に座っている。




「どう見るフルキス?」



「うむ、3つ考えられるな。」



元来ゼガホーンは、策謀を嫌う愚直武人であるが、


唯一ダークフルキスの言葉は、聞き入れられる。



と言うのも、


彼は、同じ魔王軍三大将軍の1人であり、


武勇に優れた剣の達人でもあるからだ。



そのせいか気も合い、よく共に戦って、


互いに認め合う戦友でもあるため彼の言葉には、


聞く耳を持つのだ。



「3つか。」



「そうだ。 1つは、我らに恐れをなし門も閉めずに逃げたか。」



「そうだな。」



「もう1つは、我らを引き入れ叩く用意がある。」



「罠か。」



「もう1つも、罠だ。無人にして我らを引き入れた後、


都市ごと爆破して抹殺を企んでいるかだ。」



「うむ。しかし、それは、我らの目的も達成するな。」



「そうだ、しかしこれは、可能性は低いだろう。」



「たしかにな。」



自らの王都を破壊するなど考えにくいと、ゼガホーンも結論した。



「ゴブリン共から、斥候を出せ!」



牛人の部下に指示を出した。



ゴブリンの斥候は、5匹1組で、10組が派遣された。



西門から入って行き、それぞれに散った。



小1時間、


それから斥候は戻って来た。



その報告を受けた2人は、更に判断に迷った。



「誰もいないだと?」



「まさかな。しかし念の為だ、内から探索隊を出そう。」



「うむ。頼めるか?」



「今はお前の副将だ、気遣い無用だ。」



「うむ、頼む。」



参謀長は、配下の魔法士を探索に送った。



探知魔法を使い、隅々まで探したが、


何も発見出来なかったのだが、当然と言えば当然である。




姫の悪戯は功を奏していた。




ゼガホーンは用心深く、ゴブリンの斥候と、トロール兵を、


王都に入れ、


その後、


自らが入った。



その頃には、北の森の迎撃体制は整っていた。





イストニア側は、順調に事を進めていたが、


予期せぬ偶然か、


1つの、事件が起きていた。




スホミュラ姫の失踪事件である。




しかし、王室側は、これを無視した。



今は、それどころでは無い、


と、


また、


またこの姫か、と、



ただ、


ただ1人、第一王子のミュラ・キス・イースだけが、


捜索を主張したが、


王室内での評価の低いミュラ王子では、主張は通らなかった。


また、


第7騎士団の団長であり、防衛戦の任務を命じられ、


自身は動けず、信頼のおける部下数名を派遣する事しか、


出来なかった。


しばらくして、ミュラ王子に届いた報告には、


王都北門から、北の森の間で、戦闘の痕跡が残っており、


また、


姫の他にも、町民数名と、騎士リンザ・キス・ワンパも、


消息がわからなくなっていた。


「従姉妹殿、もか、、、。」


「嫌な予感がする。引き続き捜索頼む。」


「はっ!」


ミュラ王子は、己の非才を嘆きつつ、夜空を眺めながら、


2人の無事を祈る事しか出来なかった。



その頃、


イストニア城の王室にたどり着いた、魔王軍総大将は、


イストニア王マーラー・タナ・イースと対面した。



「やってくれたな、王よ! 見事に足止めされたわ!」



マーラー王は、何の事か分からず、身震いした。



「まぁ良いわ! お前の首を貰うとしよう!」



震える王の胸ぐらを掴もうとしたところ、


魔法的障壁によって、阻まれた。



「何!」


もう一度試みたが、


やはり、触れることができない。



ゼガホーンは、自身の武器の大斧で、


力を込めて、


王の頭部めがけて、振り下ろした。


王は恐怖し、手で守ろうとしたが、


その障壁により、先程より強い力で跳ね返された。



苦虫を噛み潰した様な顔のゼガホーンは、叫ぶ。


「ダークフルキスを呼べ!」



マーラー王は、ダマリアの護符の効果を知り少し安堵した。



呼び出された参謀長は、その障壁を調べて、


それが、王の護符の効果だと、教えて言った。



「あの護符は、1年の間、その者を守る力がある。」



「うむ、1年か、長いな。」



さらに解析鑑定を、ダークフルキスは始めた。



「これは、最近作られたものだぞ!」


「本当か!この伝説級が!」



「まさか、ダマリアが、、作ったものだと、、」


「何!、、本当に存在していたのか、、俺は、空想上の者だと、


思っていたぞ!」



「俺も、ソーサルキングダムの偶像だと、、」


「しかし、魔王様が、イストニアに居るかもしれないから、


注意せよ。と、仰っていたが、冗談ではなかったのか。」



「それは本当か!むぅぅ、面倒な事になりそうだなフルキス。」



「しかし、護符は、打破る事は出来んが、


効果期間を短くする事なら、出来るぞ。」



「本当か!どれくらいだ!」



「うむ、約6カ月縮められそうだ。」



「それで十分だ!任せる!」



「了解だ。魔術士達を集めるとしよう。」


マントを翻しダークフルキスは、戻って行った。




ゼガホーンは、イストニア城の城門すべてを閉めるよう命じ、


国王は、イストニア城の北の塔の最上階に幽閉して、


その塔で、魔術儀式を行う事とし、


自身は、王宮の玉座に座って指揮をとる事にした。



そして、そのようになった。




一方、北の森では、



ゴブリンの斥候部隊との、小規模な戦闘が始まっていたのだが、


準備の整っていたイストニア軍は、快勝を続けており、


多くの将兵達は、楽観視していたが、


ただ、数名が、これからの状況に懸念していた。



その1人は、大将軍ドン・ワンパ、リンザの父である。


「うん、まずいなこれは、」


「たしかに、」


同意したのは、第一近衛騎士団団長ギルメーヤであり、


「たしかに、まずいですね。」


もう1人は、第二王子アリオス・ウル・イースであった。



彼は、王宮内での評価が高く、貴族達からの信頼も高い。



彼は、王立学院を、妹に首席を取られ次席で卒業したものの、


多くの貴族達には、


理性的で合理的な現実主義のアリオス王子の方が、


天才とは言え、奇行の目立つスホミュラ姫や、


才能カケラも見えない、ミュラ王子より、


王に相応わしいと推す声が上がっていた。



王侯貴族の中では。



「ほう、アリオス王子にも分かりますか。」


ドン・ワンパは、この王子をあまり好きではない。


その事は、王子も知っている。



「はい大将軍。」


「ワンパ殿、、」


ギルメーヤは、中立たろうと努力して大将軍を諌めようとしたが、


実の所、彼もこの王子は好きではない。



「では聞こう。」



「はい。1つには、ゴブリンの斥候に勝利し浮かれ過ぎな事、


本番はこれから、重装甲トロール兵、


その時、


士気が挫かれる恐れがある事。」



「ふむ、他は?」


「はい、あと1つは、ゴブリンの斥候の生き残りから漏れる、


こちらの体制です。


これにより、対策を立てて襲撃される危険があります。」



「さすがです!アリオス王子!」


ギルメーヤが、間に入った。



「ふん、まあまあじゃな。」


大将軍の採点は、からい。



大将軍と王子の衝突を避けるためには、


不本意ながらも、仲を取り持つ気苦労の多いギルメーヤである。



大将軍ドン・ワンパは、魔王軍の意図を計り予ねていた。


自身なら、


重装甲トロール兵20万の大群で、一気に攻めるからだ。


たとえ地形の利と備えがあろうとも、



なのに何故攻めてこない?



イストニアの大将軍は、大いに悩んでいたが、


と、同時に体制を強化する策を考えていた。



「今の内じゃな。」


「そうですね。」



このやりとりで、王子も気付いた。


「なるほど、私も協力出来そうです。


さっそく根回しを始める事としましょう。」



「それは心強い。」


ギルメーヤは、感謝を表し、


「うむ。」


大将軍は同意した。



そのイストニアの将たちは、


暗雲垂れこむ、固く門を閉じたイストニア城を見ながら、


それぞれ、今後の対策を思案していた。



それからして、


1日目の夜が明けた。



     第4話 終わり。




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